爾従似(にじゅうに) ~おわりのはじまり~
知る 能わず・・か・・ああ・・そうか・・
真理とはそういうもの・・かも知れないねえ・・~
微笑してそう締めくくったのを最後に
=蒼の教授=の声もふうっと消えて
=蒼=の世界を再び沈黙が支配する・・
聴こえるのは私と=ひよみ=の魂の心音、緩やかな鼓動。
その静寂のなか、先ほどの・・二つの翳の・・
やりとりとも付かぬ声なき声を=思う=うち
私の中に再びおぼろげなものが湧き上がる。
無論、=ひよみ=も其れと同じものを
感じているのは言うまでも無いだろう。
思うに・・此処に具現した翳の様々な姿からして
此の=奈落=と呼ばれた異空間は=蒼の教授=の言通り
神代以来の歴史時間に生きた=雄=・・・
=にぃえ(贄)=の男たちの残り香と言うか
=魂のエッセンス=の・・・=入れ物=。
つまり、ひとの、いや、=贄=となった雄・男の
記憶残滓で満たされた場所って事はなんとなく判った。
其処に、理由は判らぬが私は導かれた・・と、いう事か?
確かに数夜前からの異様な体験からすれば、
此の期に及んで如何なる不条理や不思議が
具現しても驚くことじゃないかも知れんが
先程もちょっと引っかかった、厳然たる事実。
何故、=ひよみ=と=おかぐら=に及ばなかった
性行為による快楽の交歓に及ばなかった
言うなれば中途半端な、=贄=にすらならぬ私までが
其の・・この精神残滓の世界に来る事が出来たのだ?
其れ以上に・・何故・・=ひよみ=が・・此処に?
思えば・・間違いなく、さっきのあの=銀の樹々(きぎ)=。
=よもくぐつ=を健気に、必死に=請い求めた=あれは・・
時の中に埋もれた以前の=ひよみ=たちの何か・・
そして・・たぶん、あの=よもつしこめ=も・・。
あの=銀の樹々=には代々の=ひよみ=の=こころ=が宿るのだとすれば
=よもつしこめ=とは・・恐らく・・残された=肉体と本能=か?
全ての獣的な欲求、怨恨、激怒、怨念・・そんなものを纏わされ
自分たち以外の全ての存在を怨嗟しつづける・・=とこい=其の物だとしたら。
=ひよみ=が・・嫌悪したのは無理も無い・・か。
此の子、究極の=おんな=で在りながら・・
未だ=おんな=として熟し切らぬこころとからだを持った
ファンム・アンファン(子供としての女)な此の子にとって
完全な=おんな=とは憧れであり運命であると同時に
純粋で穢れない時間の・・ある意味の終焉なのだろうから。
其の=おんな=の本質が露悪的に具象化されたものが=よもつしこめ=なら・・
此の世界のあらゆる存在にもまして・・
此の子の=嫌悪=の対象になっても不思議は無い。
とりとめもない思考が私の中で独白のように流れていく。
そして、私の推論は遂に一番の疑問、核心へと至る。
そう、私は、此処に来る通過儀礼を・・果たしていないじゃないか。
=おんな=として未完成な・・此の・・=わたし=の=ひよみ=と
ある意味=贄=として中途半端すぎた=わたし=
そんな、=過程=にある・・=不完全な贄=のわたしが・・
=こころ=が分け隔てできぬ程ひとつになってしまったとは言え
此処に今まで来れなかった=ひよみ=を伴って此処にいる理由って。
どうして、此の場所に来れたのか・・
何か特別な・・いや、其れは・・多分・・・
特別な理由は私たちのほうに在るんじゃ無く・・
ああ、¬=来させられた=のか・・私たちは。
あの時・・あの=女神=によって。
恐らく、何か、極めて重要な目的の・・ために。
=ひよみ=という存在の・・根源に関わるような・・。
其の時、=ひよみ=の微妙に弾んだ=こえ=が・・・
~臣さま・・そう・・臣さま・・すごおぃ・・・
じぶんで・・わかっちゃったんだ・・
=ひよみ=さまも・・そう言ってる・・よ。
=ひよみ=・・どうしてだろ・・うれしい・・な・・~
~=ひよみ=ちゃん・・
そう、言ってるって?・・其れ・・~
~そう・・ああ・・=ひよみ=さまが・・
おはなし・・した・・い・・って・・~
