表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

重死地の参 ~とこよのひかり~

果てしなく続く謎のシコメとの闘い、いや一方的殺戮

其の中で精神を崩壊させかけた主人公と神の裔ひよみに

偶然差し込んだ救いのひかり・・とこよのひかり、とは。


幻想伝奇風少女愛小説・・ようよう後半に突入です。

嘔吐しそうな死の舞踏が次々と役者を変えて続く・・

其れこそ、永劫に終わりなど無いと思えるほど淡々と・・


=ひよみ=はもう殆ど血の気の無い顔色になり

悲鳴さえ上げられずに呆然と佇立して震えている。

私にしがみ付いた腕や触れ合った其の躰からは

純粋な恐怖と嫌悪が・・伝わってくる。


其れでも先程から健気に声をあげずに居るのは

此の子なりの強い決意の表れか・・・

私は其の健気さに改めて此の子が愛おしくてたまらなくなった。


=ひよみ=も必死に、今、何者かと、多分己の運命と

=ひよみ=を縛り続けた運命の縛鎖ばくさと闘っていた。


だが、其の我慢も何時まで続くか・・

と、思えるほど此の闇の中の死闘は凄惨さを増す。


実際、私自身も脚どころか躰全体が

竦んだようになって情けないが=ひよみ=同様

動くことすら出来ず、口も利けぬ。


こんな殺戮の場に引き出されれば誰だって・・そうだ。


いのちの奪い合い、いのちの潰しあい、生きるためとはいえ。


何の怨恨も、いや、今の今まで其の存在さえ知りもしなかった

異形とはいえ、如何にも人臭ひとくさい、何かを・・

こうも無残に、躊躇なく、何の感情さえ持たずに・・・


正直、私は此の暗黒の虐殺ショーに気おされ、嘔吐しかけていた。


ああ、思えば現代人、いや俺は・・・平然と肉を喰い魚を食む・・

だが、其のいのちを直接奪う光景を殆ど知らない。


其の生き物のいのちを断たねば食えぬと言う事実を

概念として認識しても・・形が在り今蠢いているものが

眼前でむくろと変わるような光景を

目の当たりにするような経験は・・余程でない限り・・見ることは無い。


だが・・其れは・・・ああ・・・そんなせいは・・


生き物として、究極に歪んだかたちの

=いのち=の在り方ではないのか・・・

此の暗黒の惨劇、いや、死闘の只中で

私はふとそんな事さえ思い浮かべてしまう。


脆弱ぜいじゃくで身勝手な・・ひととしてのおのれ


・・醜いのは・・俺か?・・

あの・・=しこめ=たちか?


ああ、こんなこと・・いつまで・・此処で・・


其れは私の中にどうしようもない葛藤と

激しい慚愧の思いを呼び起こす。


此の光景は・・私への、いや、

今の人間への・・=ばつ=か・・


胸の中に湧きだした黒い絶望と

厭な自嘲の笑みが私を蝕み始めたころ

眼前の暗中で続く暗闘は、

既に一方的な虐殺に近い状況を呈し始めていた。


=よもくぐつ=たちによる

=よもつしこめ=・・の、虐殺。


・・だが、何のために。


ああ、何故・・此処で

こんな事が起こらなきゃならない

・・此処で・・此の場所で。


如何に人外のおぞましい姿をしているとはいえ

・・=しこめ=は自分で動いているじゃないか。


しかも、醜くおぞましい姿形だけど

明らかに、あの=くぐつ=がそうだったように

元は人間、いや、=おんな=・・いや、・・ああ・・


此の=ひよみ=と同じものの・・成れの果て?

