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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その8 目指すべき次は、やっぱりいつも通りな感じのようだった

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レベル162-2 先に進んでいるけど、先が見通せてるわけではない

「ただいま」

「おかえりなさい」

 出迎えの声に気持ちが和んでいく。

 帰った時に誰かの声があるというのは良い物だと再認識した。

 家として使わせてもらってる小屋の中、トオルは感動のままにサツキを抱きしめた。

「え、え、え、え?!」

 慌てるサツキもなんのその、独り身では味わえない幸せをかみしめる。

「あの、ちょっと」

「まあまあ」

「どうしたんですか、いったい」

「まあまあ」

 驚くサツキの声を無視して、腕の中におさまってる幸せを感じていった。



 小さい小屋でしかないが、自分の家だと思うと落ち着ける。

 周りに人がいないのは寂しさもあるし、何かあった時には危険になる。

 館から離れてるのは、この世界において危険である。

 一応、モンスター除けは近くにあるが絶対ではない。

 何かあった時には自分達で対処しなくてはならない。

 それでも。

 他の者達の気配がないというのは開放感がある。

 ようやく二人きりになれる。

 その事が今のトオルには、様々な要素の中で最も重要だった。



「でも、あの、これはちょっと」

「駄目?」

「いえ、そういうわけでは……」

「じゃあ、いいじゃん」

 恥ずかしげな声に、トオルは自分の意志をぶつけていく。

「メシまでまだ時間があるし。

 あとちょっとこうさせてくれ」

「でも、その……」

「半月も会えなかったんだから。

 その埋め合わせをさせてくれよ」

「それはいいんですけど」

「じゃあ、もう少しこのままで」

「はあ…………」

 ガキのような我が儘でもって、トオルはサツキを説き伏せた。

 理屈も理論もあったものではない。

 しかし、理性より理屈で人は折れる。

 ささやかな人生経験で、トオルは強引さこそが人も世の中も動かす事を知った。

「もう少しこうさせてくれ」

「もう…………」

 満更でもなさそうな声を聞いて、無理強いした甲斐があったと感じる。

 帰宅してすぐに直行した畳の上で、トオルはサツキの膝に頭をのせ続けていった。



「どうでした、町の方は」

「まあ、ぼちぼちだよ」

 言いながら町での事を思い出す。

 サトシとレンとの会話、オッサンとのやりとり。

 今まで一団で一緒にやってた者達と、新人の顔ぶれ。

 仕事に関わる事も、そうでない部分も頭の中に浮かんでくる。

「なんだか落ち着かなかったな」

「仕事ばっかりだったから?」

「そういう事。

 本当に、それしかなかったよ」

 悲しいかな事実である。

 そもそも遊ぶところが(現代日本に比べれば)無いので寄り道する気にすらなれない。

 そうでなくても、時間が全くなかった。

 仕事の事以外で何かを話す事もなく、用件をこなすだけで滞在時間の全てが終わってしまった。

「土産も無いんだ」

「まあ、それは別にいいんですけど」

 その言葉に、逆に申し訳なくなってしまう。

「今度町に行く事があったらちゃんと買ってくるよ。

 何が良いか教えてくれ」

 その言葉にサツキは笑みを浮かべる。

「すぐには思いつきませんけど、それなら」

「なに?」

「もっと一緒の時間が欲しいです」

「…………」

 返事をする事が出来なかった。

 頭が真っ赤になりすぎて。

 何か言わねばと思うも、結局言葉は出てこない。

 頭を膝に押しつけるのが精一杯だった。

 サツキは笑みを柔らかくして、そんなトオルの頭に手を添えた。



 睦み合いというには可愛いものだが、そんな事でもしてなければやってられなかった。

 稼ぎは相変わらずで、やる事は増える。

 金はかからないようにしてるが、どうしても必要になる労力と時間が足りない。

 何より、状況を改善していく智慧が欠乏している。

 まだ何とかなっているが、先々には暗雲が常に立ちこめている。

 村への派遣と町での駐留で稼ぎの範囲を増やしてみたが、これがどう転ぶかも分からない。

 全てが上手くいけば、より大きな稼ぎを目指していけるが、そうなるという保障はない。

 人を増やす余地は出来たし、実際に増えてもいる。

 しかし、これが今後も続くかどうかは分からない。

 サトシが村に出向く事による宣伝効果も、町に常駐するレンが実際にあげる成果を見せても、影響がどこまで出るかはまだ分からない。

 今の所は上手くいってるように見えるが、初動だけで後が続かないという事も考えられる。

 サトシ達が独立をする事だってありえる。

 村と町の間ならと思ったが、往復で半月もかかる距離は遠い。

 今回行き来してみて、考えが甘かったと痛感する。

 どうにか繋ぎ止めておきたかった。

 運も人も。

 それが無くてはどうにもならない。



「そろそろですよ」

 考え事をしてたトオルに声がかかる。

「ん?」

「ご飯。

 もう出来てるはずです」

「ああ…………そうか」

 考え事をしてて忘れていた。

 ゆっくりと起き上がって背伸びをする。

「もうちょっと膝枕をしてたかったけど……」

「何言ってるんですか」

 たしなめてるような、面白がってるように言われてしまう。

「帰ってきたら出来るじゃないですか」

「まあね」

 それだけで済むとは思えなかったが、その言葉がありがたい。

「行こうか」

「はい」

 連れだって外に出る。

 炊事場がないので、食事などは食べに行かねばならない。

 あったとしても作ってる余裕がない。

 何せ、二人で働いてようやく暮らしていけるだけの稼ぎにしかならない。

 いずれは楽をさせてやりたいが、まだまだ先の事になる。

(早いトコ、どうにかしないと)

 いずれはサツキが働かなくても済むようにしたかった。

 子供が出来たら一緒にモンスター退治になって出られなくなるのだし。

(子供か……)

 思わず考えてしまったが全然実感がわかない。

 いずれ授かるのだろうが、まだまだずっと先の事のように思える。

 とりあえずは、隣にいるサツキの事だけで頭がいっぱいだった。

(まあ、そのうち)

 余裕が出来た頃にあらためて家庭の事も考えていこうと思う。

 その余裕を早く作りたいと考えながら。

 続きを明日の7:00に投稿予定

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