レベル150-3 新たな一歩を踏み出すのだから、やはり準備は大変です
なんだかんだありながらも話しは進んでいく。
執り行う場所は神社で。
その後の宴会などなどは村に戻ってから。
家族を呼べるように、畑仕事が始まる前、二月あたりに行う。
時間はさしてないが、その分さほど手をかけずに済まそうという事になっていった。
トモノリも一族にはそう伝えていく。
日程を延ばすことは出来ないので、この時期に来れるものだけに限定する事。
式も簡素を旨とするので、格式や引き出物などを求めない事。
何より、トモノリの館も使用人や冒険者、訓練中の兵士でいっぱいなので宿泊場所はほとんどない事。
それらを伝えて、遠回りに「お前ら来るな」と拒絶していく。
挙式まで二ヶ月もない。
そんな状態で参加出来るような者など、この近隣にいるごく一部に限られる。
その一部の中で、暇がある者となると更に少なくなる。
加えて、貴族としての常識などが一切斟酌されない、それを求める事も許されない。
そんな条件を飲めるものなど数えるほどもいなかった。
しかし、何事も例外は存在する。
数少ない例外はやはり発生し、それらがトオルとサツキの結婚式に参加するという。
こうなるとトモノリとしても断りきれない。
「まあ、お祝いをしてくれるなら」とトオルは自分を納得させる事にした。
それが無くてもやはり忙しい。
日々の仕事の合間をぬって、必要な物事を用意して決めていく。
時間もないので有る物で執り行おうとしても、何かと物いりになる。
日々の稼ぎから少しずつ貯めていたので、資金の方はさして問題ではない。
だが、購入して調達するとなるとやはり手間がかかった。
すぐに用意できる物であれば良いが、注文して取り寄せねばならない物は諦めるしかない。
手の込んだ物は特に。
ただ、どうしてもこれだけは、という物については無理を通しもした。
「あの、本当に良いんですか」
遠慮がちに何度も聞かれた。
その都度、
「かまわない。これくらいは当然だ」
と繰り返す。
サツキがそう言うのも無理はないが、トオルは自分の意志を押し通すつもりだった。
「でも、こんな良い物を」
「だからだよ。
一生に一度の事だ。
これくらいは当然だよ」
場合によっては二度三度となる事もあるだろうが。
不吉すぎるので、頭をよぎったその考えはすぐに払拭した。
「とにかく、これについては俺に従ってくれ。
絶対にだ」
「はあ……」
本当に良いのかな、とサツキは躊躇ってしまう。
だが、トオルがこういう風に強引な時には、得てしてそれなりの考えや意義があるものだった。
今回もそうなのかもしれないと思って、彼の要望を受け入れる事にした。
「でも、本当に良いんですか。
こんな良い物をもらって」
そう言って手に取るのは、白い反物。
質の良さは手に伝わる感触からも分かる。
普段身につける衣服や、当たり前のように使ってる日用品とは全然違う。
どうしたって遠慮してしまう。
そんなサツキに、トオルは少々苦笑気味に気持ちを伝えた。
「遠慮しないでくれよ。
女房に…………してやる最初の事にしたいから」
言ってる途中で顔が熱くなった。
聞かされた方も真っ赤になった。
だが、それほど上質なのかというとそうでもない。
あくまでトオルに買える範囲のものである。
銀貨が何十枚か吹き飛んだが、高級品とは言えない。
更に上は幾らでもある。
トオルが手に入れた反物は、その中でも普及品に近いものだった。
そもそも、反物はそれほど普及してる物ではないが。
だからこそ、本当に良質の物は手が出せるものではない。
貴族でも一定以上の地位か、相当に裕福な平民でなければ用いる事もなどできない。
トオルが手に入れたものでも銀貨で数十枚は必要となる。
その上となったら想像すら出来ない世界だった。
だから、受け取るのを躊躇ってるサツキを見てると逆に申し訳なくなる。
出来れば本当に良い物を使ってもらいたかったのだから。
(廉価品なんて言えないよなあ)
高級品の中ではだが。
それでも、受け取るのを躊躇ったりはして欲しくはなかった。
「これくらいはしておきたいんだ」
トオルの言葉にサツキは、涙ぐんだ目をしながら笑みを浮かべた。
町に来てる最中の出来事である。
続きを明日の17:00に投稿予定




