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絨尼(じゅうに) ~神代からの香り~

謎の少女ひよみの=御饌みけ=・・其処には・・

彼女の異様なまでの色香と誘惑力の根源が秘められて・・


伝奇風少女愛小説・・まだまだ続きます。


何気なく其の入れ物に目をやって其れが何かを認識した瞬間

私は、瞠目し、驚愕し、そして興奮して思わず高い声を上げた。


「こ、此れ、もしかして・・いや、間違いない。

 波斯ペルシャの・・

 ササン朝以前の瑠璃瓶るりへいじゃないか?

 そ、其れも無傷の=紺瑠璃こんるり=?


 確か正倉院の御物にも紺瑠璃こんるりはい

 希少伝来品として一つ在るか無いかなのに、ああ・・

 

 紺瑠璃こんるりの、其れもこんな・・

 精緻な文様の無傷の瑠璃瓶るりへいって


 ・・いったい時価で見積もったら幾らの・・。 」


今度は私が思わず饒舌になる・・物欲の発露と言うよりも

純粋に凄まじく希少で貴重な歴史の遺物と唐突に出会った驚きで。


「これが・・いちばん好きなんだもの=ひよみ=。


 だから=くぐつ=にいつも、これにいれて=おみず=

 ・・もってこさせるの・・大きさちょうどいいし。

 

 ほかのは、大きかったりちょっとごつごつしてて・・いや。」


「ひ、=ひよみ=ちゃん・・これ、

 いや、こんなのがまだ在るの?」


「・・うん・・この下の=くらと=に行けば

 ・・いっぱいおいてあるみたいだよ。

 

 臣さま・・こんなもの・・好きなの?」


心底不思議そうに尋ねる少女の問いに、私はすぐに応える事が出来なかった。


ああ、先ごろ行なわれた今上陛下在位○十年慶祝の正倉院御物特別展覧会・・

其の会場の=日本の至宝=と呼ばれる展示室に飾られていた古代の硝子器。


興味と憧れで一日まじまじと見続けて美術館職員に失笑された其れ・・


青いペルシアンブルーに淡く輝く瑠璃るり

寸分違わぬ代物が少女の手の中で如何にも

普段使いの茶碗か何かのように・・軽々と持たれ、

ちょっと振り回すように揺らされ、闇の中の篝に煌いている。


まるで、あどけない子供のお気に入りの他愛ない玩具のようにぞんざいに。


私は其の無邪気で無造作な仕草を呆然と見つめていたが

ふと、また気づかされてしまう・・此の子の純粋さと特異さに。


あれがササン朝ペルシャ以前の古代ガラス遺物・・紺瑠璃の瓶であれば

時価にすればどう見積もっても億は下らない日本、いや、世界の至宝。


・・だが、此の子にとって如何だというのだろう・・


単にちょっと綺麗で変わった見た目の、

お気に入りの入れ物でしか無いのだ。


実際、骨董の概念や物の価値なぞ

多分此の子には無縁の何かだったろうし

其れ以前に世俗の欲どころか

人としての負の感情のようなものすら

概念として理解しても

実際感じた事など殆ど無かったのだろうから・・・


営々と紡がれた古代の神からの血のまま、

俗世に触れる事も殆ど無く定められた運命と呪詛のなか、

ひっそりと呪縛されて育ち、子をなし、死ぬ。


此の限られた空間、永劫の牢獄のような寝所のなかで・・そういう運命。


此の子は・・ああ、やはり、神のすえだ・・あらゆる意味で。


其の時と呪詛の重さに呆然とする私に=ひよみ=は如何にも気軽そうに

微笑みを浮かべあどけなく語りかけて来るのだった・・・。


「臣さま・・欲しかったらあげる・・まだたくさんあるし。

 

 =よもくぐつ=にもってこさせられるもん・・=くらと=から。

 