=ひよみ=の意識がふうっと黙り込む。
ことん、と目の前で、うたた寝に落ちたように。
其れと同時に先程の=女神の声=が・・
幾分人間臭い響きとスケールで・・
=ひよみ=を媒体にし、彼方から伝えらるかのように
幽明く響いてきた。
~此の子の 言葉と話し方を借りますね・・
灘島・・いいえ・・臣さま?~
其の声は・・暖かく柔らかく成熟していて・・限りなく優しかった。
~貴方は・・最後の・・=ひよみ=が愛した=すさ=の欠片・・
此処に散らばる=贄=と呼ばれた男たちは
すべて、皆、あの時、=あきつま=の=時=に身を投げた=すさ=さまの欠片。
いくつもの欠片を=みたま=に宿した・・=すさ=さまの=こども=。~
=こども=と言う言葉に、信じがたいほどの甘く豊かで重い情感が籠もる・・・
其の声は間違いなく・・ああ・・=母=の・・=母のこえ=だ。
~あの日、わたしの姉、=まてる=と呼ばれた気高く強い、
それゆえ何よりも弱かった姉は・・
=ひよみ=も=すさ=も殺せなかった。
けれど、ふたりが・・同じ=時=のなかで睦みあうのも許せなかった。
=まてる=は・・=ひよみ=に=とこい=を掛けました・・・
でも、其れは、臣さまの思うような=呪い=とはちょっと違うの。
=まてる=は=ひよみ=と=すさ=が全きものとして
=あきつま=で=おかぐら=が出来ぬようにって・・
じぶんの目のとどくところ全てで睦みあうことの無いようにって・・
泣きながら=おねがいしたの・・=ひよみ=と=すさ=に。
=ひよみ=は・・其れを聴いて・・哀しさと切なさで・・
ほんとうにたくさんのものを・・こころもからだも・・捨ててしまった。
からっぽになるくらい、自分で、自分をばらばらにするくらい。
=すさ=は・・そんな=ひよみ=を
全きものに戻す・・って
そう、=すさ=も自分に=とこい=をかけた・・
じぶんがじぶんでなくなっても
・・=ひよみ=をもとに戻して
=ひよみ=の笑顔をもう一度見るために・・
=すさ=は自分で自分を=砕いた=の。
其の時のわたし・・いえ、=ひよみ=だったものは
・・そう・・まるで、あの=よもくぐつ=のように
白くてつるりとした・・ものになっていた。
そうして、このせかいのあらゆるところ
・・時の果てまで散らばった=すさ=の欠片は
その時々の=あきつま=の=おのこ=に宿って
・・此処に来たの・・
=ひよみ=だったものが眠っている・・この=いわやと=に。
最初は・・=ひよみ=の身体の
・・いちばん=おんな=な・・ところ・・
=すさ=の欠片だった神代のいくさびとは其れを戻した。
其のとき、成り余らざるところ(女陰)を切り開くのに使ったのが
=よみぢ(黄泉路)=で臣さまが持たされた=七指の剣=。
そして、その=すさ=の欠片は・・
=ひよみ=の顔の言霊を放つ唇を
甦らせるために、自分の=声=も投げ出した。
=すさ=の欠片の温もりを冷たい肌に感じた時
じぶんにいったい何が起きたか・・
初めてそのとき=ひよみ=だったものは気付いた。
=ひよみ=だったものは・・物言わぬ=すさ=の欠片をかき抱いて
哭きながら=すさ=の欠片と交合ったわ。
そして・・最初で最後の=とこい=を・・願った・・其れはね・・
~ああ、此の数多の世に砕けた=すさ=の欠片が此処に集まるまで
=ひよみ=の血が絶える事の決して無きように・・
そして、何時のときか、すべての=すさ=さまがお帰りになったとき
=ひよみ=が全きものとして、此処に生まれることが出来ますように。
そのためなら=ひよみ=はどんなさだめにも甘んじます~
其の、あまりに壮絶で、限りなく切なく甘い述懐は
私のなかの何かを激しく揺り動かし・・そして・・優しく縛り付けていく。
私のなかに在った何かが、緩やかに浮かび上がり、揺れ動き、悶えた。
そして独白は、なお続く・・滔々と押し寄せる波のように。
~=ひよみ=の願いは叶えられた・・=ひよみ=は月満ちて・・
