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碌(ろく) ~懊悩と破倫・・それは・・~

其の感情が純愛なのか邪恋なのか判断すらつかぬまま・・・

私は此の魅惑的過ぎるヴァンプ(妖婦)の誘いにこたえ・・


さらに強く其の甘すぎる媚体を抱きしめた。


そして、少女を抱きしめたまま大きく息を吸い込み

改めて周囲を見回し、己が状況を確認しようと試みる。


悪あがきのような最後の抵抗のような理性の欠片が

私にそんな行動をとらせたのかも知れなかったが。


確か・・=にえどこ=と言ったな、此の子・・此処を。


恐らく・・=贄床にえどこ=と言う事か。


確かに一度入り込んだら逃げようが無さそうな

ある意味、悪趣味極まりないベッドルームでは在るわな。


=にえどこ=と呼ばれた其の洞窟内の高床の寝所は

外からの光の差し込まぬ闇の深奥、胎内の如き場所の中央。


其れは私のような愚かな男、いや、雄を此の子に会わせるための

極めて巧妙に堅牢に構築された一種の=罠=・・


そして、此の子が其の美味な餌であり、

また=にえ=を喰らう本体でもあるのだろう。


あの神社の6年に一度の姫神楽ってのは・・壮大な疑似餌釣り

いや、鮎の伴釣ともづりのような儀式なんだな、恐らくは。


私は改めて此の村と神楽について調べて行くうちに感じた

周辺の連中の奇妙な雰囲気と微妙な惧れや嫌悪に思い当たる。


ああ、彼らは詳細や真実こそ知らなかったが・・気づいては居たのだ。

此の鄙びた僻村で営々と行われ続けてきた此の姫神楽の危うさに。


其のにえに進んで飛び込んできた莫迦が俺ってことだ。


いや、もしかしたら、あの姫神楽の噂自体意図的に流されて・・・


外部からのにえを呼び込むために・・あの村の連中が・・


思い起こせば思い起こすほど今までの不自然さがあらわになってくる。


当初から村を挙げての計画的なもんだとしたら

・・此の場所から逃れる方法は無いに等しいわなあ。


あの神楽で惑わされている最中に拉致られ

何が起きたか理解できず不安と恐怖に苛まれて此処に辿り着いて・・


いざ来て見れば、こんな人間離れした極上の色香を放つ

美麗で妖艶な子が居て・・其れも無造作に=行為=に誘って来る。


此れに耐えられる奴って、余程の女嫌いか・・同性愛者だろうなあ。


愚にも付かぬことを考えつめはじめていた私は、其れに気づいて赤面する。


と、同時に思う・・ああ、此処、時間の概念が物凄く判り辛いんだ。


時間経過を知る方法が・・一切、此処には無い・・此れも一種の=罠=だな。


驚愕、恐怖、其の後に誘惑と快楽・・時間の概念を喪失しやすい閉鎖空間・・

一度堕ちたらもうただ溺れて行くしか無い・・ある種の行為に。


其れは想像するだにおぞましいが甘美な・・快楽と嗜虐欲の・・=煉獄=だ。


だけど・・此の子、今、二日二晩って・・確かに言ったよな。


こんな場所で二日二晩の時を如何計るのか私には見当も付かなかったが

此の少女は此処でずっと暮らしたと、ああ、先ほども語っていたな。


兎も角も此処まで来たら此の子の願いどおり・・やってみるしかあるまい。


凄まじく困難で、不可能に近い、我慢大会って事になりそうだが・・な。


私は幾分自嘲的に笑うと改めて腕の中に居る少女を意識する。


子供らしい熱い体温と背徳の匂いが香る、蒼く、熟す途中の極上の媚体。

此の小さくて妖艶な少女の肢体と素肌を合わせて密着したまま

最後まで獣欲に溺れずに自制を保てるかという自信なぞ、正直なところ

其の時の私に在るわけでは決して無かったのだが・・・


此処に至って私は、此の少女の切なる願いに応えるべく覚悟を決めた。


暫くの間は、ただ、少女の瞳を見つめ続け・・

触れ合った素肌を動かす事を出来る限り避けながら

其の肌の熱さや年齢から想像もつかぬ蠱惑を

私の中に芽生えた此の少女への=恋情=・・

いや、其れは=憐憫=と=保護欲=かも知れなかったが

其の感情で何とか打ち消そうと必死に努力する。


尤も其の決意と努力も何時まで保っていられるか・・・


其れほどに此の少女の肢体の醸し出す誘惑と媚態は

想像を絶するレベルの凄まじい代物だった。


肉体は今すぐにでも己の獣性に身を委ね

此の眼前の美肉を完膚なきまでに牙に掛けろ、と

其の細胞一個一個が咆哮するが如くたける。


其れに対しこころは外見よりなお弱く幼くさえ思える

此の少女の本質が、必死に求めている救済を乞う歔欷きょき

何としても応えてやるのが己の義務だ・・と

不退転の構えで必死に抵抗する・・・


正直、狂ったほうがまだ楽かも知れない奇妙な快楽のうちの業苦。

其れは此の世のものならぬ甘美にして異様な感覚だった。


そんな私の葛藤を知っているのか否か・・

此の天性の魔性のような少女は

密着させた肌の熱さを一層激しく燃え上がらせて

私の体に回した手や絡めた脚、絹の如き肌理の柔肌を

無意識に震わせるようにしながら密着させ

吐息とも溜息ともつかぬ柔らかな呼気で

切なげに、何かを懇願するが如くに私にしがみ付き続ける。


ただ、一つ先程までと違っていたことがあった。


其の妖艶にして異形の運命を背負わされた少女は

其の肉体こそ共に臥す男を愛欲の坩堝に引きずり込むべく

人為らぬものの如き壮絶な色香と誘惑のオーラを

何かのしゅのように放ち続けては居たが・・


其の瞳は先ほどまでの妖絶で艶麗な光を宿すことは無く

不毛の荒野を彷徨う孤独な迷い猫のような

激しい慟哭と深い怯えの色を湛えて震えていた。


永劫、逃れられぬ筈の枷から・・もしかしたら・・


銀河のなかにたった一つ零れた砂粒を拾うほどの

小さく儚い希望に必死に縋りつこうとするように

私のなかの何者かに切なく哀しげに訴え続けていた。


其の願いに私が応え得るかは・・


私自身にも予想の付かぬ範疇の未来では在ったが。



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