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レベル15 提示された条件の変更は、自分一人だけで決めるものではありません

(ここをこうして、これがこうで……)

 自分のベッドに戻ったトオルは、そこで考えを書き出していった。

 頭の中にある考えが文字になるたびに新たな考えが浮かんでくる。

 書き出した言葉が整理されていき、意味を持ち始める。

 ちょっとした数字の計算を含めて考えをまとめていく。

 色々と情報が足りないところもあるが、上手くいけばかなりの儲けが期待できそうだった。

「…………よし」

 だいたい考えがまとまったところで、ランプを消す。

 この灯りの代金が結構こたえるのだが、考えをまとめるためと我慢する。

 それに、もし上手くいけば、光熱費を払っても十分にお釣りがくる。

(明日、おっさんに確認だな)

 そう思いながら眠りについていった。

 どのみち、明日も仕事がある。

 灯りを点けてまで夜更かししている場合ではなかった。



 翌日。

「おっさん」

 仕事から帰ってきたトオルは、受付に声をかける。

「この仕事なんだけど」

「ん?」

 仕事場にまでもっていったチラシを出していく。

 おっさんもすぐにその内容に目を通す。

 顔がすぐに渋くなった。

「なあ、俺がいうのも何だけどよ。

 本当にこれをやるのか?」

「分からない」

 即座にトオルはそう答えた。

「まだ条件を確認してないから。

 もっと詳しいことが聞きたい」

「まあ、そうだろうな」

「それと、もう一つ確認したい事がある」

「なんだ?」

「これ、こっちの要望とかどれだけ通せる?」

「…………」

 そこまで来て、おっさんも背すじをただした。

 トオルが何を求めてるのかは分からなかったが、ただならぬ気配を感じた。

 少なくとも、からかいや冷やかしでないのは感じられる。

「何を考えてる?」

 いつになく受付の声も硬質なものになる。

 それだけ真剣であった。

 トオルも、顔を引き締めて向かいあった。



「なるほどな」

 二十分ほどあれこれと話しあったあと、受付のおっさんは腕を組んだ。

「確かに、その方が都合がいいかもしれんな」

「そう思う?」

「ああ。

 だが、本当にそれで上手くいくのかは分からん」

 何せ、あまり前例のない事だった。

 なのでどれほど良い案に思えても、今の段階では机上の空論にすぎない。

 だからこそ、実際にやってみて出てくる問題点が見えてこない。

 それが不安ではあった。

 だが、トオルの提案におっさんも納得できる部分はあった。

「お前の言い分はわかった」

 そう言ってトオルからチラシを取る。

「これについては改めて相談してみよう。

 あちらさんと連絡が取れればいいが」

「時間かかる?」

「この村まで一週間はかかるからな。手紙を出しても簡単に返事はこないだろう」

 通信手段が限られてるのでこればかりはどうしようもない。

「明後日に定期便が出るから、それまでにさっき言った疑問と条件をまとめておけ。

 遅くても明日の夜までに俺に渡してくれれば、依頼主に郵送できる」

「わかった。これから書いてくるよ」

 そういってトオルは部屋に向かっていった。



 正直、条件の変更が受け入れられるかどうかは分からなかった。

 相手にも都合がある。

 その都合の中で出したのが、チラシに書かれた条件なのだ。

 報酬額も、期間も、その間の待遇も。

 基本的にそれほど譲歩は期待できない。

 ただ、トオルが出したのは、それとは違った形のものである。

 それほど悪いものではない、むしろそれなりに利益のあるもになってるはずだと思えた。

 偏った条件ならば決して受けいられらない。

 相手にも利益がある形でなければ、考えることもなく断るだろう。

(どうなるかな)

 書き出した条件をあらためて読みながら考える。

 決して悪い条件ではないと思えた。

 もちろん、見落としてる事もあるだろうが。

(ま、こんな所にしとくか)

 これ以上考えてもしょうがない事でもある。

 あとは相手の出方次第にしようと思った。

 ただ、これは予想外の方向に話しを進める事になった。

 交渉自体は周旋屋が仲介となって行うものなのだが、それは思ってもいなかった方向へと話しを進める事となる。



 翌日。

 仕事に行く前に受付のおっさんに条件を書いた紙を渡した。

 あとの交渉は周旋屋に任せる事になる。

「どうなるかわからんが、時間をくれ」

 おっさんの言葉に、分かったとだけ応えた。

 それから仕事へと向かう。

 結果がどうなるにせよ、日々の生活をおろそかにするわけにはいかない。

 今日も日銭を稼ぐために職場へと向かう。

 不安と期待が入り交じったまま、今日の作業に向かいあうために。

 先々どうなるかはともかく、何かが起こるまで今の仕事を続けるしかない。

(依頼してきた村まで一週間かかるっていうし。往復で二週間か)

