レベル151-2 思いつきは時と場所を選びませんが
「上手くいくのか、それ?」
話しを聞き終えたオッサンは懐疑的である。
トオルとて同じである。
「分からん。
今、思いついたばっかりだし」
「おいおい」
「でも、試す価値はあると思ってる」
「まあ、止めはしないが……」
「とにかく人を集めておいてくれ。
今すぐはさすがに無理だけど」
「そりゃそうだ、式はどうするんだ?」
「それが終わってから本格的にやるよ」
肩をすくめるオッサンにトオルはそう告げる。
しっかりと考えての事ではないが、頭の中で考えた限りではその頃からなら実行出来るはずだった。
「おいおい」
更に呆れるオッサンは、
「いや、もう少し落ち着けよ。
嫁さんがかわいそうだろうが」
たしなめるようにそう言った。
だが、トオルはその言葉を受け取りつつも、今後の予定を考えていく。
もし上手くいったら、誰を派遣し、どのくらいの規模で拡大していくかを。
最低限必要な人数は村に必要だから全員を動かすわけにはいかない。
だが、何人かは抜き出す事が出来る。
最低でもレベル2があればよい。
そこまで達してる人間は既に何人もいる。
(いけるか?
いけるはずだ)
細かい部分は今後検討するが、大雑把に考えてもどうにかなりそうな気はした。
持ち歩いてる紙と筆を取り出し、思いつきを書き出していく。
それを見てオッサンは、
「んな事はあっちでやれ」
と広間の方を指す。
もう一つ、
「それと、あの娘のお迎えを忘れるなよ」
というのも忘れない。
採寸が終わる頃合いを見計らって迎えにいく。
店で待っていたサツキは、入ってきたトオルを見て笑みを浮かべる。
「待った?」
「いえ、先ほど終わったところです」
実際、終わってから十分ほどしか経ってない。
「そんじゃ、行こうか」
「はい」
連れだって外に出て周旋屋へと戻っていく。
寄り道してどこかに、という事もない。
そういう場所は全くない。
せいぜい居酒屋などがあるくらいだ。
一緒に入るのはさすがに遠慮したかった。
これがモンスター退治の後とかだったら、それもアリなのだが。
さすがに婚約相手と入りたいとは思わなかった。
さっさと宿舎に帰った方が幾らかマシである。
「採寸どうだった?」
他愛のない事も口にしていく。
「ちょっと大変でした」
「そっか」
その程度の事であるが、不思議と楽しい。
言わなくてはいけない事はあるのだが、それは宿舎に戻ってからにするつもりだった。
無粋な仕事の話など、こういう時にしたいとは思わない。
「はあ……」
話を聞いたサツキは、呆気にとられたように漏らした。
食事も終わり、部屋に戻った後である。
いつも使っていた雑魚寝部屋ではなく、個室の中。
数人が入れる作りになってるそこを、今は二人だけが使っている。
そんなつもりが無くても、何となく意識してしまう。
そのはずなのだが。
戻ってきてからのトオルの話で、そういう雰囲気は微塵もない。
もとより、この場所で男女間の触れ合いに及ぼうとは思っていない。
思ってないが、それ以前の状態になってしまっている。
「なんて言うか……」
サツキは少々呆れながら、
「トオルさんて、本当に仕事の事ばっかり考えてるんですね」
仕事人間への哀れみと呆れと少しばかりの憤りが混じった調子で言う。
否定できないので「すまん」と言うしかない。
「でも、式が終わったらそうしようと思ってるんだ。
すぐに急がしくなるだろうけど、協力してほしい」
「それはかまいませんけど」
何もこんな時に、と思ってしまう。
町に来てるのは、式の当日に袖を通すものを仕立てるためである。
ついでに周旋屋で仕事の話もしようというのは分かる。
「わざわざ私に言う必要があるんですか?」
もう少し雰囲気を大事にしてもらいたかった。
仕事から離れられないのは分かっているが、少しはそういう事を意識させないで欲しかった。
トオルの話の重要性は理解は出来るけども。
「まあ、それは悪いと思ってるけど」
「本当に?」
「ああ。
でも、サツキにも関わってくるから。
先に知っておいてもらいたかったんだ」
冒険者の仲間としてそれだけ重視してるという意味であろう。
ただ、サツキが求める扱いとは違う。