だったらこれって・・ああ・・そんな・・


時折吹き上がる怒号の如き音吐。


凄まじい悲鳴のような響き。


言葉にさえ成らぬ其の苦鳴くめいさえ

明らかに何かの感情のような色合いや

抑揚が滲みだしている=いきもの=の声。


私は其の瞬間、そう=聴いて=しまった。


息も止まるような衝撃、絶望的な悔恨、己に対する嫌悪・・


あらゆる負の感情が私のこころを

此の=よみぢ(黄泉路)=以上に

重く黒く穢く・・蝕んで染め上げようとする・・


こんな非道が、許されて良いものか・・

其れを・・こうして・・ああ・・何のために?


・・ああ、そうだ・・俺たちのためだ。


此の永劫の牢獄から解放されたいと望む此の子と

そうしてやりたいと望む俺の・・ためだ。


生きるという事は・・他の何者かを・・

殺さずに居られぬと言うこと・・だと・・いう事・・か・・


ならば、何よりも・・此の俺が・・

真っ先に・・闘わねばならない・・はず・・だ・よな。


この=くぐつ=たちよりも・・先に・・

此の子のために・・いや、俺自身のために・・


私は、幾分其の殺戮の気配と響きに酔わされ

己のなかのどす黒い感情に支配されかけ

呆然自失として、全く無防備に・・ふらりと前方に歩み出す。


右手に持たされた木の枝のように刀身が分かれた

奇妙な剣を握り締め、其れを振り回そうとしながら。


恐らく絶望的に自棄を漂わせた・・

人には絶対に見せられぬ形相で・・

悪夢に浸食され、無意識に動く夢遊病者のように・・


まるで初めて見た時のあの=よもくぐつ=のような魂の無い動きで。


自殺行為の様に無防備にふらりと歩み出ようとした

私の殆ど人形の如き動きを・・其の時、=ひよみ=が無言で止めた。


其の震える腕と躰を、さらにしっかりと

私に巻きつけるようにしがみ付いて・・必死に止めた。


そして・・先程以上に震えた声で

・・なかば叫ぶように私に・・・


「だめぇ・・行っちゃだめっ

 おねがいっ・・臣さまぁっ・・


 あれは、あれは・・ちがうの。


 =くぐつ=も・・=しこめ=も・・

 ひとじゃないのっ・・もう生きていないのっ。


 だから・・どんなになっても


 死ねないの・・だから・・・もう・・」


=ひよみ=は、私のとりとめない思考を読み取ったかのように

必死に此の惨劇の中心で私を縋り留め、哀願する様に叫ぶ。


「=ひよみ=が、いけないの・・


 あんなになったのは・・みんな・・

 =ひよみ=のせい・・=とこい=のせい。


 だから・・臣さま・・行っちゃだめっ。

 臣さまがたたかっても・・どうにもならないのっ。


 でも・・こんなの・・いや・・


 =よみぢ(黄泉路)=は・・いや・・


 =ひよみ=・・やっぱり・・ここに来なきゃ・・こんな・・」


=ひよみ=の声には、深い嫌悪と自棄、切なすぎる後悔の響き。

深い絶望の色・・大粒の涙が其の叫びと同時に零れ落ちた。


「臣さま・・


 =ひよみ=・・やっぱり・・

 戻らなきゃ・・あそこに・・


 =ひよみ=は・・やっぱり・・

 =けがれた=・・いきも・・の・・」


私は其の一言を聞き、一瞬で己を取り戻す。

こころを蝕み始めていた黒いものを必死に振り払う。


そして・・=ひよみ=に向かって叫んでいた。

今まで出したことも無いような大声で・・


「=ひよみ=っ・・


 くじけちゃだめだっ。

 

 ああ、げちゃだめだっ! 