 それまでは仕事に専念する事になる。

 はずだった。



 条件を書いた紙をあずけて十日。

 仕事から帰ってきたトオルを、受付のおっさんが呼び止める。

「どうしたの?」

 応じたトオルにおっさんが、「この前の事だけどな」と話しはじめる。

「ちょっと大事になってな」

「オオゴト?」

 思わずオウム返しをしてしまう。

「何かあったの?」

「ああ。

 とりあえず、今から大丈夫か?」

「ああ、予定はないけど」

「そうか。

 なら、応接室に来てくれ」

 驚いた。

 応接室は周旋屋が客を、依頼人を迎える場所である。

 それも、ある程度地位のあるの者達を。

 なんでそんな所に呼ばれるのかさっぱり分からなかった。

「なんでそんな所に?」

「行けば分かる。

 なに、そう悪い事でもない」

 そう言いながら受付のおっさんはトオルを奥へと促そうとする。

 断るわけにはいかない気がしたので、言われた通りにする事にした。



 周旋屋の建物の中を通って、普段使ってない方に向かっていく。

 宿泊所などの人員用の施設とは別にある、依頼人などを迎えるための受付などのある建物に。

 基本、こちらに作業員となる者達が出向く事はない。

 立ち入りは基本的に禁止されている。

 客と直接接する事で生じる問題を防ぐためだと言われている。

 目的が目的なので、装飾や調度品なども、それなりに気を配ったものとなっている。

 豪華というほどではないが、宿泊所などよりは高級感がある。

 そんな所に呼び出されたのだから、緊張するなと言う方が無理だった。

 だが、受付のおっさんはそんなトオルを連れて目的の応接室へと連れて行く。

「ここだ」

 周囲の雰囲気に飲まれかけていたトオルは、示された扉の前で固まってしまう。

 その先に何があるのか分からないが、とんでもないものが待ってるように思えてならない。

 いっそ逃げてしまおうか、などと考えてしまう。

 出来るわけもないが。

 受付のおっさんもトオルのそんな状態を察しているのだろう。

 返事を待つことなく扉に手をかけていく。

「失礼します」

 おいおいおい、とトオルは胸の中で突っ込む。

 だが受付のおっさんは容赦なくトオルを中に案内していった。



 中にいたのは、礼装…………とまでいかないまでも、いわゆる余所行きの格好といった風情の男達がいた。

 一人は壮年。

 四十代の後半から五十代といった者。

 もう一人は、六十代くらいだろうか。

 日焼けした肌をしている。

 どこか素朴さを感じる老人だった。

 田舎くさいと思えなかったのは、老人の持ってる雰囲気のせいだろうか。

「よく来てくれた」

 壮年が口を開く。

「君が、道方君かね?」

 呼ばれなくて久しい名字を耳にした。

「あ、はい。そうです」

「なるほど、君なのか」

 老人の方も口を開いた。

「あの、何か?」

 なんとなくただならぬ雰囲気を感じたので少しばかり怖じ気づく。

 どちらも、何となくお偉いさんなんだろうなと思わせるものがあったのも大きい。

 二人はそんなトオルに、

「ま、とりあえず座ってくれ」

「悪い話というわけではないから安心せい」

と声をかけてくる。

 絶対嘘だ、と反射的に思った。

 もちろん二人が害意を持ってるとは思えないし、悪意があるようにも見えない。

 だが、それなりの立場の者の気遣いの言葉は、何かしら裏があるように思えてしまう。

(考えすぎかな)

 用心は大事だと思うが、さすがに警戒しすぎか、と思ってしまった。

 そう思わせてる二人は、穏やかな顔をしているのに。

「まずは自己紹介からかな。

 私はここの交渉の責任者をつとめている那珂野部(なかのべ)だ。

 よろしくな」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 同じ周旋屋の人間であるが、会うのは初めてだった。

 客を相手にしてるのと、それなりの地位にあるからだろう。

 責任者という事は、前世の会社における課長や部長といったところなのかもしれない。

 続いて老人も、

「はじめまして」

と口を開く。

「今回、モンスター退治を依頼した村の村長です。

 尾宇木田(おうきた)と言います。

 よろしくお願いします」

「あ、はい。こちらこそ……」

 言いながらトオルは、なんとなくヤバイと思った。

 モンスター退治の依頼の件での話となると、やはりこの前の依頼条件の変更についてなのだろう。

 案の定、那珂野部が、

「さて、君が提示したというこちらの条件だが」

と言って見覚えのある紙を机の上に出してくる。

「これは君が書いたものかね?」

 その声に圧迫的な所はない。

 態度や表情も。

 しかし、なんでか分からないが、妙に圧力を感じてしまう。

 さて、どう答えよう、とトオルは考えはじめた。

 額や脇に脂汗をにじませながら。


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