似充(にじゅう ~青の奈落~
主人公とひよみは分かちがたく抱き合ったまま
此の黄泉路の空間に続く異空間へと・・
其処には此の物語の真相が隠されていた。
私と=ひよみ=は意識の中でも分かちがたいほど抱き合ったまま
幻想と奇跡の境目のような怖いぐらい蒼い空間の中に落ちていく。
怖くなどは無い・・湧き上がる高揚感と
抱きしめた=ひよみ=への愛おしさで、
私は至福の境地にさえに在ったのだから。
そして・・落ちるような昇るような不思議な感覚の果て
私と=ひよみ=が流れ着くように包み込まれるように至った其処は・・・
静謐で深い蒼、太陽のひかりの及ばぬ
わだつみの底のごとき=蒼=
其処はそんな深く穏やかな=蒼=で満たされていた。
ふたりの心音だけがまるで何か遠い響きのように緩やかに共鳴し打ち続ける.
昏くも無く眩しくも無い=蒼=の中空に私たちは漂う。
もう、其処に言葉は必要なかった・・私たちは其の意識を一にしていた。
精神が融合し魂の一部さえ共有した・・此の世に在り得ぬ生き物のように。
彼方から、何かが聴こえる、いや、見えるのか?いや、判るのか?
其処には、ちょっと野卑なイメージはあるものの凄まじく逞しい体躯の
だが、何処か少年のような面影を残した男がひとり。
其の姿は古墳時代の貴族や王族の着るような白い布を纏っている。
彼は、その大きな澄んだ瞳で何処かを見ていた・・遠い果てを。
其の視線の先には何が在るか・・いや、在ったのか私にはすぐに判った。
そう、其処には、今、此の=蒼=の空間を満たしているものの主
=ひよみ=のはじまりである女神が間違いなく存在しているのだと。
其の逞しくも初心っぽい青年は、
其の眼差しの方向に向かおうとする。
しかし、其の前に何者かが立ちはだかる・・
其れも巨大な何か・・=力=
其のもうひとつの力は、何処か威圧的で冷たく硬いように思えたが
其の奥の奥には、うねるような奇妙な熱さと切なさを滲ませていた。
最初は押し付けるように、
其れが叶わぬと知って今度は縋りつくように
青年に纏わりつき
懇願さえするかの如く切なさを滲ませ
彼の逞しい歩みを止めようと
懸命に立ちはだかる其の・・=力=
青年は其の=力=が何者かを見定めたようだった。
そして、彼は・・素晴らしく透明な笑顔で微笑むと・・
其の五体を虚空に打ち付けでもするように思いっきり・・投げた。
恐らくは此の存在平面の何処でも無い場所に居る
何者かの胸に己が身を何の躊躇も無く・・投げた。
=蒼=の世界の中に、更に深く濃く
輝かんばかりの=真蒼=が砕け散り、
尾を引くように散らばり
其のそれぞれが思い思いの方向に向かって消える。
そして・・=蒼=の世界は一瞬静まり返り
・・次の瞬間・・吹きすさぶ暴風のような
=慟哭=で満たされた。
さっきの圧倒的なほどに大きな=力=が・・哭いている。
冷酷なまでに整った、微塵の狂いも見えぬほど堅牢に見えた=力=
其れが、まるで、ああ、私の胸の中で泣きじゃくったあの時の=ひよみ=より
さらに儚く、幼く、まるで赤子が純粋に母を呼ぶ時のように泣き叫んでいる。
そして・・其の哭き声、声なき声は徐々に小さく儚く切なく細って・・
だが、其れに連れてさらに其の哀しさや痛みは深く重くなっていくような・・
=慟哭=という言葉そのものが具現化したかの如き=嘆き=
私には其れが何か、おぼろげに理解できた・・
あんなにも切なく、=哭く=もの。
・・・己の比類無き=強大さ=さえ忘れて、
・・・稚い子のように。
あれは・・たぶん・・=まてる=だ・・
ああ、好きだっんだ・・彼が・・ほんとうに。
己の血を分けた妹神を責め呪っても、
なお、己が手にしたいくらいに。
頭で判っていても止められない、
愛と言う究極の=病=
其れが全ての、ああ、此の無限連鎖の
=吐乞=の根源にある悲劇。
改めて私は気づく・・此の=とこい=は・・
やっぱり=呪い=だったんだ。
其れを吐いたものも、吐かれたものも・・同様に
苦しみ嘆き憤って哀しみ・・巻き込まれて・・
永遠に終わらぬ・・凄まじいまでの=愛=の縛鎖
~誰が・・悪いなんて・・
悪かったなんて・・もう・・~
私がふっとそう呟くようにこころのなかに思いを広げた時
奇妙なことに私とひとつに重なっている=ひよみ=のこころも
数夜前、彼女が吐き捨てるように語っていた=まてる=の名を聞いても
憎しみも怒りもそして深い恨みさえ紡ぎだす事は無く・・
ただ、何処か透明で切ない哀憐のような感覚をふわりと漂わせるのだった。
~きらいだった・・ゆるせなかった・・
でも・・けど・・=まてる=も・・
=まてる=さまも・・どこかかわいそう・・~
其の、述懐のような、=ひよみ=のこころのささやきが零れた直後・・
=蒼=の空間、いや、時空と言うべきかを
染め上げ押し流すように溢れた滂沱の涙のような
=哭き声=の奔流は・・徐々に収まって行く・・
そして再び、静謐で柔らかく、何処か暖かい
=蒼=が空間を支配する。
其処には、先ほど散らばって行った
あの若い神・・=すさ=の欠片が・・
星屑のように点々と漂い、それぞれ異なったひかりを放ち漂っていた。
其のひとつが、私と=ひよみ=の鼓動と温かさに惹かれるように
つうっ・・と、音も無く近づいてきて、更に明滅する様に輝き始め・・・
私と=ひよみ=の、完全にひとつになった=こころ=のすぐ傍で
何処か、理知的な響きを持った、案外に若い男の声が囁くように響く。
~ああ、君が・・最後の・・・
灘島・・臣くん?・・~
其の声はしっかりと私の名を呼び、
深い安堵の溜息のような気配を漂わせて響く。
「・・誰ですか? 僕(=ひよみ=)を呼ぶあなたは・・」
「・・だあれ? 臣さま(わたし)を呼ぶの・・だあれ?」
私と=ひよみ=の問いが一つに成って広がる・・=蒼=の空間に。
=其れ=は・・更に微笑むが如き静謐で
暖かな響きで私たちに応じた。