=すさ=の欠片の真奈児(まなこ~愛児)を産んだわ。
其の娘には・・しっかりと=すさ=を見ることの出来る目が
=すさ=の欠片の=いのち=と引き換えに与えられていたの。
七日七夜・・命のかぎり・・人形のような、醜い=ひよみ=を
こころから愛し、睦んで死んだ=すさ=の欠片の。~
~そして、其のむすめが十八に育ったとき
・・二人目の=すさ=の欠片が・・この=いわやと=を、
命がけで尋ね来て・・=ひよみ=になろうとしているものと
また七日七夜、愛し合って睦んで・・いのちを捧げたの・・自分から。
=ひよみ=は、また、失った何かを取り戻し・・泣きながら・・
=すさ=の欠片の=すべて=と引き換えに
あらたな=ひよみ=を身籠り、育て・・そうして・・
最後はあの=黄泉路=に己が身を隠した・・。~
私の中の何かが、其の独白に共鳴する・・そして・・号泣しながら身悶える。
~そう、最初にこの=あきつま=のものが見た、=よもくぐつ=は・・
=ひよみ=になろうとする=ひよみ=の姿だったの。
彼らは其れを何か神秘なものとして敬して、でも恐れた。
=よもくぐつ=って呼ばれたのはずうっとずうっとのちの世のこと。
そう・・=ひよみ=になろうとするものは・・その時々で・・
その白うるりのような見た目から=ひるぅこ(蛭子)=と・・呼ばれたり
あの白いすがたから=おしぃら=と呼ばれて・・神様として扱われたり
おかしいわね、元々はほんとうに=かみさま=だったのにね~
深く甘い豊かな=女神の声=がくすくすっと笑って一瞬途切れた。
・・私は、其処まで聴いて愕然とする・・じゃあ、あれは・・
=よもくぐつ=は、元々=ひよみ=だったもの・・なのか?
いいや、あの口調や行動、雰囲気、どう考えても俺同様の=おとこ=じゃ?
私の疑問に応えるように再び其の=声=は流れ始める・・私の中に、何処からか。
~=ひよみ=は己が子を産み終え、
其の子が十八まで育つあいだ・・
自分が=よみぢ(黄泉路)=に下るまで
其の=みたま=を・・うまれてきた新しい=ひよみ=に
・・ことごとく継ぎわたし・・伝えた。
決して=すさ=さまを忘れぬように
・・少しずつ時間をかけて・・新たな=ひよみ=が
=おんな=として育つまで・・営々と何代も。
そして=黄泉路=に降りて行き
空っぽになった=ひよみ=の抜け殻の中には、
=すさ=の欠片の=こころ・・
=大事な=吾子=と=吾妹子=を
護りたいと願うあまり此の=いわやと=に残っていた
=こころ=の端が宿って・・
だから・・=くぐつ=は=ひよみ=の・・おとうさんでおかあさん・・~
~じゃあ・・あの・・=銀色の樹=は・・いったい?・・~
私ははじめて其の圧倒的に暖かく甘い声に問いかける・・・
ああ、何だろう、此の柔らかく切ないむずむずする感覚は・・・
まるで・・何かとても優しいものに・・甘えさせて貰うような・・
私の=こころ=のときめきに其れはふうっと微笑んだようだった。
~あれは・・あれは=すさ=の欠片の・・残されたからだの変じたもの。
そう、やどかりが・・互いの殻を交換する様に・・
=ひよみ=と=すさ=の欠片はお互いの残された入れ物に・・・
わかるでしょう・・たとえ其の殆どが失われてしまったあとでも
=ひよみ=も=すさ=の欠片も・・一緒に居たいと願ったの。
お互いの=うつわ=のなかで、永劫の時を、いっしょに・・
そして、其の時切り捨てられたひとの中のけもの・・
其れが此の黄泉路の冥気にあてられて凝り
ひとの本来の形であるおんな、雌の姿を模して生まれた・・
あなたたちが戦った=しこめ=とは、人の業其の物。
思えば・・あれも哀れなもの・・この、とこいの産んだ・・~
女神の述懐に心を奪われていた=私=・・だが、ふと・・
其の言葉の中に小さな疑問、矛盾を見つける=私=。
其れは頑是ない子供が見たままの事象に抱くような・・
だが、重大で本質に迫る、無垢ゆえの疑念にも似た問い。
~でも、何故、=くぐつ=は・・あんな、真っ白なつるんとした姿で?
