レベル173 不安と問題の解消と、自分の願望をかなえるために
「そりゃそうだけどさ」
言いたい事は分かった。
彼らの心配ももっともである。
「けど、それを言い出したら何も出来ないぞ」
それがトオルの言い分だった。
トモノリの一族や近隣の領主に、指導員の派遣とその説明を伝えたその後。
返ってきた質問や返信には、一様に同じ事が書かれていた。
『素材の運搬には危険が伴うので、引き取りに来てほしい』
文面や言葉は幾らか差があるが、概ねこの内容に変わりはなかった。
気持ちは分かる。
心配はごもっともだ。
村の中で取引出来れば、余計な危険を省く事は出来る。
しかし、それでは成り立たないからこうしてる。
ただ、襲われる可能性を考えると無理も言えない。
道にはモンスター除けを設置してはいるが、それも確実とは言えない。
もう少し数を増やせれば変わってくるのだろうが、それもなかなかままならない。
それらの制作と維持は近所の神社が受け持っている。
しかし、人手の慢性的な不足で、必要な数を揃える事も難しい。
トオル達が採取した素材を用いる事で、かなり効率が上がってはいるようだが。
村と村の間をつなぐ道に設置しようとしたら、更なる労力を必要とするだろう。
(魔術師がいないのがなあ……)
圧倒的な人材不足が問題の根源だった。
魔術師の育成自体は行っている。
トオルの所でも、半年に一人か二人ほどであるが、希望者を神社に送って修行させている。
また、トモノリの所でも、兵士達に同様の修行をさせている。
こちらは人数の都合でそれほど多くはないが、各村に一人を配置していた。
これを拡大させる必要があるかもしれなかった。
先々の事を考えれば、魔術の心得のある者が増えた方が楽になる。
モンスターが押し寄せた場合の対抗手段になるし、日々の生活でも役立つ場面がある。
何より、モンスター除けの設置や維持に役立つ。
モンスター除けを作るのには、魔術的な技術が必要らしいので簡単にはいかない。
しかし、作ったモンスター除けに魔力(MPにあたるものらしい)を注入するのは割と簡単らしい。
作成したモンスター除けは、そう簡単に壊れるようなものではないので、設置さえすれば効果を継続させる事が出来る。
ただ、簡単とはいえ、あくまで製作するのに比べればである。
魔力の補充にはそれなりの消耗が伴う。
十分な効果を発揮させようとすれば、何度か重ねての注入が必要となる。
そういった消費や消耗もあるので、数多く作っても維持が難しい。
だが、魔術師の数が増えればそこは解消出来る。
モンスター除けの増加はそれほどでもなくても、稼働してる物が増えれば効果範囲を拡げる事が出来る。
その為にも、魔術師を更に増やす事が急務になりそうだった。
最初は維持だけでもよい。
いずれレベルが上がれば、モンスター除けの作成も可能になるだろう。
先の話だが、それを見越しての事でもある。
「そんなわけで頼む」
家に帰ったトオルは、サツキに手を合わせて頭を下げた。
「はあ……」
「モンスター退治よりは危険がないから、手伝ってくれ」
「それは、構いませんけど」
急な事なので、サツキも困惑してる。
「でも、私で作れますかね?」
「そこは神社に相談してみないと分からないけど」
トオルも魔術については全く分からないので、上手く出来るか分からない。
「でも、もし出来るなら、そっちを頑張ってもらいたいんだ」
「モンスターの方はどうするんですか」
「そっちは、何とかする」
はっきりと断定出来ないのが辛い。
魔術師の有無で戦果が確実に変わってくる。
手間も格段に違う。
「でも、前に出なくていいから、こっちを優先してもらいたい」
「そんなに急ぐの?」
「出来るだけ早めたい」
それだけが理由ではないが、急ぐ事も理由の一つである。
「モンスター除けが作れるなら、そっちに専念してくれ」
最も身近にいる高レベルの魔術師のサツキ。
彼女には、モンスター除けの作成にうつってもらいたかった。
今は、それが出来る者が一人でも多く欲しかった。
本音を言えば。
危ないモンスター退治ではなく、危険の少ない仕事に移ってもらいたいだけである。
実利もあるが、それがトオルの願いでもあった。
代わりの魔術師をどうにかしなくてはならないが。
(新人を育ててくしかないな)
少しばかり計画が遅れるだろうが、こればかりは仕方がない。
当然ながら、サツキの分の稼ぎが減るが、これも仕方が無い。
それくらいはどうにかしようと思っい、決意を新たにする。
とはいえ、いきなり収入が無くなるのもきつい。
トモノリに話して、モンスター除けの作成で報酬が貰えるよう頼んでみるつもりだった。
その前に、神社にモンスター除けの作成が出来るかどうか確認せねばならないが。
なんだかんだで、話しをまとめるために、もう少し時間をかける事になりそうだった。
続きを明日の7:00に投稿予定




