互(ご) ~異界の蠱惑~
「どんな男のひとでも、夜のお宮に来て・・・
=ひよみ=の踊りを見てしまったら
この=おにぃぇのいわつぼ=で
=おにぃぇさま=になって、
はるの=のけもの=のようになる。
=ひよみ=はそういう=けがれ=も、うけたの。
あのやきもちやきで厳しい=まてる=から。
その血のつづくずうっと先のさきまで・・・。
でも、でもね、この=にえどこ=で
・・二日と二晩・・=ひよみ=と・・
=ともぶし=して・・
・・=おにぃぇさま=に・・ならない男のひとが来たら・・
そのひとは・・・その時は・・きっと・・」
少女はそう言うと、意を決したようにすっと立ち上がった
肢体を私の眼前に晒しながら・・ゆっくりと・・
其の白い繊指で薄絹の裳の襟を大きく広げ
樹皮を剥ぎ落すかの様にはらりと脱ぎ捨てる。
其処に現れたのは淡い桜色に染まった透明感のある肌
膨らみ始め大きく息づく柔らかそうな胸乳
自然に描かれた曲線はすんなりと伸びた脚につづき
下腹は意外なほど豊かに盛り上がって秘襞に繋がる。
翳りひとつ認められぬ女陰のあたりを隠すことも無く
其処に屹立する少女は・・まさに=神の眷属=の如きものを感じさせた。
「臣さまも・・脱いで・・」
私は言われるまま、抗う事も出来ず、着ていた奇妙な装束を脱ぐ・・
ただ其の最中も輝かんばかりの少女の裸身から目が離せない。
先程感じていた青く何処か扇情的で甘い香りが再び馥郁と湧き上がる。
其の密度も濃度も最前のものとは比べ物にならぬほど強く豊かに。
私は少女同様の一糸纏わぬ裸身になり・・彼女の前に立った。
少女は祈るような懇願するような眼差しで私を見つめていたが・・・
「・・そう・・そのまま・・ゆっくり・・
ひよみのとこに・・・来て・・おねがい・・」
直接目にした、其の輝く裸身に眩惑され、
吹き付けてくるような青い香りに酔わされ
私はふらふらと、しかし、何の躊躇も無く・・少女に近づく。
先程の野のけもののような性急さのある抱擁ではなく・・
ゆっくりと絡みつく木蔦の如くに其の腕が私を捉える。
吸い付かんほどに肌理の細かな白い肌が
胸から・・そして腹・・そして・・其の下の柔らかな膨らみまで
私に徐々に触れ、そしてぴったりと密着して来た。
そして、大きく溜息のように甘い息を吐き出すと
少女は・・より深く触れ合おう・・と、
甘えるような視線で私に共に仰臥するように即す。
私は彼女を抱いたまま自分からゆっくりと褥に横たわった。
熱い体温の少女らしい身体が私の体幹の中心に収まる。
更に其のしなやかな腕や脚がゆっくりと絡みつく。
全身を密着させたまま・・少女は其の重さを私に預け・・
緩やかに私の首筋に己が頤を重ねるようにしながら
ゆっくりと私の体の上を柔らかく這った。
触れ合った肌から、此の世のものならぬ
快美感がざわざわと湧き上がる。
破廉恥な言い様だが全身が男根になったような
凄まじい未経験の快感が私を襲った。
少女の息遣いが耳元で聴こえる・・
其の青い甘い香りも強くなる。
だ、駄目だ・・こんなもの・・
二日どころか五分だって我慢が・・・
滾り立ってくる獣欲を必死に抑えようと私は目を閉じた。
「だめ・・おねがい・・ひよみの、
ひよみの目を・・見て・・臣さまぁ。」
甘い睦言というには幾分切迫した少女の声に、
私は再び慌てて己が目を開く。
眼前には少女の顔が触れんばかりに近づいていた。
思わず本能的に其の桜の花弁のような
可憐な唇を奪おうとした、其の瞬間、
必死に向けられた少女の視線と直面する。
その潤んだ瞳には・・こんな状況にも関わらず
其の身体の扇情的な動きとはまったく異なった色の光が。
黒に近い鳶色の、深さを湛えた瞳には・・・
此の年齢の少女には決して在りえない、
慟哭、悲嘆、・・懇願と幽かな期待・・
そして絶望と希望の綯交ぜになった
あまりにも切ない=光=が宿っていた。
ああ、その時、私はそんなものを・・確かに見た。
「・・いましかないの・・
つぎのおまつりのよるになれば・・
ひよみは十八になってしまう。
どんな男の人も・・がまんなんか・・
出来なくなるって・・おかあさんが。
はじめておどるときだけしか
むすめになるかならないかの。
=いま=しかないの・・
でも、そのときに・・ほんとうの・・
=・・・・=が・・来て・・くれたら・・」
少女の声と瞳の色は間違いなく私に何かを
いや、多分、=救い=を懇願していた。
際限なく体のうちから湧き上がる凄まじい獣欲。
此の少女の肉体の甘美な動きに誘われるままに
思うさま此の美肉を凌辱しつくしたいという嗜虐心。
だが、逆に其の稚さと
哀しさに満ちた瞳の哀訴への深い憐憫。
何としても守り助けてやりたいという願い。
対極の感情が濁流のように私の胸中でせめぎ合う。
・・此の子を・・俺は・・
くそっ・・いや・・
駄目だ・・だが・・
此処から出られるかも
明日生きているかも判らんのに・・・
こんな餌を前にしてお預けに応じるのか・・
いや・・そんなんじゃない
・・・此の子は・・・
今・・俺同様に・・
何かに・・必死で・・・
私の心中の葛藤を知ってか知らずか、
少女はさらに潤んだ瞳で・・
殆ど愛訴に等しい切なげな声で・・
私の目から視線を逸らすことなく・・
「ねえ・・ひよみの目を
・・おねがいです・・
目を・・見て・・ください。
そして・・おしえて・・
いろんなこと・・
臣さまの見たこと・・
なんでも・・みんな・・いっぱい・・
ひよみ・・この=おにぃぇつぼ=から
出たこと・・ない・・の。
おやしろも・・おかぐらも・・
こんや・・ はじめ ・・て・・
おかあさん・いなくなってから・・
ずっと・・ひとりで・・ここに・・ 」
そう囁く声が徐々に小さくなって行き
最後、耳元で囁くように・・ぽつりと・・
吐息にも泣き声にも溜息にも似た響き。
・・確かに聴こえた少女のちいさな・・願いの声。
「・・ひよみを・・たすけて・・・。」
其の囁きは・・この世のものならず。
幽冥を異にする何処かの世界から切なく甘く
必死に懸命に差し伸べられた・・救いを乞う手。
私のこころの一番深い部分に、
響き、染み渡って行く=祈り=にも似た言葉。
・・こ、此の子を助けなきゃ・・誰でも無い、俺が、だ。
其の瞬間、私は此の地上に普遍的に存在し
恐らく先史時代から蔓延していたであろう
治療法も特効薬も存在しない極めて重篤な疾患に
・・完全に感染してしまったのを自覚する。
其れは大方の場合、少年期から青年期に掛けて罹患し
成人してある程度を過ぎると免疫らしきものが出来
殆ど其れで重篤な症状に陥ることのないと言う
ある種、特殊な突発性の=亜・精心疾患=である。
其れは・・本邦に於いて歴史、時代の新旧や罹患者の年齢を問わず
どうやら・・=恋=・・と総称されている代物らしかった。