ひとつひとつ・・=ひよみ=であるために必要なものを
取り戻して、そうして行ったのなら・・
目や口や鼻や・・そんなものが徐々に増えて行っても
・・いいはず・・ですよね・・でも・・~
幼子のようにちょっとむきになって問いかけた私は・・其の途中で気づく。
ああ、そうか・・其の、取り戻したものもすべて
・・ああ・・・すべての=ひよみ=は・・
我が子を全き=ひよみ=に近づけるために・・
惜しみなく与えたのか・・何一つ残さず・・
自分と=すさ=の欠片が産んだ・・この世でいちばん愛しいものに。
ああ、なんてこった・・そんな・・そんな凄まじい・・それって・・
~いいえ、ちっとも酷いことも
凄いことでも無いのよ・・臣さま。
何故って、其れが・・そう・・
=おかあさん=なのですもの。~
少し照れくさそうに、だが、絶対の信念と確信を以って
=女神の声=、すべての=ひよみ=の始まりの=声=が・・告げた。
私の胸のうち、いや、私の=こころ=のうちで悶えていた何かが
とうとう堪えきれなくなったかのようにぐうっと浮かび上がってくる。
私の、透明な蒼の空間でかたち造られた私の胸の辺りに・・
其れは・・信じられないくらい透明で曇りの無い=蒼=の欠片。
其処には・・すべての哀しみと憧れと愛おしさが凝縮しているようだった。
其れは=おとこ=が=おんな=に抱くものでは無い、もっと原初の・・
ああ、其れは・・思慕だ・・幼子がそのすべてで母を恋う・・純粋無垢な=思慕=
絶望的な程に甘く、切ない感情の波が=わたし=の中から溢れ出す。
欲しかったもの、焦がれつづけたもの、でも其れを直視できなかったもの・・
=こころ=に刺さったすべての棘が、優しく暖かな繊指で
慈しみ慰めるかのように、そおっと取り除かれていき・・そして・・・
~貴方が・・最後の=すさ=の欠片・・
最後まで此処に戻って来れなかった=すさ=の哀しみと憧れ、
そう、嬰児のような純粋な=思慕=。
やんちゃで、乱暴だけど、とっても素直で優しくて濁りの無かった
あの=すさ=さまの・・=ひよみ=のたいせつな・・
=すさ=の・・いちばん大事な・・=思い=の欠片・・~
そう言うと原初の女神、根源の=ひよみ=の本質であろう何者かは
其の豊かな圧倒的な暖かさと労わりで、震える=わたし=の=こころ=を
優しく柔らかく抱き寄せ、抱きしめ、包み込んで・・愛撫した。
~この欠片を宿して、きっと・・苦しんだことでしょうね。
永遠に手に入らないものに焦がれつづける、そんな思いを
生まれながらにして背負わされて・・貴方は・・きっと。
でも、此処に来てくれた、わたしたちすべての=願い=
ようやくに=全きひと=に成り得た・・=ひよみ=を連れて。
そして、ああ、やっと・・帰ってきてくれた・・・。
=ひよみ(わたし)=の・・=すさ(おとうと)=。~
私が愛し求めた=ひよみ=と全く同質の甘く香る柔らかな何かが
比類なく豊かで大きな、甘く切ない、癒しと救いに変じながら
私を限りなく柔らかく包み込み、幼子をあやすようにそっと揺すった。
私は・・ただ、泣いていた・・他の全てを忘れ・・
全くの純粋な憧憬と思慕に突き動かされ、其れに=甘えて=いた。
永遠にこうしていたい・・やっと・・見つけたんだ・・
・・=私=のこと・・待っていてくれた・ああ・・
~おかあ・・さん みたいだ まるで ずっと・・ずっと・・~
其の甘美な魂の揺り籠のなか・・もうひとつの稚い声。
其れはちょっと可愛く甘やかにだだを捏ねるが如くふんわりと・・
~いや 臣さまをとっちゃいや =ひよみ=さま
臣さまは・・=ひよみ=の、・・臣さまなの~
~ええ、良くわかっていますよ・・=ひよみ=・・
あなたは、もう、わたしたちの愚かな=とこい=に
縛られることも無いし、苦しむこともないわ。
あなたのおかあさんの、そのまたおかあさんの・・
そう、原初の=ひよみ=まで繋がるたくさんの思いをあなたにあげる。
愛おしいものと寄り添って・・時と共に暮らし、
笑い、泣き、怒り・・其の欠片を身にうけて身籠って
老い、育て、時に別れ・・また出会い・・
そうして、あの=あきつま=の=ひかり=のなかで・・
命尽きるまで・・暮らすのですよ・・=ひ よ み=
あなたは・・さいごの・・=ひよみ=なのだから・・ね・・~
何時しか、其の甘く柔らかくしかし抵抗できぬほど強く豊かな声は
