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重燦(じゅうさん) ~愛情の本質~

極上の贄同士で在る筈の神の末裔とひとの男。

其の間に感情、いや、魂魄の触れ合いが生まれた時

事態は思わぬ方向に向かって・・・


そんな時間のなか、私の中の・・此の無垢にして艶麗妖絶な少女への感情は

単に雄としての生物の其れから明らかに変化して居たことは間違いなかった。


そんな感情のなかで迎えた二夜目のしとね

当然のことながら、最初の夜より遥かに静謐に過ぎて行く。


あれほど強かった私の中の獣欲さえ、何処か鳴りを潜めたように静かに。


まあ、肉体に起こりうる物理的な現象という一点から見れば

如何なる媚薬も服用を続けると耐性というものが生まれるのは自明の理だ。


実際、私は此の稀代の媚薬の如き少女の誘惑と抱擁に

ようやくに慣れ始めていた、と言うのも間違いない事実だ。


だが其れ以上に重要だったのは私の内面・・

いや、思うに其れは=ひよみ=という少女の内面にも

生まれたであろうひとつの変化かも知れなかった。


其れは・・一種の・・異端なもの同士の・・共感のようなもの。


性欲以前のより根源的ないのちの希求する何か重要なものへの渇望。


此の世界に己を理解し求めて呉れる存在が在る、と気づいた時の歓喜。


其れを絶対に離すまい、守り抜こうと言う何処か崇高な思い。


其れにより性的抱擁が共通の感情や存在の場所を共有するという行為に変わったとき

其れを共にしつつあった私と少女の間には奇妙な絆が改めて生まれ始める。


このような世俗から完全に隔離されたと思しき胎内の如き岩窟で

其の肉体こそ妖艶で淫靡なものの萌芽を滲ませながら

精神は無垢其のもののまま永劫の時の呪縛に囚われたような少女。


何故か此の年齢まで独身で居ながら其の精神の何処かで

密かに己が最愛の女性の幻影を希求して止まなかった愚かな男、いや、子供。


ただ、其の愚か者が希求した面影は一般の男性が精神深奥に抱く母性・・

=母=では無かった・・無論、其れにはいくつかの極私的な理由がある。


私は諸般の事情で母の愛情を知らなかった

・・だが、母の面影を知らぬ訳では無い。


私を母に産ませた男は父親でありながら其の義務を放棄し

一介の雄として放埓を極めた私生活を乱倫のなかに過ごした男で

そのくせ世間に向ける顔だけは人並み以上に聖人君子のふりをした

狡猾にして唾棄すべき人でなしと呼ばれるに相応しい屑だった。


其れでも私の母は其の男に恋慕し続け、其の男の破倫や放埓を呪いながら

妻であることにしがみ付き続けた此れもある意味女性らしい女性だった。


だが、母では無かったと言っても良い、私にとって・・あらゆる意味で。


つまり私は月並みな母親の慈愛も其の優しい手も殆ど知らない生き物で

其れがごく当たり前の家族の姿だと、正直社会に出る直前まで思っていた

そして、其れゆえ家庭と言うものへの憧憬が想像できぬ一種の畸形であり・・


ある意味、此の妖美な古代の神の末裔すえである少女と同様に

いや、其れ以上に歪んだかたちを内包した=人妖=だったかも知れず。


ただ、己が其の事実に気づかずに、いや、あえて目を背けて生きていた存在。


愚かで独善的で、何処か己が思索の中の幻影城に籠城しつつ

幾つもの仮面を無意識にかぶり続けながら現実を生きてきた臆病もの。


其れを私は此の少女から気づかされた・・此の場所で。


ああ、そんな私を、何の理屈も建前も損得も

・・現身のひとの持つであろう人間関係における正負の感情を全て介さずに、

ただ只管に縋り求めてくる無垢にして妖艶で在るという矛盾した肉体と

一切の世俗の汚濁を知らぬであろう魂を持った・・・=娘=。


一見すれば全く正反対の方向を向いた二つの生き物は

実は同様の苦悩と絶望を抱え精神の深奥から

救いを希求していたのかも知れない・・


無論其の程度や枷の重さ、耐えてきた時の長さは大いに異なっては居たが。


其のトラウマとも言うにはあまりに重く深い

こころの深奥の傷の痛みを互いに無意識に舐めあい

精神的に愛撫するように癒しあうことに比べれば

月並みな獣欲や嗜虐心による性的興奮なぞは

児戯のようなものだったかも知れず。


ぴったりと触れ合わせた肌の熱さは

何時しか癒されるがごとき温もりへと変わり

熱くまとわりついていた吐息の甘さも

不思議と柔らかな暖かい呼気へと変わる。


其れはまるで・・冬の野道で稚い少年と少女が

互いの握った手に優しく吹きかけあう白い冬の息のように、

暖かく切なく、何処か透明な哀しみを含んでいて・・


私は、遂に此の少女との感情深奥部の交わりのようなものが

救いがたいほど深く、既に引き返せぬほど強くなってしまったのを

厳然たる真実として認めざるを得ぬことを甘受した。


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