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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その8 目指すべき次は、やっぱりいつも通りな感じのようだった

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レベル170-2 少しずつ、本当に少しずつなんですよ、この歩み

 何かをしたくても手が出せないまま日々が過ぎていく。

 幾らかの変化はあっても、まだ大きな進展には至らない。

 出来上がった成果に多くの者は驚き喜んではいる。

 しかし、トオルは素直に喜べないままでいた。



 開拓開墾地の方は人数が増えた事で効率が一気に上がった。

 堀を作るにも、柵を設けるにも、これまではアツシ達がいる範囲でしか出来なかった。

 気にするほど襲撃があるわけではないが、誰もが安全性を優先している。

 その為、どうしても作業の進展が思うようにいかなかった。

 今回、人数が増えた事でその問題がかなり改善されていった。

 対応出来る範囲が二カ所に拡がった事で、作業範囲も格段に大きくとれるようになった。

 細切れにならざるをえなかった作業が、これでかなり安定するようになった。



 兵士見習いの受け入れを町に移した事も大きい。

 教えるレン達の人数により人数に制限は付くが、それでも一度に数十人を見る事が出来る。

 レベルの上がった新人達も、自分の知ってる範囲でやり方を教えていた。

 それらが教育のやり方を実地で学ぶ機会にもなっていく。

 図らずも、上に立った場合の訓練になってもいた。

 それらをよりよく活かしてもらいたいと願っていく。



 宿泊などにかかる費用の関係で長くは滞在できない者が多いが、おかげで回転率が良くなった。

 レベルが上がるまでは一緒にやる事は出来なかったが、順番待ちを解消しやすくはなった。

 領地に戻ってからの事故が心配であるが、そこから先はどうしようもなかった。

 それでも、余程の事がなければそれなりにやっていけるはずではある。

 無理や無茶をして成果を上げる事を目指さなければ。

 一応そういった注意はしてあるが、どうなるかは分からない。

 訓練を終えた兵士見習いは気をつけようとするかもしれないが、彼らの領主がどうするかが悩ましい。

 兵士達の実力を無視して成果を求めれば、悲惨な結果が出るだろう。

 周囲の者達が、より大きな成果を求めるかもしれない。

 そういった周囲からの圧力や期待に負ける可能性もある。

 兵士達自らが成果を求めて無謀な事をしでかすかもしれない。

 そうならないよう願いはするが、そうなってしまったらもうどうしようもない。

 かわいそうだが、トオルの手におえる事ではないし、責任となるものでもない。

 そうさせた周りの責任であるし、そうなるようにしてしまった本人達の問題なのだから。



 それらの対策として指南書を作りもした。

 新人教育における手助けとして作った覚え書きである。

 それこそ注意点や教訓、失敗談などをまとめたようなものである。

『ネズミの入った穴にのめり込むな。

 立ち上がったネズミが囓ってくる』

『倒したネズミを取り出す時は、他の者が周囲を盾で守れ。

 回収中に襲ってくる事もある』

といった基本的な事ばかりである。

 だが、実際に体験した事を端的に記したこれは、意外と新人達に受け入れられていった。

 特に一回でも実際にやった者達は、こぞって目を通すようになる。

 やはり実体験で得られた緊張などが意欲を刺激するのかもしれない。

 上手くやらないと自分達が酷い目にあうという事を肌で感じるのだろう。

 一度やってみれば、書いてある事や言わんとしてる事も理解出来る。

 何の為にこんな事を言ってるのか、どうしてわざわざ書いたのか。

 実体験がそこに現実味を帯びさせていく。



 これらを用意した事で、教えるべき事が明確になっただけではない。

 培ってきたものを、伝達・継承させていく事が容易となった。

 書き記しただけでは伝わらない事もあるし、実地で教えねばならない事もある。

