レベル158-1 物理的なものだけではなく、考え方の部分でも準備が必要です
トモノリの所を去っていく貴族達からの要請に、
「周旋屋を通してください」
と告げていく。
結婚以来慌ただしかった理由の一つにそうやって決着をつけていく。
しかし問題はまだまだ解決されない。
「どうすっかな」
考えてる手立てが上手くいくかどうかも分からないが、やっていくしかない。
時間を無駄にするわけにはいかなかった。
「そういうわけなので、二十人ばかり町に送り込みます」
今後の予定を告げると、トモノリはさすがに驚いた。
しかし、
「まあ、支障がでないならかまわん」
とあっさりと承諾した。
もう少し何か言ってくるのかと思っていたが。
「それでは、よろしくお願いします」
「ああ。
頑張ってくれ」
これでトモノリの方面から何か言われる懸念はなくなった。
「そういう事なら」
「責任重大だけど」
サトシとレンもそれで終わった。
各地の村と町での駐留を頼んだのだが、たったこれだけで終わってしまう。
「兄貴が言うんだから意味はあるんだろ。
だったら文句はないよ」
「仕事が大変そうではあるけどね」
懸念するのは事はあるようだが、そこもどうにかしてこなしていくつもりのようで助かる。
ただ、今後の動きとやり方については考えをまとめておく必要がある。
状況に応じて臨機応変に対処していくにしても、何の為に、どこを目指す為に行動すべきかは知っておかねばならない。
この話し合いの方はかなりの時間がかかりそうだった。
それほど猶予はない。
なるべく急いで行動に出るためには、早急な解決がのぞまれる。
あれこれと進めていく中で、自分一人の限界を感じる。
どれほど頭を使い、どれほど優れた手法を思いついても、実行する為には助けが必要になる。
町や村に散らばるようになれば、その間の連絡が必要になるし、それらをまとめる者が欲しくなる。
周旋屋とのやりとりも今まで以上に必要になるだろう。
受付窓口でいいから、それらを引き受けて処理する者が欲しくなってきていた。
今後事業が拡大すれば、そういった者の重要性は更に上がっていく。
今のうちに準備をしておきたい。
任せられるだけの才能や技術(この場合教育や知識となるだろう)を身につけてる者がいれば良いのだが。
残念ながらこの世界において、そういった者は結構貴重な存在であった。
周旋屋を通じて上手く人材を確保出来れば良いが、そういう能力がある者ならば、簡単には確保はできないだろう。
(最悪、トモノリ様に頼るしかないかな)
以前、少しだけ話に出て来ていた、トオルの所に人を送り込むという話。
それを受け入れるしかないかも、と思えてきた。
知識や技術がなくても、教養を身につけてる者となると貴族くらいしかいない。
今後、養成育成する体制を作っていくにしても、それでは時間がかかりすぎる。
即戦力として、最低限の教育を受けて教養を身につけてる者が必要だった。
最低限の素養がないと、トオルの求める事を理解できないかもしれない。
時間をかけずにすぐに馴染む為には、そうなるための前提が求められる。
(入れるしかねえのかな)
内部をかき回される可能性があるので、出来れば避けたいところだった。
また、貴族の地位を離れ、周旋屋に登録してもらわないとどうにもならない。
このあたり、以前から考えてる通りであるが、あらためてその必要性が出て来たような気がした。
「疲れた」
「大変ですね」
サツキのねぎらいの言葉がありがたい。
部屋に戻ってベッドに横になる。
サツキが作り置きのお茶を出してくれるが、それを飲む気にもならない。
「なんでこんな忙しくなるんだか」
「トオルさんが率先して忙しくしてるように思えるけど」
「…………まあ、その通りだけど」
今まで通りでよいならこんな事にはなってない。
現状維持に留まってないから色々と苦労があるのだ。
「それに、引っ越しもあるんですよね」
「まあね。
そっちも考えないと……」
小屋への引っ越しについては既に伝えてある。
その前に小屋の手直しで大工が入る事になってるので、まだ猶予はある。
来月から作業が開始され、一ヶ月ほどで片が付くはずだった。
「まあ、こっちはのんびりやっていけばいいけどさ」
「何言ってるんですか」
サツキは即座に否定した。
「家具とかを揃えないといけないし。
何もない小屋の中で生活する気なんですか?」
言われて思い出す。
小屋の中には物がほとんど無い事を。
壁につけられた棚などはあるが、家具と言えるものは何もない。
ベッドもそうだが机に椅子にタンスと、必要なものは結構ある。
一部の部屋にある畳も新しいのに交換せねばならない…………これらは修繕の時に片付けてくれるかもしれないが。
だが、用意せねばならない物は多い。
「結局やる事が増えるのか」
楽が出来る兆候は全然見えてこない。
「もう少し落ち着きたい」
「だったら仕事を少し減らしたらどうですか」
「そうなんだよなあ」
なんでそう出来ないのかと思ってしまう。
「楽して稼ぎたいんだけど」
「それはさすがに無理じゃないですか」
「無理を通して道理を引っ込めたいよ」
馬鹿な事を口にしてるが、それなりに本気で言っている。
「…………サツキ」
「はい?」
「ちょっと、膝貸して」
「はいはい」
笑いながらサツキがベッドに腰をかける。
揃えられた足に頭をのせる。
「ホント、これが落ち着くよ」
現在、唯一にして最高の息抜きである膝枕。
結婚して良かったと思える事の一つである。
それでも悩みがなくなるわけではないが、忘れる事は出来た。
またすぐに思い出してしまうだろうが、それまではこうしてゆっくりとしていたかった。
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