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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その1 はてしなく地味な旅立ちっぽい何か
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レベル13 独り立ちしてがんばってはみるのですが、問題がすぐに浮上してきます

「おはよーっす」

 周旋屋の受付に気のない挨拶をする。

 馴染みの受付は、「なんでえ」とこれまた無愛想な返事をする。

 最近はモンスター退治ばかりだったので、ずいぶん久しぶりだなと思った。

「どうしたんだ?」

「仕事だよ。

 何かない?」

 受付は無言で手元の台帳をたぐっていく。

「そうだな……」

 それから適当な仕事を見繕っていく。

「これとこれと、これと……」

 幾つか案件があるらしく、それらを書き出していく。

「とりあえずこれ位だな」

「ふーん」

 見てみると、いずれも事務仕事だった。

「前と一緒だな」

「当たり前だろ。お前に他の仕事を回してどうする」

 周旋屋としては、事務能力のある人間に他の作業を回す理由がない。

「結構、腕も上がったんだけどな」

 登録証を取り出して、能力を示す。

「ほら、戦闘とか出来るようになったし」

「それよりこっちの方が上だろ」

 受付は、相変わらずレベル4や5を示してる事務関係の能力を指す。

 戦闘関係も確かに上がってるが、せいぜいレベル2といったところ。

 事務関係を回されるのは当然だった。

「四の五の言わねえで、さっさと行ってこい」

 受付の言葉に「へいへい」と返す。

 言い分ごもっともだし、断る理由もない。

 その中で一番金払いが良くて、あまり無茶もなさそうな仕事を選んで引き受ける。

 それでも、

「でも、荒事も少しくらいならいけるから、そっちの仕事があったらよろしく」

と言っておく。

 すぐに、

「馬鹿言ってんじゃねえ」

 とりつくしまもなかった。



 やってきたのは今までと変わらない日々だった。

 事務仕事で、紙と筆を手に、数字と格闘する日々。

 何がどこにあって、どれをどこに送るのか。

 しまっている物と外に出す物、処分する物と新たに取り寄せる物。

 それらのやりとりを記載した紙を、右に左に回していく。

 モンスターとの戦いに比べれば楽ではある。

 命の危険を心配しなくて済むのはありがたい。

 あらためてやってみると、命がけの戦いをするよりはこっちの方がいいんじゃないかと思えてくる。

 ただ、稼ぎの上限を考えると、これを続けていく事が良いとも思えなかった。

 レベルが上がっても、それで給料が増えるとは思えない。

 レベルアップによる能力向上はあっても、それがすぐに給料の増加につながらない。

 雇用契約の延長などの可能性は高くなるだろうが。

 これを五年十年とこの先も続けていくとなると、考えるものがある。

 七千銅貨の仕事を今後二十年続けていくか。

 それとも、死ぬ可能性があっても取り分の増加が見込めるモンスター退治に出向くか。

(やるしかないよな)

 レベルアップが収入の増加につながるモンスター退治は、やはり捨てきれない魅力があった。

 このままろくろく貯金も出来ないまま年をとっていく事が怖い。

 この三年ほどで、貯められた金は二十銀貨。

 たったそれだけでしかない。

 それも結構切り詰めてである。

 先々どうなるか分からないが、これを上昇させるためにも収入の増加は必要不可欠だった。

 それに。

(ま、死ぬなら後腐れ無くていいか)

 一度死んだという事を明確に自覚してるせいなのか。

 トオルは死ねばそれまでの煩わしさから解放される、ととらえていた。

 健全な考えではないだろうが、なまじ怖がって何も出来ないでいるよりはと思ってしまう。

(どうせ一度は死ぬんだ)