私と=ひよみ=の中からゆっくりと離れ・・此の=蒼=の空間に満ちる。
ああ、行ってしまうの・・私の・・ほんとうの・・おかあさん・・
私は己が魂の深奥が純粋な哀しみで啜り泣くのをはっきり感じる。
求め続け焦がれつづけ其れでもなお届かなかったもの・・・
其れにやっと触れ、抱かれた瞬間に、永遠に消えようとしているもの・・
其の哀しみは先程の=まてる=の慟哭にも似て深く重く切ない・・
が、其れを・・懸命に健気に癒そうとかき抱いてくれる手が・・あった。
~臣さま・・臣さま・・泣かないで・・
=ひよみ=ずうっと・・臣さまと・・
ずうっといっしょにいるから。
ね、もう、寂しくないの・・
ずうっと・・ずうっと・・ずうっと・・~
懸命に訴え掛け、私のこころをかき抱いて震えるもうひとつのこころ。
其れは小さく、稚く、か弱いものではあったが
本当に何の迷いも穢れも無しに私を懸命に哀しみから救おうとしていた。
私は・・あらためて其の小さな、か弱い、愛おしいこころにそっと触れる。
そして・・思いの全てを込めて囁いた・・其の名を・・たった一言。
~ああ・・=ひよみ=・・ありがとう
・・私の・・=ひよみ=~
次の瞬間、=蒼=の空間が再び爆縮するかのように一点に凝縮する。
浮かんでいた=すさ=の欠片たちは、皆、微笑みや会心の笑みを浮かべながら
其の爆縮の怒涛に同化する様に流れ込み・・私たちを包み込んで・・・
一気に、上へ・・仰ぎ見れば真の=蒼=に輝いている
まるで成層圏の如き果ての知れぬ深い=蒼=の高みへと・・・
まるで歓喜のうたを謳うかのように打ち震え満たされながら
いっさんに駆け上って行くかのように動き始めた・・疾走する光の矢の如く。
~ああ、私たちも・・これでひとつになる・・もともとの=すさ=として~
~拙僧の役割、ああ、今、はっきりと判りもうした、御仏よ~
~行くか、我々が、本来在るべきところ、還るべきところに~
~粋だねえ、ああ、こんな可愛いののために何かできるたあねえ・・~
~あそこには、おれの・・あいつが・・ずっといてくれるでよ~
~待つという事は存外に切なきものよ、されど、今は全てが・・美しい~
~神代のとき、御前に侍らわんと、願いし、今、ここに・・おお・・~
~此れも幻影、いや、其れでもいいな、彼女にもう一度・・彼女に・・~
無数の至福に満ちた呟きが私と=ひよみ=を包み込んで溢れ流れ出す。
気づけば私たちはあの=よみぢ(黄泉路)=の空間の虚空・・・
剣の林、銀の樹々、黒く固まった=しこめ=の残骸、蒼く光る=くぐつ=
そんなもの全てが静謐に佇立する上の空間に浮かんでいた。
現し身の肉体、互いの息遣いとあの蒼い夏の媚薬の香りに包まれ
熱く、柔らかい=ひよみ=の肌を現実のものとして感じながら。
~ああ、吾が背・・今こそ・・
此処に・・我が身を抱きたまへ・・~
無数の至福の囁きに応える美しく豊かで
限りなく甘い・・=声=のユニゾン(斉唱)
其れは・・ああ、=ひよみ=たちの・・歌う声。
静謐で暖かな暴風雨のような此の光と音に成らぬ囁きの渦の中
今まで一度も聞こえてこなかった声が殷々と・・響く
「我は・・還れり・・全ての=吐乞い=は此処に失せん。
全ての鎖、全ての置石、全ての柵を・・今、打ち壊さん
=子=らよ・・我がもとに・・ああ、・・されど・・
全き=ひよみ=に添うた・・=子=よ。
そなたは、最後の務め、此の時を閉じ、=吐乞い=を閉じる
其の全てを・・見届けて・・共に・・我が妹の血と・・共に・・」
大きく、強く、熱っぽく雄大で、されど若い・・微塵も穢れの無い、朗々たる声だった。
私と=ひよみ=はお互いしっかり抱きあったまま其の声の響きに打ち震える。
何か、凄まじいまでの感動と畏怖・・そんなものをおぼろげに感じながら。
だが、其の声は何処か懐かしく強く凛々しい・・先程とは違う優しさで溢れていた。
~臣さまと・・おんなじ・・みたいな・・においが・・する・・~
ぽつりと呟いた=ひよみ=の声・・ああ、其れは現実に聴こえる=音=だ。
其の、甘く切ない呟きをかき消すように、朗々たる声の
最後の一言が・・白昼の天空を駆けわたる雷電のように・・私たちを打った。
「・・・・生きよっ・・・共にっ・・・」
次の瞬間・・其処に存在した、全ての過去と現在が・・何かに昇華する。




