レベル89-1 さすがに警戒したようで迂闊に手が出せ無くなってます
「さすがに警戒してるのかね」
二十匹の小鬼を倒した翌日。
小鬼の群れから出発する一団がいない。
朝から見張ってるのだが、昼近くになるのに全く動く気配がなかった。
今日も中から出て来るなら、そのうちの一つを潰そうと思っていたが。
「これじゃ、さすがに手が出せないか」
合計五十匹ほどの小鬼を倒したが、まだまだ群れはかなりの規模を保っている。
そんな所に殴り込みにいけるほど、トオルは無謀ではない。
「どうする、兄貴」
一緒に来ていたサトシが聞いてくる。
一昨日、昨日と群れから出て来る連中を襲撃した。
それによって敵は行動を控えている。
これでは手の出しようがない。
「せっかく、あんだけ倒したのに。
これじゃ何も出来ねえよ」
戦闘はないにこした事は無いが、何の成果もあげられないのは不満なのだろう。
他の者達も似たような思いを抱いてるらしい。
「もうちょっと倒せれば、村も安全だろうし」
「このままってのはシャクですよ」
タカユキ・シンザブロウも、手が出せないのがもどかしいようだ。
「でも、あの中に突っ込むわけ?」
「さすがに無理だぞ、あれは」
レンとアツシが慎重論を唱える。
無理もない。
合わせて五十の小鬼を倒したとはい、その何倍もの数がまだ残ってる。
その中に切り込んでいけるほど無謀にはなれなかった。
だからこそ誰もが思っていた。
では、今日はいったいどうするのか?
疑問の答えを、トオルに求めて。
「ま、これはこれでいいんじゃないか」
トオルの声はあっけらかんとしたものだった。
「はい?」
「だからさ、これはこれでいいと思うよ、俺は」
「…………なんで?」
サトシが驚く。
何も動きがない────いや、群れの内部でなら小鬼は動き回ってるが──── 小鬼を見て、何で良いと言えるのか。
「あいつらが動かないなら、それだけ俺らは平和でいられるし。
村も襲われないのは確かだろ。
これはこれでいいじゃん」
言われるまでもない事をトオルは口にする。
「でも、まだあんなに残ってるんだぜ。
このまま放っておいたら危ないじゃん」
「ああ、そうだな」
「だったら、どうにかしないと……」
「どうにかは、もうなってるよ」
「…………へ?」
ますます意味が分からなくなった。
何もしてない、何も動きがないのにどうにかなってるとは?
誰もがトオルの言いたい事を理解しかねていた。
「まあ、単純な事なんだけどさ」
そう言って説明が始まる。
「あいつら、外に食い物とか調達しにいってたんだろ?
まあ、実際に何が目的だったのかは分からないけど。
で、今日はそれが無いわけじゃん」
「まあ、そりゃあ」
「あいつらが一日でどれだけ食い物とかをとってきてるか知らないけどさ。
あれだけの規模だ。
一日で相当稼がないと大変だろうよ」
「まあ、そうだろうけど」
「で、一日稼ぎに出られなけりゃ、その分食い扶持は減る。
減れば、その分飢える。
そうなれば、体力が落ちる」
「あ……」
「そっか……」
言われて気づいた。
小鬼も生物である以上、食事は必要になる。
それを手に入れられなければ、いずれ潰えてしまう。
「まあ、そのうち何とか外に出て来るだろうけど。
その時はその時でどうにかすればいい。
今は、奴らが外に出てこないよう見張っていよう」
その言葉に、サトシ達は頷いた。
もう手を出さないでいる事に疑問や焦りを抱いてる者はいなかった。
何もしないでいても、小鬼達は自分達で自分達を潰していく。
だったら、こうして動きが出るまで待つのも良いと思えていた。
「でも兄貴」
「なんだ?」
「メシとか用を足すときとかどうすんの」
「…………」
「兄貴?」
「まあ、何とかしようや」
「…………」
「…………」
その後、トオルは見張りの交代順などを決める事となった。
今日も14:00に続きを出します。