 

 絶対に逃げないぞ!・・一緒に行くんだろっ!」


其の絶叫にも似た音吐は、無意識にではあるものの

=ひよみ=だけでなく私自身にも向けられたもの。


震える脚、激しく拍動する心臓、

ぼんやりと酔ったように曇る眼。

思わず目を背け逃げ出したくなる暗中の惨劇、

其れを彩る音、空気のおぞましさ。


其れでも、其れと対面し直視しなければ

・・私は、いや私たちは・・其れと対峙して・・

其れを乗り越えなきゃ・・駄目なんだ。


此の子をあの運命の鎖から解放するって決めたじゃねえか。


此処で俺が挫けたら、此の、のっぺら姉ちゃん・・いいや

=よもくぐつ=の連中にさえ何の顔向けも出来ねえじゃねえか。


迷うな、莫迦野郎・・最後まで折れるんじゃねえ、=俺=。


私のこころに再び湧き上がってくる奇妙に熱く猛々しい感情。

まるで其れに唱和するかのように周囲の=よもくぐつ=たちが・・


おう=と聴こえるような無言の雄叫びを挙げる。


私と=ひよみ=を囲んだ円陣を崩さぬまま

=くぐつ=たち全員が再びじりじりと前進をはじめる。


闇の中に苦鳴を響かせ、汚れた血しぶきを白砂にまき散らし

じりじりと・・じりじりと・・一団となって・・前に。


其の凄まじい闘気のようなものに気おされてか

=しこめ=の群れも微妙に後退を始める。


だが、其の数は・・次々と絶えることなく増え続け

暗黒の剣林の其処かしこから

敵意と怒りの視線を私たちに注ぎ続けていた・・

ささながら一斉攻撃の期を覗うかのように、執拗に。


あの、何処か機械的な声が・・幾分以上に人間味を帯びて

再度私の脳裏に響く、幾分焦りをみせたようなニュアンスさえ伴って。


~これでは、らちもなし・・

=しこめ=もわれらも すでに死せしもの~


~とわにこの=よみぢ=であらそいつづける

=みたまのぬけがら=~


~ああ、とこよのひかり、

ひとすじでもここにあらば・・~


~あまてるのとこいにて、ここに

=とこよ=のひかりはよもやあらじ~


~とこよのひかり とこよのひかり われらが=とこい=をはらいたまう~

~とこよのひかり とこよのひかり =あまつみかがみ=に~

~とこよのひかり ただひとすじでも この=よみぢ=にあらば~ 


とこよの?ひかり?・・何だ、其れは?


其の無言の囁きを耳にし、思わず口に出して自問する私。

それに=ひよみ=が震えながら呟くように応えるともなく答えた。


「・・とこよの・・ひかり・・

 とこよの・・この=よみぢ(黄泉路)=のものじゃない・・


 あの、=おにぃえのいわつぼ=のものでもない・・ひかり


 ・・でも・・・そんなもの・・どこにも・・」


=よもくぐつ=の声なき声が聴こえているのか否か、定かでは無かったが

=ひよみ=はくぐもった声で消え入りそうに呟いて虚ろな目を伏せた。


でも、そんなものここに在るわけはない・・

これからも在るはずがないの・・・


そう言いたげに=ひよみ=は私を見上げ、かぶりを振る。

其の表情も瞳のいろも、再び絶望と諦観の中に沈んで行くようだった。


私は其の小さな躰を再び強く抱きよせるが、震えは止まらない。


ほんの少し、曙光とも言えぬ希望を見出した直後だけに

此の無垢で、ある意味脆もろい神の末裔すえにとって

其の絶望の深さは今までの比ではないのだろう・・・


くそっ、俺には何も出来ないのか

・・此処まで来て・・・此の子に何一つ・・

じゃあ、何のために・・俺は此の子を。


より深い絶望の中に落とし込み、

さらに重い鎖に縛っただけじゃないか。

此の・・こんなにも震え怯え哀しんでいるちいさな生き物を。


私の胸中に此の黄泉路よみぢ同様の暗く深い絶望と

悔恨が再び湧き上がりかけた・・其の時だ。


ふと、私は己が羽織った作務衣の如きものの袖から

かちゃかちゃと奇妙に金属的な音が聴こえるのに気づく。


=ひよみ=のちいさな躰の震えと

私の脚の震えが其れをもたらしていた。


其の音は小さく鋭く、また何処か冷たく

・・此の暗黒の戦場に響いた。


何処か癇に障る、其の金属的なノイズのような音・・


ああ、此れは、あの、・・ああ、=エロライト=の音か・・


もう帰れるとも思えない私の

マンションの鍵に付けておいた・・


帰れない・・あの、普通の暮らしの。


・・=エロライト=?・・


=ライト=・・持っていた・・何故?


