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従互(じゅうご) ~時からの解放?~

贄の床に在った主人公と謎少女ひよみの前に

新たに開ける道・・其れは何処へ続くのか。

そして・・・長い贄夜の終わりは

・・存外に、あっけなく、訪れる。


「・・見て、ねえ・・

 おみさまぁ・・見て・・

 =くぐつ=が・・・ほら・・まっすぐに・・

 あんなとこに・・ならんで・・」


興奮した少女の声と、小さな拳が胸を叩く違和感で私は目覚めた。

練絹の褥のうえ、小さな兎のように私に飛びついて来る=ひよみ=。


昨夜まで煌煌と焚かれていた篝火のような灯りは消えており

代わりにあの白面女身の木偶のような=よもくぐつ=たちが

其の指の数も判らぬ手に、悉く松明のような燃えさしを持ち

彫像のように佇立して白砂の上に二列に並んで続いていた。


其の照らされた通路のような白砂の先には

私の入ってきた入り口とは異なる

幾分、小さな洞窟が口を開いている・・

其の穴は下に向かって続いて居るようだった。


「わたし・・何もいってないのに・・あんなこと・・今まで・・」


=ひよみ=の声は幾分興奮気味で、

如何にも少女らしい甲高さを伴っている。


其れは極めて普通の、年相応というより

・・かなりおさなさを含んだ声。


先夜までの妖絶さや蠱惑は殆ど感じられぬほどに薄れているようにも思えた。


「あのしたに・・=くらと=があって・・その先に・・」


「・・其の先に何が在るんだい?・・=ひよみ=ちゃん・・」


「・・良くはわからないの

 ・・でも・・=ねい=の国の入り口と

 =あきつま=に出られる=いわやと=が

 ・・あるって・・おかあさんがっ。」


「・・で、出口って事かい?・・其処に行けるって事?」


「わかんないよっ・・ひよみ・・

 此処から行ったことない・・行けなかった・・

 でも・・今は・・行ける・・よね・・

 ねえ・・行けるよねっ。」


興奮して聞き取りづらくなるほど早口で

しゃべりかけて来る=ひよみ=


私は躊躇なく数夜前に脱ぎ捨てた筒袴と上衣を引っ掴んで着る。


そして、私にしがみついて

何か喋りつづけている=ひよみに=

二日前の夜に彼女が纏い、脱ぎ捨てて居た

・・透き通る薄絹の夜着を纏わせる。


そして其の露出度があまりにも

地上では扇情的に過ぎるように思えたので

練絹の褥の一部を歯で噛み切ると

音を立てて引き裂いて印度か南米の民俗衣装のコスプレよろしく

無言で=ひよみ=に強引に着せ付けた。


「・・あん、・・くすぐったいよぉ

 ・・おみさまぁ・・」


私のちと強引に過ぎる手や指の動きが

無作為に何処か敏感な部位にでも触れたのか

思わず上がる鼻に掛かった甘い嬌声が

一瞬背筋にぞくりと響きはしたが


何よりもまず此処を離れる事が出来るというなら其れが最優先、と

強引に無視して=ひよみ=の衣装替えをどうにか終わらせると・・・


ちょいと邪険にふにゃふにゃ言う=ひよみ=を小脇に抱え

・・勢いをつけ小走りに・・両足を踏み鳴らす様にしつつ

助走をつけ、高床の寝所から・・よいしょっと飛び降りた。


無論、四十路越えの軟弱なテレビ業界人

・・しかも華奢に見えるとはいえ大人に成り掛けの少女を

小脇にして飛び降りるなぞは暴挙の域で・・

私はご想像通り、尻から・・・

ものの見事に白砂を蹴散らかして着地、いや、落下する。


まあ、抱えた少女はしっかりと離さなかっただけ偉いと自賛しておくが。


「あっ・・つぅ・・いや、ちと無茶だったか


 ・・・でも・・俺・・此の高さ・・

 どうやって上ったんだ?・・


 どう見ても・・3メートルは在るぞ。

 来たときは・・ほんの・・・


 膝の上くらいし・・か、無かったはず・・だけ・・ど・・。」


噛みかけた舌を庇いつつ独り言のように呟く私に=ひよみ=が言う


「だ、大丈夫?・・臣さま・・

 いたくない?・・こんなに・・高く・・」


「ああ、こう見えて頑丈だから・・

 でも、=ひよみ=ちゃん・・此処、こんなに・・」


「おすなが沈んだの・・わたしたち眠ってる・・ときに・・

 だから・・=くらと=の入り口が・・あそこに・・


 =くぐつ=が照らしてるとこ・・たぶん・・=よみぢ=・・」


黄泉路よみぢ・・か・・じゃあ、行く先は

黄泉平坂よもつひらさかってえ事かい。


ふっ、こんな伊佐那美いざなみなら、

地獄からでも何処からでも=拉致って=やらあ。


妙に気合が入った述懐を心中で呟くと私はなんとか立ち上がる。


=ひよみ=は心配そうに私に肩を貸す様に寄り添いながら微笑んだ。


其の頬が情欲とは別の感情で上気しているのがはっきりわかる。


ここにきて初めて彼女のまえに、

行く先の判らぬ道、つまり未来が開けたのだ・・


其れは更なる絶望に続くものかも知れなかった・・が。


少なくとも・・此処に彼女を、彼女の母を、また其の母を・・

そう、歴代の=ひよみ=たちを永劫の長きにわたり

縛り付けていた枷と鎖の一端は切れて落ちた。


其れも私と言う素っ頓狂な莫迦男の

予想だにせぬ我慢と言う=珍事=によって。


「たぶん、この灯りのところは・・

 とおってもだいじょうぶだとおもうの・・


 ほかのところはもっと下に落ちてしまうかもしれないけど・・

 

 =よもくぐつ=は=ひよみ=だけは

 まもろうとするから・・たぶん・・。」


「・・行こう!・・=ひよみ=ちゃん!

 ・・いや、来てくれるか?俺と。」


「うん・・・=ひよみ=・・

 いっしょにいく・・臣さまと・・

 行くとこが・・=ねい=の国だってかまわない。


 =ひよみ=・・臣さまにお話ししてもらったもの

 ・・ぜんぶ、じぶんで・・見てみたいの。


 連れてって・・どこまでも・・

 

 =ひよみ=、いっしょにいかせて・・。」


私は差し伸べてきた=ひよみ=の手をしっかりと握りしめると

ゆっくり足元を確かめるように白砂の上に一歩を踏み出した。


人類にとってはさほど偉大では無かっただろうが、

私と此の永劫の虜囚の少女にとっては果てしなく大きな一歩を・・


ふたり同時に、寄り添って、しっかりと踏み出した。


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