イラスト付きレベル番外 どうでもいいような会話も必要な時があります
名無しの雛菊さんに描いてもらったイラストをもとにしてます。
元イラストはこちらを参照
https://twitter.com/nanahina3/status/696209549166915584
なお、名無しの雛菊さんの小説家になろうアカウントはこちら
http://mypage.syosetu.com/591993/
まことにありがとうございました。
「良い仕事ないのー」
いつも通りのぼやきである。
「あるわけないだろ」
いつも通りの返答である。
周旋屋の受付窓口における日常的なやりとりである。
だいたいにおいて作業員はより金額の高い仕事を求める。
そして周旋屋は、回すことが出来る仕事を考えて提示する。
両者の理想と現実はたいてい折り合いが付かない。
なのでこんな会話が割と頻繁に発生する。
「事務仕事なのはともかく、もっと割のいいのもあってもいいんじゃね?」
道方トオルはそんな要求を口にする。
「これ以上の仕事なんていったら、専門的なもんしかないわい」
受付のおっさんは現状を率直に提示する。
高額の仕事がないわけではない。
ただ、それらは一定以上の技量をもった者にしか扱えないものだったりする。
さもなくば、とてつもなく危険か、体力・精神的につらいものが多い。
だからこその高額報酬であり、それなりの代償を支払う事によって金銭を得る事になる。
トオルとて分かってはいる。
だてに前世とあわせて五十年以上の年月を生きてるわけではない。
だが、しかし。
だとしても手取りを上げたいというのは、生きてる限り決してなくならない欲求であろう。
「だいたい、休みの日にまでモンスターを倒しに行ってるだろうが。
それの稼ぎがあるだろ」
「ああ、あれね」
言われた通り、周旋屋からの仕事が無い日はモンスターを倒しに行っている。
「税金と費用を差し引いたら小遣いにしかならないよ」
具体的に言えば、二千銅貨ほどである。
割に合ってるとは言い難い。
赤字にならないようにするだけで精一杯であった。
もうちょっと効率的にやれればと思うが、それも厳しい。
せめて装備を良くできれば違ってくるかもしれないが、先立つものがない。
その先立つものを得ようとしたら、モンスターを更に倒して素材を回収するか、稼ぎの良い仕事にありつくしかない。
「だいたい、モンスター退治なんかしないで、仕事を入れればもうちょっと稼げるだろ」
「そりゃそうなんだけどさ」
「なんでやらないんだ?」
「レベルアップしたいから」
最大の理由がそれであった。
日常的な業務をこなしていても、関連する技能や技術のレベルは上がる。
トオルもこの三年で事務処理関係の技能や技術は一つ二つくらい上がってる。
だが、それでも報酬はそれほど変わらない。
確実に仕事をしてくれる人材と判断され、仕事が舞い込む可能性が高くはなる。
それもありがたい事なのだが、それだけではどうしようもない。
対してモンスター退治は、まだしも稼ぎが上がる可能性がある。
倒した分だけ報酬は増える。
より強力なモンスターからの素材を手に入れれば、更に高価な報酬にありつける可能性がある。
モンスター退治は、トオルにとって、起死回生の望みであった。
「けど、いつレベルアップするかわからんし」
おっさんが痛いところをついてくる。
「言わないでくれ……」
分かってはいるが、聞きたく無い言葉だった。
今も確実に経験値は稼いでるとは思っている。
だが、それは計測不能で、今現在どれくらい貯まってるのかも分からない。
いずれレベルアップするだろう、という曖昧な確信だけがあるだけだった。
「倒したモンスターの数や、強いモンスターを倒せばレベルアップしやすいとは聞くがな」
「だから、もうちょっと良い物が欲しいんだよ」
今使ってるマシェットや鉄板付きの革鎧などが悪いというわけではない。
しかし、それでも専用に作られた武器などに比べると見劣りすると言われてる。
それらは安くて質もそこそこ、補修もある程度簡単、というのが利点である。
あるのだが、武器・防具としての性能はどうしても一段二段落ちるものがあった。
数打ちといわれる量産品であっても、もうちょっと切れ味や威力は上がると言われてる。
防具も敵の攻撃をしっかりと吸収してくれると聞いている。
それを手に入れる金が欲しいのだが。
「もうちょっと割のいい仕事があればなあ」
「あってもお前より仕事の出来る奴にまわすわい」
「ひでえ……」
「嫌なら腕を上げてこい。
それこそレベルアップしてな」
話しが振り出しに戻った。
仕事の受注窓口における日常的なやりとりは、だいたいこんなもんである。
こうやって作業員は日頃の鬱憤を愚痴として吐き出す。
受付係員は、適当に聞き流して不満をそらす。
不毛でしょうもないやりとりではあるが、こんな事で双方は溜まりがちなストレスを発散してくのだ。
日常はこんな調子で過ぎ去っていき、昨日と同じ今日を終えて、代わり映え無い明日に向かっていく。
「どっかに良い仕事ないかな」
「愚痴を言わない作業員も、どこかにいないかねえ」