 言い伝えとして言葉にせねばならない事も。

 どうしても漏れてしまい抜け落ちるものがある。

 それを人が補わねばならない。

 というより、指南書は人の指導を手助けするものである。

 あくまでこれは道具でしかない。

 なのだが、やがて潰えていく人と違い、書物は残る。

 忘れられていく記憶と違い、記された記録は形をそのままに伝わっていく。

 継承によって伝わっていく智慧は、質を一定の所で保ってくれる。

 前例を枷として用いてしまう事もあるが、それが土台となるのであれば、成長の助けになる。

 意識したわけではなく、必要に迫られて作ったものである。

 しかし、もたらす意義は限り無く大きかった。



 内容そのものは大したものではない。

 思った事を幾つか書き記して並べただけである。

 そのため、体系立ってるわけでもないし、全てが役立つとも言い切れない。

 出来上がってからこのかた、指南書の内容に文句は常によせられている。

 改正については常に意見が出ていた。

 困った事にそれらのほとんどに統一性がない。

 言ってる事がバラバラなのでまとめる事も出来ないでいる。

 トオルは、あえてそれらを一つにまとめるような事はしないでいた。

「なら、お前らがやりたいと思う方法を、各自で書き出していけ」

 そう言って、それぞれの考えを提示させはした。

 しかし、そこからどれか一つを選びはしない。

 どれが良いかを決めさせもしない。

 どうしようもないのも中にはあるが、そのほとんどがそれなりの利点や長所がある。

 同時に、欠点と短所もある。

 その時々の状況によって有利にも不利にもなるような内容が多かった。

 個人の特性や資質などにも関わる部分もある。

 分かりやすいところでは、俊敏ではあるが気が短い者、慎重で落ち着いてるが素早い対応が苦手な者が出した方法がある。

 そういった特性の違いにもとづいて生み出した手法なので、当然言いたい事もやりたい事も違ってくる。

 最終的には、モンスターを倒すに至るのだが、そこまでのやり方や心構えが違うのだ。

 そのどちらも正しいので否定は出来ない。

 しかし、万人に当てはまるものでもない。

 だからこそ一つに絞る事はできなかった。



「まあ、人それぞれだ。

 どっちも良いし、どっちも間違っちゃいない」

 とりあえずそう言って様々な意見を出してる者達をなだめた。

 もちろん、それでおさまるわけがない。

 自分の意志や考えを否定されるのを喜ぶ者はいない。

 どうにかして自分の考えを認めさせようとするのが普通であろう。

 余程間違ってるならともかく、それなりの理があるのならばなおさら。

 例え間違っていても、信じたものがあればそれを是とするのが人間である。

 なので、トオルはそれらを否定はしなかった。

「とりあえず、お前らの考えをまとめておけ。

 どれが悪いってわけじゃないし、それなりのやり方があるだろうし。

 まずは自分なりにそれを突き詰めてみろ」

 結論を急がず、そう言っておいた。

「ただ、やり方はとりあえずこれでいく。

 細かい修正はしていくつもりだけど。

 お前らの言いたい事は、まずは少しずつ試してからだ」

 先送りと言えばそれまでだが、各自の意見はとりあえず保留にしていった。



 そこから各自が自分なりのやり方を模索しはじめていった。

 てんでバラバラに行動されても困るので、トオル達がやってきたやり方はとりあえず続けていく。

 その中で、余裕があれば自分の考えたやり方を試させていく。

 優劣を決めるためではなく、それでどこまでいくのかを試すために。

 やってみれば、良さも悪さも出てくる。

 気づく奴はそこで気づく。

 自分の言ってる事が完全ではない事を。

 察しの悪いのもいるが、そういう者には「さすがにこれじゃ、すぐには使えない」と伝える。

「上手くやれるよう、もっとどうにかしてくれ」と添えて。

 そこで反発するようなら、もうどうしようもない。

 だが、たいていはそこで多少は気づく。

 このままでは駄目だと。

 そこから改善なり改良をしていく必要があると。