 それがモンスターに殺されるのか、寿命を迎えるのかの違いだけとも。

 だったら、危険でも可能性のある方に賭けてしまおうと思った。



 仕事に入って二週間はさすがに外に出かける余裕はなかった。

 やる事は大差なくても、職場によるルールがある。

 それに慣れる必要があったので、他の事は頭から切り捨てていた。

 今回の職場は結構長い契約なので、夏頃まで続く可能性がある。

 突発的な増員などで一週間や二週間の短期間だけならそこまでしなくても良いのだが。

 ある程度の期間となると、少しばかり踏み込んだ作業も受け持つ事になる。

 おぼえるのに時間のかかる事もあるので、仕事に関わらない事に頭をまわす余裕がない。

 ただ、二週間もすればある程度慣れるので、そうなればそれほど問題はない。

 職場に入って二週間目の休みには、装備を身につけて町の外へと向かっていた。



 マサト達と一緒だった時と違い、一人で行かねばならない。

 その為、持って行ける物も限られる。

 とりあえず、荷物をのせるために大八車を借りて、解体に必要な物や細々とした道具、容器などを積んだ。

 出来ればロバも借りたいところだったが、金がかかるので諦めた。

 この大八車も、一日二千銅貨かかっている。

 その他、容器や工具に覆いに使う帆布、それらを結わえておくための縄に紐。

 あれこれと揃えて結構な金がかかってしまった。

「やっちまったかなあ……」

 稼ぐためにやってるのに、出費が増えてしまった事を嘆く。

 初期投資としてやむを得ないとは分かっていても、懐にこたえる。

「この分くらいは回収しないとなあ」

 最初に装備を揃えた時の分もまだ回収仕切れてない。

 それも併せて、あらためて投資分を取り戻したかった。



 いつも出かけていた場所へと向かい、いつもの場所に大八車を置く。

 円形の溝もそのままの場所の中央に。

 こうして見ると、これがモンスターの突撃を阻むためのものだとあらためて気づく。

 幅五十センチ程度では大した障害にならないが、モンスターの勢いをある程度阻む事は出来るだろう。

 特に一人で来ていると、荷物を守る事ができるので重宝する。

「やっぱ考えてたんだな」

 経験者の智慧は馬鹿にならない事を思い知る。

 その智慧の一つを借りて、スコップを手に取る。

「んじゃ、やるか」

 誰もいないが、景気づけのために声を出す。

 独り言もどうかと思うが、無言の静寂に堪えられる気がしない。

 それでも、少しは控えようと思いながら足を動かす。

 台車を置いた場所からいくらか離れた所で立ち止まり、穴を掘る。

 直径二メートルほど。

 深さは五十センチ。

 これがどうしても必要だった。

 その準備で一時間ほどを消費した。

 やむを得ないとは分かってるが、モンスターを相手に出来る時間が減るのは痛かった。

(これだと、ギリギリだな)

 できあがった穴に餌を放り込みながら、収支計算をしてしまう。

 他の皆とやっていた時よりは少なめの残飯を見ながらため息を吐く。

 解体にかける時間と、帰りの時間。

 それらを考えると、モンスターを相手に出来る時間はそれほど長くはとれない。

(大八車が二千銅貨だから、最低二十匹か)

 最低でもそれだけこなさなければ手取りは出てこない。

 あらためて面倒さを痛感した。



 そう思ってるうちにモンスターがやってくる。

 盾とマシェットを手にそれらが餌を放り込んだ穴に突進していくのを見る。

 今までと違って、モンスターを受け止める必要がない。

 穴に入っていくのを見て、それから接近。

 餌をあさってるモンスターを上から叩き切っていく。

 何度も相手にしてきたので、相手の急所も分かってる。

 また、餌に夢中でトオルの方を見てもいない。

 その機会を利用して、茂みから出てきた四体の妖ネズミをほぼ一撃で倒した。

 あまりに呆気ないのでびっくりしてしまう。

「え、これでいいの?」

 控えようと考えていた独り言が口から出る。

 そう思えるほど簡単に事が運んだ。

 幸先がよいとしても、ここまで上手くいってよいのかと考えてしまいそうになる。

 それでも結果は出ている。

 穴から取り出したネズミを大八車近くまで引きずっていった。

 それから穴に餌を補充し、次を待つ。

 再びあらわれた妖ネズミを同じように倒して、それを先ほど倒したもののところへと引きずっていく。

 そんな事を四回ほど繰り返す。

 合計十九匹の妖ネズミをこれで仕留める事ができた。

(いやいやいや…………)

 あまりにもあんまりなのでびっくりしてしまう。

「いくら何でもなあ……」

 こんな簡単でいいのか?

