レベル155-1 大安吉日
なんやかんやと忙しい日々を経て、当日を迎える。
軽い食事をとったあと、すぐに着付け。
それが終わってから手順の確認。
供をする一団の者達と神社に向かって挙式となる。
出身の村からは家族がやってきており、一団と共にトオル達と行列を行う事になっている。
「それじゃ、先に行ってるから」
トモノリは一足早く神社へと向かっていく。
普通ならありえない事ではあるが、彼もトオルの結婚式に参加する事になっている。
一族の貴族がやってくるので、彼が対応する必要があった。
そうでなくても、トオルの慶事には出向くつもりであったようだが。
そんな領主を見送り、あらためて手順を確かめていく。
一通り終わった頃に家族が到着した。
父親は、憮然とはいかないまでも厳つい顔を厳つくしたままである。
が、「良かった良かった」と繰り返す母に「何照れてんの」と笑われている。
いつもと表情が変わらないように見えるが、その胸中は色々とあるようだ。
兄弟達はもう少し砕けていて、
「よくやった」
「目出度い目出度い」
とトオルを囲んでくる。
「やったなあ、おい」
と部屋住の兄が肩を組んでくる。
「これでお前も安泰だ」
実際にはここからが本番であるが、そういう現実的な事を今は忘れる事にする。
「それより兄ちゃん」
「なんだ?」
「開拓地の方はいいのか?」
この兄、部屋住から開拓地に向かってる。
まだ自分の田畑は手にしてないが、日々土地の開墾に勤しんでいた。
「こっちに来る余裕あるのかよ」
「なあに、一日二日くらいならどうって事ないって。
まわりの連中も、身内の事だ、遠慮すんなって言っててな」
「それでわざわざ?」
「おう。
お前の嫁さんがどんな娘なのか見てみたいしな。
えらい別嬪さんって話じゃねえか」
「それが目当てかよ……」
そんな事だろうと思ってはいたが、はっきり言われると呆れるしかなくなる。
「そりゃそうだ。
お前の晴れ姿なんか見たって面白くもない」
「いや、分かるけどさ。
もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃねえの?」
「まあ、いつもよりは格好良く見えるかな」
あらためてトオルを見る兄は、全くそう思ってない口ぶりで感想を述べた。
「馬子にも衣装ってのは本当なんだな」
「はいはい」
もう何も言う気になれなかった。
「まあ。兄ちゃんもさっさと嫁さんもらってくれよ。
今年か来年には田畑を手に入れられるんだろ?」
「ああ、この年齢になってようやくだがな。
今、色々と話が出てるみたいだ」
「お相手に同情とお悔やみを申し上げたくなるよ」
「ぬかせ」
肩を組んでた腕に力が入った。
首がしまっていく。
「お前の嫁さんになる娘よりゃマシだ」
「寝言は寝てるときに言えよ」
そんな事をしながら時間が過ぎ、花嫁の登場となる。
館の一室で着付けを行っていたサツキが出て来ると、一同の目がそこに集中した。
全員が息をのんだ。
「はあ……」
「こりゃあ……」
居合わせた者達のほとんどが口を開いたままになる。
白一色の衣装に身を包んだサツキは、それ程までに美しかった。
トオルも目を奪われる。
そんな一同に軽く会釈をして、サツキはトオルの前まで歩いていく。
近づいて来るサツキを、トオルは目の前に来るまで呆っと見ていた。
声をかけられるまで我を忘れて。
「トオルさん」
「…………あっ、ああ」
ようやく気を取り戻す。
そんなトオルを見て、サトシや兄が苦笑している。
仕方ないとは思いつつ。
サツキはそんなトオルに、
「どうですか」
と訊ねる。
何が、という部分の抜けた言葉であるが、
「綺麗だ」
素直に短く答える。
サツキは嬉しそうに笑みを浮かべた。
主役が出て来た所で神社へと向かっていく。
全体をトオルの村の村長が先導し、その後ろにサトシ達数人の一団が続く。
先頭のこの者達は護衛を兼ねてもいる。
物騒な状況である、これらが飾りというわけではない。
それからトオルとサツキが続き、その後ろを家族が並ぶ。
更にその後ろに一団と出身村の主立った者が並ぶ。
田舎の村の行列としては結構な長さになる。
神社まで出向く余裕のない者達は、村の出口まで一行を囃し立てながら見送っていった。
神社についたらついたで、式に参加する者達が出迎える。
その中にトモノリの姿もある。
鳥居の中で待っていた者達は、入ってくる一行を拍手と歓声で迎えた。
先を歩く村長とサトシ達が鳥居をくぐり、それから暫くしてトオルとサツキが入ってくる。
その瞬間、居合わせた者達は一様に大きな声をあげた。
「こりゃあ、たまげたな」
「ああ、すんげえ」
「えらい美人さんじゃ」
理由の八割以上がそういったものだった。
主役のもう一方の方にも、
「あらあ、男ぶりが上がってるわねえ」
「凛々しいわあ」
と若干の擁護が入っているのが救いであろうか。
その二人はそのまま神社へと進み、中へと入っていく。
祭壇の前で待つ神主の所へと向かい、用意されていた席へと座る。
式はここからが本番であった。
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