 あとは各自がどうするかである。

 変に弄るより、書いてある通りにやれば良いと思う者もいる。

 そのまま用いず、改良や改善をしていこう、何かを加えていこうとする事もある。

 定石として確立されてる事を上手く用いながら。

 それでも自分の考えにこだわる者もいる。

 すぐには結果が出なくても、あれこれと考えていく。

 それが、やがては自分なりのやり方として何かを確立するかもしれない。

 流派というには大げさかもしれないが、複数の道筋が生まれるのは良い兆候であろう。



 もっとも、単に自分にこだわってるだけの者もいる。

 こういった者は処置無しで、それならそれで放り出すしかない。

 普通に仕事をこなすなら文句は言わないでいた。

 ただ、支障をきたすなら、一団からの追放を考えねばならない。

 一人で勝手にやってるなら良いが、全体の成果に支障が出ては困るのだから。



 そうやって、迂闊に誰かの意見を採り上げたりしないで、各自のやり方を研鑽させていった。

 意見をぶつけあったり、話し合いの場をもうける事だけは絶対にせずに。

 話し合うだけ時間の無駄である。

 それどころか、余計な衝突と禍根を生み出すことになる。

 そうやって切磋琢磨していく、という意見もあるが、トオルは全くそうは思わなかった。

 かつて、そうやって意見をぶつけあっても、生まれたのは恨みと軋轢だけであった。

 何かしら面倒が残る。

 言い争いでしかない、というのがかつての経験からくる結論である。

 どうしても一つに絞らねばならないならともかく、そうでないなら下手に意見や考えを糾合する必要はない。

 こんな事で意見が衝突したら本末転倒である。

 効率よくやっていく事を目指して分裂したら目も当てられない。

 そういう意見の衝突が集団として必要だとか、そこでの憤りを堪えるのが人として大事……とは思わなかった。

 衝突はどんな言い訳をしても衝突である。

 ぶつかり合った人間が仲良くやっていけるわけがない。

 また、憤りを堪えたところで、人の成長には寄与しない。

 世の中には衝突や争い(口論を含む)が好きな者もいるのかもしれないが、不毛な争いでしかないだろう。

 より良いやり方を模索したいなら、別にそんな事をする必要もない。

 それこそ、言い争いがしたいなら話しは変わってくるのだろうが。

 迂闊に他人と意見を出しあえば、そうなっていくのは目に見えている。

 まずは自分で考えるしかない。

 何をどうしていけば良いのかを。



 よほど出来た人間でもない限り、意見を互いに出せば衝突になってしまう。

 そんな例外的な人間がそれほど多いわけではない。

 そして、そんな事をするくらいなら、黙々と試行錯誤を続けた方がマシだった。

 相対する相手は、他の誰かではなく、直面する問題に限ってかまわない。

 この場合、まだ見ぬより良いやり方がそれだ。

 人間を相手にしたって、見えてくるものではない。

 強いていうなら、過去における実例や手段が参考になるくらいだろうか。

 あとは経験者の感想を求めるくらいになるだろうか。

 それくらいに限定しておかないと、余計な騒動になってしまいかねない。

 得られる成果があっても、不和はろくでもない結果しか残さない。

 不満を抱え合ってるなら、衝突して爆発する事も必要かもしれない。

 だが、不満をそもそも抱える必要もない。

 避けて通れない問題から逃げてはいけないが、不要な諍いを好んで生み出す必要もなかった。



 そんなこんなが続いていき、少しずつ内部も変化していっている。

 望んだ形にはなってないが、思いもしない形で組織内部に変化が生まれている。

 教える事で人との接し方を考えざるをえなくなっている。

 否応なしに上下が生まれ、人間関係が構築されていっている。

 単なる命令や指示というだけではないものがそこには発生していっていた。

 それが是か非かは分からない。

 だが、それがどうなるか様子を見ようと思い、トオルは成り行きを注視していく事にした。

 続きを明日の7:00に投稿予定

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