 疑問が浮かんでしまった。

 それでも労さず敵を倒せたのだから、それで良しとした。

 考え込んでる暇もない。

 素早く解体しないと、次に差し支える。

 餌を放り込むのを中断し、倒した妖ネズミを解体していく。

 取り出すものを切り取って、容器に詰め込む。

 何度も繰り返し、レベル1がついてるので手際は悪くない。

 それでも十九匹を処理するのは手間だった。

 終わるのに三十分かかってしまう。

 戦闘(と言えるかどうか)も含めて、これで一時間近くが消費されてしまう。

 一人でやる事のきつさを理解するには十分だった。



 時間が経つごとに更なる問題も出てくる。

 においが残るのか、餌を設置しなくても釣られてやってくる妖ネズミも出てきた。

 そういう妖ネズミは、餌のある穴ではなくトオルにも襲いかかる事がある。

 その度に盾を構えてマシェットを振りおろす事になった。

 一段落ついた時には、周囲は妖ネズミだらけとなっていた。

 全部で何匹か数えるのも面倒だった。

 それらを何も考えず、事務的に処理していく。

 そうしてる間にも、新たな妖ネズミがあらわれたりもする。

 解体して戦って、戦って解体して。

 その繰り返しになっていった。

 これでは何も手に付かないと思ったので、残った餌を茂みの方に持って行ってばらまく。

 近くに来なければいいのだから、それで十分だった。

 狙い通りそれは、次からやってくる妖ネズミを引きつける役目をしっかりこなしてくれた。

 解体が終わり、素材を手に入れ、大八車にのせて固定する。

 モンスターは茂みに放り込んだ餌に満足したのかトオルの方にはやってこない。

(今のうちだな)

 撤退できるうちに、余裕のあるうちに撤退する。

 それも教えの一つだった。

 手に入れた素材を積んで、トオルはその日の狩りを終わらせた。



「うーん」

 夜中、いつも通りにベッドで唸る。

 本日の成果を考えると、やはり色々と考えてしまう。

 回収できた素材は六十二匹分。

 一人でやったにしては悪くはない結果だ。

 だが、収支を考えると何一つ喜べない。

 まず、これに三割の税金がかかる。

 そして、そこから大八車の貸出料が差し引かれる。

 トオルが手にした金は、二千三百四十銅貨となる。

 赤字ではないが、本当に小遣い程度の稼ぎにしかならない。

 本業でモンスター退治をしていくとなると、これでは厳しい。

 せめて手取りが四千銅貨を越えないと、生活すら危うくなる。

(そしたら、どんくらい必要なんだ?)

 ざっと計算してみる。

 大雑把に八千銅貨ほどは必要のようだった。

 しかもこれは、ギリギリの生活をするのに必要な金額である。

 ある程度の余裕を得るためには、それ以上が必要だった。

(となると、一万くらいは稼がないと駄目か)

 それだけあれば、差し引いて五千銅貨くらいは残る。

 それでも五千銅貨程度にしかならない、とも言える。

(こりゃ本格的にどうにかしないとな)