俺が・・仕事先で手に入れた・・

地上の俺の・・仕事で・・


仕事・・いつもの仕事・・くりかえしの飯のタネ


・・・日常の・・世事せじ・・


・・とこ・・・・って


・・ああ、・・あああっ


「こっ、此れかあっ!・・

 大穴一点、どんぴしゃっ、

 BINGOビンゴっ!」


周囲の暗闇を震わせるほどの大声が思わず私の口から飛び出す。


耳の無い=くぐつ=が思わず振り返りかけるほどの大声。


絶望のなかに陥り掛けていた=ひよみ=さえ驚愕して私を見上げるほどの絶叫。


重く鈍い打撃音のような剣戟の音も=しこめ=の異様な声も

一瞬、何かの合図でも在ったかのようにぴたりと一瞬止まるほどの叫び。


私は性急にたもとに手を突っ込んで・・そいつを掴みだす。


間髪を入れず、一瞬静止した=くぐつ=の誰にともなく私は怒鳴った。


「あまつ・・=あまつみかがみ=って・・

 どれだあぁっっっ・・・・」


殷々と黄泉路よみぢに響き渡る私の必死の絶叫。

明らかに動揺しわらわらっと動く=よもくぐつ=たち。


~=あまつみかがみ=は=ひよみ=がたずさえしもの、おんかたさま~


~=とこよのひかり=にて=あまつみかがみ=をてらしたまえおんかたさま~


~ああ、=とこよのひかり=・・よもやこの=よみぢ(黄泉路)=に・・~


「お、臣さまっ、どうしたのっ・・

 いきなり・・大きなこえっ・・」


「=ひよみ=っ・・其れだっ、

 其の=かがみ=をかざせっ!早くっ!」


思わず修羅場仕事の最中の口調になった私の大声に

一瞬びくんと震えたものの、=ひよみ=は・・


ああ、たぶん此の子は本来、敏い賢い子なのだろう・・


はっと気づいたように先程から抱えていた

銅で出来たと思しき円盤をしっかりと両手で握りしめると、

私の肩口を超えるくらいの高さにまで思いっきり、

ぐっと、持ち上げ、いや、何かを捧げるように突き上げた。


同時に周囲から声なき声のどよめきと

驚愕の悲鳴のような声が沸きあがり真闇のなかに木霊する。


私は震える指先で=エロライト=

いや、アルゴンライトのスイッチを探る。


そして其の位置を手探りで確かめ、

つるつるした小さな金属筒を握り締め

=ひよみ=のさし上げ、かざしている

=あまつみかがみ=が在ると思しき場所に

ライトの先端を向けると・・


殆ど祈るような思いでスイッチを・・入れた。


けえっ!点いてくれっ!

 ・・このっ!このっ!このっ!」


かちり・・という金属筒の回る幽かな音と同時に・・・

蒼く、鋭いが何処か暖かい強烈な光が私の手の中からほとばしる。


闇の中に何かをかざして立つ=ひよみ=の姿が浮き上がる。

まなじりを結し、唇をきっと結んだ凛々しい表情。


私たちの最後の希望のような何かを高くかざしたその腕は

すっと天を指すように真っ直ぐに上に伸ばされ、時折細かく震える。


其の全身には力が籠もり、真っ直ぐに、上に、殆ど爪先立つように立っていた。


私は=ひよみ=のかざした=あまつみかがみ=の中心を狙うように

手にしたアルゴンライトの光の先端を祈るような気持ちで振り向けた・・


尤も、其の祈りに応えて何が起こるかは、全く知る由も無かったが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