レベル162-1 先に進んでいるけど、先が見通せてるわけではない
「じゃあ、二人によろしく」
周旋屋のオッサンに言伝を頼む。
その後ろに、荷物をもった新人が八人控える。
昨晩急いで決めた者達だった。
振り返ってトオルは新人達を促していく。
「じゃあ、行こうか」
緊張して頷く彼らを微笑ましく見つめながら駅馬車へと向かっていく。
その後ろを、新人達は慌てて追っていく。
まだ若い連中である。
村から出て来たばかりだったり、周旋屋で少しだけ頑張ってた程度の者達がほとんどだ。
一番年長でも二十歳にすらなっていない。
年齢制限などをしたわけではないが、なぜかそういった年代が集まってきていた。
(まあ、給料いいって言うし……)
長年働いてれば周旋屋で回ってくる仕事の給料も上がるという。
どれくらい稼げてるか分からないが、それなりの賃金をもらってるならわざわざモンスター退治に参加しようとは思わないだろう。
一般的な作業員ではなく冒険者としてモンスター退治やモンスターからの護衛をしてる者達も同じだ。
既に仲間と一緒に行動し、それなりに稼いでる者達がトオル達と一緒にやっていく理由がない。
今の状況でそれなりに稼げてるなら、無理して危険に飛び込む必要もない。
ただ、周旋屋のオッサンからは、「そういう者達が来たら採用してくれないか」、とは言われている。
悩ましい所だった。
年齢が上がると、年下の者に頭を下げるのも難しくなる。
仕事の上では初心者でも、人間として積み重ねた時間の長さがある。
それがどうしても人間関係を難しくしてしまう。
変に先輩風をふかせてもらいたくもない。
だが、へりくだって、というのもまた難しい。
腰を低くというのは人としてわきまえておくべき物事の一つかもしれない。
しかし、それは下手をすると卑屈さになってしまう。
それはそれで尊厳を捨てる事なので歪なものである。
我を張る事は害にしかならないだろうが、人としての意志や自信である尊厳まで捨てるのも悪い影響を及ぼす。
そこを上手く受け止めていければ良いが、そんな余裕は無い。
少なくとも今は。
来る者拒まずと言いたいところだが、なかなかそうもいかない。
見捨てたり切り捨てたくもないので、もっと別の方法を探しておきたいとは思う。
だが、自分達の所に加えてよいのかは悩ましい。
(まずは、こいつらが先だし)
馬車の乗り込み、村に向けて出発しながら考える。
駅馬車の中で最も安い値段で乗れる幌馬車の中には、八人の新人達が所狭しと身を寄せ合っている。
より多くの者達にも門戸を開くにしても、まずはこれらをどうにかせねばならない。
一度に全てが出来るわけもない。
出来る所から手をつけていかねば、全てが駄目になる。
あれもこれも、というのは無理でしかない。
まずはここにいる者達が自分達で出来るようになるまでがんばるしかない。
でないと、余裕も出てこない。
村に戻れば新人達を宿舎の小屋に案内し、荷物を置かせる。
それからいつもの挨拶回りをはじめていく。
到着した時間が遅めだった事もあり、作業場所まで案内は出来なかった。
その分、他の者達との顔合わせは早めにする事が出来た。
仕事のやり方は町でレン達と一緒にやっているはずなので、省いてもどうにかなるとも思った。
参加した時期にもよるが、何度かネズミ相手には作業をしてきてるはずである。
サトシとレンがどれくらい教え込んでるか分からないが、問題になるほど何も知らないわけではないだろう。
とりあえず初日は仕事をさせて、様子を見てみる事にする。
手順がちゃんとしてるならそのまま作業をさせていくし、そうでなければ必要な事を教えていく。
今までとはちょっと違った形になっていく。
こういう事が、町や村に派遣した意義なのかもしれないと思った。
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