 考えるべき事は、解決しなければならない事は多い。



 思った事を並べていくだけでも幾つかある。

 まず、戦闘とも呼べない戦闘であったが。

 穴の中に入ったものたちを相手にするにはマシェットでは長さが足りなかった。

 届きはするのだが、ギリギリになってしまいがちだった。

 もっと刃渡りのある刀剣か、槍のような柄の長い武器を用意したいところだった。



 解体において、刃物が一本では足りなくなってしまうのもある。

 脂肪がこびりついて、切れ味がかなり早く鈍ってしまうのだ。

 これは何度も行った解体によって分かっていたので、予備の包丁を何本か持って行った。

 脂肪も、可能な限り拭き取って使えるようにはしているのだが。

 それでももう少し増やすか、ぬぐい取る布きれなどをもっと増やすか、といったところだった。

 とはいえ、これらを持って行くにしても、大八車の大きさと、トオルの体力の問題がある。

 素材を積み込んで帰る場合にはその分重量も増してるので、積載量を考えないといけない。



 モンスターを迎撃、そこまでいかなくても足止めするための罠も用意しようかと考えていく。

 一人で全てをやるのはきついし、解体中に襲われたら面倒だ。

 とはいえ、どうやって設置すればいいのか分からない。

 そもそも、どんな罠があるのかすらも分かっていない。

 漫画やアニメなどで出てきたようなもので良いのか、それらが本当にあるのかと思ってしまう。



 何よりも、人がいないのがつらかった。

 マサト達ほど優れてなくてもいいが、とにかく人が欲しかった。

 戦闘をしてる間に解体を進めてくれたり、事前の準備などにかかる時間を減らすためにも。

 今日は一人でやって、それがどれだけ大変かが分かった。

 出来ればあと一人欲しかった。

 だが、それもまた難しい問題をはらんでる。

 一緒にモンスター退治に出向いてくれる者を見つけるのは難しい。

 そういった者達は、既に他の誰かと組んでる事がほとんどだった。

 残ってる者もいるかもしれないが、それらがどれだけ使い物になるか分からない。

 冒険者という職業が抱える問題の一つだった。

 誰でも就く事が出来るだけに、後ろ暗い過去がある者や、本当に使えない人間などがどうしても多くなる。

 仕事が回ってこない連中は、だいたいそういった者だというのがこの業界の常識である。

 まともな奴は仕事を与えられるし、既に他の誰かと組んでるもの。

 そうでない者はかなり珍しいと言えた。

 仲間を募るのは、だから難しい。

 誰を信用すればいいのか分からないのだ。

 もちろん仲間を募るだけの余裕があるのか、という問題もある。

 だが、仮に募るとしたら、どんな人間を採用するのかを考えねばならない。

 採用試験や面接を受ける側ばかりだった今までで、なんで採用されなかったんだと嘆いた事を思い出す。

 なるほど、人を用いるというのは簡単ではないのだと実感する。

 採用する側にも都合や事情があり、それと合致する人間を見つけるのは本当に難しいのだ。



 逆にトオルが既に出来てる冒険者の一団に加えてもらう、というのも考えたが。

 これも入社と同じくらい難しい。

 受け入れる側からすれば、トオルが使えるかどうか悩む所だろう。

 だいたい気心の知れた仲間通しで一緒になってるし、その中に入っていくのも大変だ。

 臨時で増員が必要な時には加わる事もできるかもしれないが。

 なのでこれもやはり難しい。



 そうしてあれこれ悩んで、結局トオルは、

(当分は一人で、小遣い稼ぎでがんばるか)

という事だった。

 すぐに人を増やすわけにもいかない。

 どこかに入る事も難しい。

 ならば、自分だけでやっていくしかなかった。

 もう少しモンスター退治のやり方について考える必要もある。

 入手可能な道具は可能な限りすぐ手に入れるにしても、人はそう簡単にはいかない。

(やる事いっぱいあるな)

 道具を揃える事も考えねばならない。

 現状ではどれもすぐには解決できないものばかりである。

 ため息をもらしながらトオルは目を閉じた。

 すぐには眠れないだろうが、いつまでも起きてるわけにもいかない。

 これ以上考えても妙案が浮かぶわけでもない。

 とにかく今は、さっさと眠って疲れを抜くことを優先するしかなかった。


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