レベル161-2 話すべき事は色々あります
「でも、明日連れてく連中の顔も見ておきたいし。
二人の感想も聞いておかないとね」
実際に接してみてどうなのかを知る必要があった。
「問題になりそうな奴とかは?
使える奴でもいいけど」
「それはまあ、それなりに」
「そんなに問題のあるのはいないかな?」
「皆、がんばってるよ」
「一番の問題児はサトシだけだし」
その言葉に、「だろうな」と頷く。
言われた方は、「ちょっと待て」と言ってくるが、二人は気にせず先に進む。
「一ヶ月くらい一緒にやってきたけど、そんなに問題を起こすようなのはいないかな。
張り切りすぎて前のめりになってるのはいるけど」
「ネズミ退治も解体もまだ全然駄目だけどな。
でも、やり方をおぼえようとがんばってるよ」
「そうか」
とりあえず、やる気はあるようで安心した。
一ヶ月もやり続けてるなら、簡単にはくじけないだろう。
前のめりになる、というのは気になるが、こればかりは性分も絡んでくるので何とも言えない。
そこは経験を重ねて自分で気づいていくしかない。
一応、気づいた事は口にしていくつもりだが。
それはサトシやレンもやってるだろう。
それでもおさまらないのなら、これは自分で気づいてもらうしかない。
大怪我をする前に直ってもらいたいものだった。
「やっぱり、こうして聞いてみないと分からないもんだな」
「手紙とかじゃ全部は書けないしね」
「そもそも、書いてるのは私なんだけど」
冷ややかな目がサトシを見つめた。
「んな事言ってもよお。
こっちは村から帰ってきたばっかりだぞ。
すぐに書けるかっての」
「それ以前に、あんたはもっと書く練習をしなさい。
字だって読めないし」
「しょうがねえだろ、寺子屋で習ってから全然書いて無かったんだし」
そこはやむをえないだろう。
多少の読み書きは出来ても、長文の文章を書くというのは、慣れが必要になる。
文章を組み立てて意味が分かりやすく、相手に伝わるようにというのはそれなりの技術が必要になる。
簡単にメモ書きや書き留め程度ならともかく、長文の文章となるとそれなりに素養が求められる。
(やっぱり、分かりやすいやり方を考えないと駄目か)
二人のやりとりからそんな事を悟った。
五段階評価とかなどを用いた方が良いかもしれないと考える。
必要な項目を決めておき、その範囲で評価をつけていく方法だ。
原本を用意しておけば、さほど手間もかからずに使えるだろう。
「なあ、二人とも……」
とりあえず二人にその事を話しておこうと思った。
今すぐに用意はできなくても、次に来るときには用意出来るようにと。
「…………まあ、そんな事を考えてる」
聞き終わった二人は感心したり驚いたり悩んだりしていった。
「そりゃまあ、そうしたいってのは分かったけど」
「でも、やらなきゃいけないの?」
当然の疑問である。
二人からすれば手間が増えるだけで、意味があるかどうかは全く分からないのだろう。
それについては、
「やってもらわないと困る」
と答えた。
「二人には必要ないかもしれないけど、俺はないと困るんだ。
周旋屋からも通知はもらうけど、それだけじゃ全然足りない。
今何人いて、誰がレベル幾つなのかとかは二人じゃないと分からない。
問題のある奴や、真面目にやってる奴とか、そういうのもな。
これは二人じゃないとできないんだ」
それを元に今後を考えていくのだから、トオルにとっては必要な要素である。
「手間がかかるのは分かるけど、一ヶ月に一回は送って欲しい。
人数と、レベルを。
何レベルの人間が何人いるかとかが分かると助かる」
それだけはどうしてもお願いしたかった。
「問題のある奴も、出来ればすぐに知らせてくれると助かる。
こっちで判断出来るから。
もちろん、俺の返事を待たないでそういうのを解雇してもいいけど。
その場合は、どういう奴がいて、どういう事があって追いだしたかを教えてほしい」
目の届かない所で何があったのかを知っておく必要もあるだろう。
とにかく情報が重要になる。
「でないと、何度もこっちに来る事になる」
それだけは避けたかった。
往復するだけで半月ほど消費してしまうのだから。
「いずれはそういうのを専門でやってくれる人間を置きたいけど。
今はまだ無理だ」
そんな事も付け加えた。
二人も、往復でかかる日数を思い出し、トオルの言いたい事を理解してくれた。
「確かに手間だしね」
「サツキと仲良くする時間も無くなるって?」
「そういう事」
恥ずかしくはあったが、はっきりと答えた。
「俺だって一緒にいる時間を増やしたい」
「あー、はいはい」
「分かったわよ」
二人は苦笑していく。
「そう言われたら断れないじゃない」
「がんばって手紙を出すよ」
手紙と言うよりは報告書になるだろう。
その形式を早急に作り上げねばならなくなった。
「面倒をかけるけど頼む」
頭を下げて、あらためてお願いをした。
「でもさ、なんで村にこだわるの?」
サトシの口から疑問が出てきた。
「モンスターを倒すなら町の方でもいいんじゃないの?
その方が便利だし」
「村の方も何人か残しておけば十分でしょ」
レンもそれは疑問のようだった。
確かに町の方が色々と便利である。
店も揃ってるし、人も集まる。
依頼にもすぐに対応出来る。
宿泊費と食事代は痛いが、稼げるようになればそれほど大きな負担でもない。
それでも村に居続ける理由があるのかと思ってしまう。
「そうでもない」
トオルはすぐに否定した。
二人は意外な気がした。
「どうして?」
「これから外に出て行くからさ」
当たり前のようにトオルは言い放った。
「レベルを上げてもっと強いモンスターを倒しにいく。
町にいたらそれが難しいんだよ」
確かにそれはその通りである。
町の周辺にもモンスターは出没するが、それほど強いモンスターがいるわけではない。
それらは人里離れた場所に生息している。
トモノリの領地からならなら、それほど離れてはいない。
打って出るには都合が良い。
「だからあの村との繋がりを強めておきたい。
あそこにいた方が都合がいいんだ」
トモノリや村人達との関係も深まってきている。
直接的な支援はなくても、友好的な雰囲気というのは得難いものだった。
無形の支持であっても、それは何かの時に有利な展開をもたらす事が期待できる。
それを捨てるわけにはいかなかった。
「あと二年か三年で打って出る。
だから村に居なきゃ駄目なんだ」
その言葉に、二人は呆然となった。
「そこまで考えてたのかよ……」
「本気なの……?」
「ああ」
迷わず頷く。
「本気でやるつもりだ」
その声にサトシとレンは、背が走る震えを感じた。
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