レベル23 思いもがけない者がやってきて困惑します
「よっ…………と」
いつも通りにマシェットを振りおろす。
再びはじまった週末モンスター退治は、いつも通りにおびき寄せによる一方的な攻撃に終始している。
一人でやってるためにどうしてもこうせざるえない。
こうして一日を費やして二千銅貨ほどの稼ぎを確保する。
これも仕方ないと思いつつも、やはり悲しいものがある。
「あんだけ稼げたのになあ」
色々と想定外もあって思ったほど稼げなかったと思っていたが。
こうして週末繰り出していると、とてつもなく稼いでいたんだと実感する。
「せめて、あと一人いてくれたら」
解体だけでも誰かがやってくれればかなりはかどるのに、と思ってしまう。
実際、それだけで二倍三倍はいける自信があった。
だが、一人ではどうしようもない。
やむなくトオルは、いつも通りに解体を始めていく。
今日も一日五十匹いくかどうか。
手間のかかる解体作業にため息を吐く。
もちろん、手をこまねいているわけではない。
一応適切な人間がいないかは聞いている。
所属してる周旋屋に、要望を伝えて適任がいないかを探してもらっているのだ。
しかし、そうそう思い通りに事が運ぶわけもない。
「駄目だなあ」
周旋屋の親父の言葉は、毎度聞き飽きたものだった。
「お前さんのいう条件にあう奴なんて、やっぱりいねえよ」
「だよなあ」
分かってはいても落胆してしまう。
それほど高い要求は出してはいない。
ただ、真面目に仕事をしてくれる人間、というのを求めていた。
素材を盗んだり、変な難癖つけて分け前を増やそうとしたり。
そんな事をしない人間であればいいと考えていた。
しかし、そんな人間がなかなか見つからない。
いない事はないのだが、作業内容を聞いて尻込みする者がほとんどだった。
「さすがに、モンスター退治に出かけるってなるとな」
「戦闘はしなくていいんだけどなあ」
「だからって絶対じゃないだろ。
万が一襲われたらどうすんだ」
受付のおっさんの言う通りである。
戦闘をトオルが引き受けると言っても、モンスターの攻撃を確実に防ぎきれるかどうか。
状況は常に変化をしているし、想定外の出来事だって発生するだろう。
そうなったらどうするのか?
不安を払拭する材料がないのだから、断られても仕方がない。
「ま、がんばれや」
「へーい」
そう返事をするしかなかった。
おかげで日々はいつも通りに過ぎていく。
事務処理の仕事を引き受けて、休みはモンスター退治。
蓄えが少しずつ、本当に少しずつ増えてはいく。
しかし、それ以上にはならない。
(また、モンスター退治の仕事でも引き受けようかな)
そう思うも、意外と適当なのが見つからない。
前回ほど楽なモンスターが相手の仕事はほとんどない。
たいていが、この前の村の時より強力なものを退治するものばかりだった。
数人組の一団であれば、何とかなるとは思える。
しかし、一人しかいないトオルには無理な話だった。
(上手くいかねえな)
あれが特別な奇跡だったのだろう、と思うしかなかった。
そんな調子で一ヶ月が過ぎていった。
仕事に行って、モンスターを倒しに行ってを繰り返す。
そんな日々が続いていく。
今の状況ではこれ以上何かが好転する事はない。
だからといって、何もしないでいるつもりにもなれない。
ほんの少しであっても、何かが前進すると信じて行動してるしかなかった。
裏付けも根拠も確証も無いままに。
「で、今日は出かけねえのか?」
受付のおっさんが尋ねてくる。
「いや、さすがに疲れた」
珍しく宿泊所の広間に座り込みながら、トオルは答える。
仕事してモンスター退治に行っての繰り返しで、さすがに疲れが出ていた。
休みなしで一ヶ月も続けてればそれも当然だろう。
事務作業関連の仕事も全く入ってないとあって、これ幸いと体を休めていた。
「さすがに、辛い」
「そりゃ、休みなしで動き続けてりゃあな」
受付にいるからこそ、トオルがかなり無茶してるのを見てきた。
「よく続いたよ、本当に」
「ありがと」
呆れながらの言葉にも礼を返す。
「当分仕事はしたくねえ」
しなけりゃ食い扶持を失うが、それでもかまわないと思ってしまう。
それだけ疲労がたまっていた。
(さすがに無茶しすぎたな)
若いからといってやりすぎたと思った。
幸い蓄えはある。
なので一日二日休んでも問題はない。
そもそもの問題として、仕事が丁度無い。
休むにはうってつけだった。
すぐにそうも言ってられなくなるが。
「こんにちは」
聞き慣れた声が耳に入った。
顔をあげると、見慣れた行商人の顔がある。
そのすぐ後ろにも。
「!!」
疲れも忘れて体を立ち上がってしまった。
その瞬間に椅子がガタンと音をたてる。
何事かと思った行商人とその後ろの者がトオルに顔を向けた。
特に後ろにいた者は、「あっ!」と声をあげてトオルに指を向ける。
行商人も、「おお、丁度良い」と言ってトオルに近づいて来る。
「いてくれて助かったよ」
そういう行商人と、その傍にいる者に両方を交互に見る。
そんなトオルに行商人が、
「この子がお前さんの所に行きたいって言っててね」
「久しぶり、兄貴」
行商人の隣に立った少年────あの村で槍を持って手伝ってくれた彼がいた。
「なんでここに?!」
思わず大声になってしまった。
そんなトオルに少年は、
「俺、冒険者になりたいんだ」
と自分の希望を口にした。
「だから兄貴の所に行こうと思って」
「そういう訳らしい」
困った顔をする行商人の隣で、少年は満面の笑みを浮かべていた。
念ずれば花開く。
あるいは、求めよさらば与えられん、なのか。
思ってもいない形で願いはかないそうだった。
善し悪しはともかくとして。