 でも・・あとひとばん・・此処でいっしょにいたら・・ね。」


「ああ、ありがとう・・そうだね、ひよみちゃん。

 約束したんだから、それが済んでから・・だね。


 でも、その・・=おみず=は・・今、貰えるかな?」


何でこんな水を入れるものに興味を示すの?・・と言わんばかりに

不思議そうな表情になっていた=ひよみ=だったが

私の言葉に嬉しそうに頷くと、私の腕の中に瓶を持ったまま

するりと滑り込んで甘えるように囁く。


「あとひと晩・・=ともぶし=して、おにぃえさまにならなかったら・・


 =ひよみ=といっしょに・・この=よみのにえどこ=から・・。


 そうしたら・・=ひよみ=・・おみさまと・・きっと・・・」


そう言って少女は其の国宝級の瑠璃瓶の口を無造作に私の唇にあてがった。


想像したより冷たく、清冽な水が、乾いた口の中に流し込まれてくる。


夏の清流の何処か太陽の匂いがする・・・野の草の、若い葉の香りがする・・・


ああ、此れは、あの区長の家で入浴した湯船の薬湯の香りだ。


じかに口にした其の=夏の媚薬=の強い芳香が、

突然ではあるが私のなかにある確信を生じさせる


・・此の子の持つ魔力のような色香と性的魅力・・

其れを産んだ=まてる=の=とこい=、


呪詛の正体めいたもの・・それは・・


そうか!・・何処の何と言う水なのかは判らないが、

此の子の体から匂う=夏の媚薬=のような扇情的な香りの大元は・・・


恐らくは此の・・=この水=だ。


=あまてる=の=吐乞とこい=の魔法のタネは此れか。


生まれて此の方、喰いものも飲むものも全て此の水から作られ

其れ以外のモノを一切口にせずに成長したんだ、此の子、=ひよみ=は。


其れが此の子の現身の肉体にどういう影響を与えて来たのか

・・・私のような其の分野の門外漢でもちょっと想像すれば判る。


かつて安土桃山のころ、天下の美女を集めたと言う豊臣秀吉の後宮。

其処に生まれた時から果物のみで育てられた美姫が居たと言う。


御伽草紙と言う古文書に記された挿話のような御伽噺おとぎばなしだ。


薫姫かおるひめ=と天下に謳われた其の美姫の前身は

呼気のひと吐き、汗の一滴まで何処か・・

異邦の爛熟した果実を思わせる香りを放つ

並み居る天下の宝器をはるかに凌ぐ価値で買われた遊女だったと。


ある意味、伝説にすぎぬ御伽噺・・今まではそう思っていた。


だが、もしも、果実の如き不純物の多い食物と異なり

人間の肉体の60~70パーセントを占めるという水、

水分其の物がある種、甚だしく香り立つ成分を含んだ

何かしらの液体であり生まれてから十数年の間、

全ての水分を其れで摂取していたとしたら?


其の生物の肉体のほとんどは

其の薫香に満ちた物質で形成される事にならないか?


そして、其の水には・・ある種の性的な興奮を掻き立てる作用と

精神の高揚感、一種の嗜虐心に似も似た力の披瀝を求める高揚感を

確実にもたらす効能がある、と仮定したならば・・いや、断定だ。


其れがさっきの=おみず=・・間違いない、きっとそうだ・・そうに違いない。


多分其れは此の=にえどこ=の在る胎内洞で何らかの形で生成され

此の周辺にごく普通に偏在しているのだろう・・あの村にも間違いなく。


其れをあの連中は此の=にえどこ=に落とす贄を清めるため・・

いや、多分、性的に興奮させる為に風呂の湯として使ったのだ。


其れは恐らくにえと此の子、いや、代々の=ひよみ=との

接触と交合をより容易にし、贄を確実に堕とす為でも在るのだろう。


実際、私が入浴させられて以降感じ続けていた微妙な違和感や

何とも性急な興奮、高揚感から言っても其れは間違いないように思えた。


だとすれば・・此の子の身体から薫ってくる

扇情的で蠱惑的な匂いが人間離れしていても頷ける。


ほんの1度の入浴で纏った香りの残滓が未だ私には纏わりついている。


生まれた時からずっといのちの全てを此の=おみず=で支えられ

成長してきたのが此の=ひよみ=という少女だとしたら・・・


全部が全部、神話や呪術って・・訳では無い・・のか・・。


・・だとしたら、俺でも・・此の子の=とこい=を幾らかでも・・

解きほぐして楽にしてやれるのかも知れない・・


其の思いは私のなかに奇妙な使命感のような高揚を改めて呼び起こした。


が、少女はそう思い始めた私の表情の変化を

怪訝そうに見つめはしたものの

私自身の強い決意や感情の変化気づくことも無く、

また、気にもせずに器用に私にしがみ付いて

肌を密着させた体位のまま其の左手で

膳部の食物を器用に摘み取っては私の口元に運ぶ。


そして時折、其の一片を自分でも口にしては

いとけなく微笑んだりする。


其れは恰も小鳥に親鳥が餌付けされているような奇妙な光景だったろう。


尤も、其の時の私は、其れまでに感じたことの無いほどの

暖かく、何処か面はゆい甘い感情の緩やかなさざなみに包まれ

幸福な表情で其の少女の行為を甘受しつづけていたのだったが・・


私は正直、其の瞬間、至上の幸福に包まれ

深く甘い陶酔の中に居たのかも知れなかった

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