(仕事抜きで見てもらいたいんですけど……)
口にするのも無粋かもしれないと思って、その言葉は胸にしまっておく。
そもそもトオルにこういった分野における気遣いや機微を求めるのが無理かもしれない。
色々と気遣いが出来る人間にも関わらず、こういう所では恐ろしく鈍い。
分かっていた事ではあるが、それを発揮されるとため息が出てくる。
「まだ色々と迷惑をかけるけど、辛抱してくれ」
「分かってますよ、それくらい」
なんだかんだで長くなってきた付き合いである。
トオルの性分などもある程度は理解している。
「仕事なんですよね」
「はい、そうです」
淡々とした声に、トオルは頭を下げた。
特に感情がこもってはいなかったが、なぜか有無を言わせない何かを感じる。
それがトオルに平身低頭をさせた。
「でも」
「うん」
「仕事以外の事もちゃんとしてください」
「がんばります」
今度こそ言い逃れを許さない圧力を感じた。
「けどな、先の事を考えるとやっておきたいんだ」
言い訳じみてるように思いながらも説明をしていく。
「稼ぎを増やすにはどうしても人が必要だし。
どうしても今のうちに手を打っておきたい」
「それは分かりますけど。
でも、今すぐに必要なんですか?」
先々の展望についてはこれまで何度も聞いてきた。
その都度、自分達のおかれた境遇や、現在の稼ぎについては考えさせられた。
トオルがそこまで考える事を求めた事は無い。
しかし聞かされれば嫌でも先々の事を思い浮かべてしまう。
それでも、トオルがそこまで急ぐ理由が分からなかった。
サツキにはそこまで見通せるわけではない。
だがトオルは、
「なるべく急ぎたいんだ。
でないと、全部が色々と後手に回る」
はっきりと言い切った。
いったいどうしてそこまで言えるのか不思議に思う。
「どうして……どういう事なんですか」
途中で言い直して聞いてみる。
何が後手に回るのかが見えてこない。
「まあ、稼ぎがってのが一番だよ」
いつも通りの答えが出て来る。
トオルが求めてるのは、基本的に稼ぎである。
それがどれだけ大切なのかはサツキも分かってはいる。
しかし、それで気分を台無しにされてはたまったものではない。
そう思っていたのだが。
「でないと、家も持てないし」
「家……ですか?」
「ああ。
いつまでも皆と一緒ってわけにはいかないだろ。
俺達…………結婚するんだし」
最後の方は多少口ごもりながらになった。
トオルとしても、それを口にするのはまだ照れるものがある。
サツキも同じだった。
結婚の準備のために町に来てるというのに、あらためて自覚するごとに顔が熱くなる。
それに、トオルが今言った事を考えると、更に体温が上昇する。
「それは、確かにそうですけど……」
夫婦になるのだから、皆と一緒というわけにはいかないのは分かる。
サツキとて、可能なら一緒にいたいと願っている。
「小さくてもさ、家を一つ持とうと思ってるんだ。
だからどうしても早く稼げるようになっておきたいんだ」
「そういう事でしたか」
そこまで聞いてサツキも納得した。
稼ぎたいからではなく、稼いで手に入れたいものがあるという事を。
それが自分に関わってくる事も。
ついでにそれが、聞いて真っ赤になるような事につながってる事が。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
お互い赤くなってしまう。
沈黙が重い。
体感温度がどんどん上がっていく。
トオルもサツキも、一緒の生活という事に様々な想像をしてしまっていた。
「…………まあ、そういうわけだから」
何とかトオルが口を開く。
「なるべく急いでおきたいんだ。
無理はしない範囲でではあるけど。
そうしたら、こうやっていくしかないかなって」
「はい、その、すごく良く分かりました」
もう雰囲気がどうのこうのというつもりは無かった。
十分過ぎるほど未来を想像させてもらった。
「俺も、早くそうしたいし」
トドメの一言まで飛んでくる。
サツキは自分から湯気が出てるんじゃないかと思うほど熱くなっていった。
顔が、体が、何より頭の中身が。
続きを明日の17:00に投稿予定




