過去編 ~始まりの合図 3 ~
ーー時は夕方。
桐生と神崎、新城。そして月影は下校中であった。
「今日も疲れたなぁ……」
桐生がそう呟くと
「桐生さんはずっと寝てたでしょう……?」
新城はたまらず桐生ツッコミをした。
「また寝過ごしたのね……」
神崎は呆れたかのように言った。
「はい、えぇ。大丈夫ですよ」
月影が何かを言ったように聞こえた桐生は、月影に問う。
「ん?なんか言ったか月影」
「え? いや、何も言ってないよ。桐生、まだ寝ぼけているの?」
返事は予想外な言葉だった……。
「気のせいだったみたいだ」
そんな事を言いながらも桐生は考える。
(おかしいな……。今、確かになにかボソッと言ったように聞こえたんだけどな……)
そんな風に桐生が思い悩んでいると突然。“ダァーーンッ!!”と、大きな音がなった。
「な、なんだ……!?」
「どうやらあっちで何か起こったみたいだね」
「行ってみましょう!」
桐生、神崎。そして新城は大きな音がした方へ走っていった。
「ば、バカな。予想よりもはやい……。まずい、このままでは……!」
月影も、桐生達の後を追い掛けるように走った。
「どうなってんだよ……、これ……」
大きな音がした場所に着いた桐生は、目を丸くして、震えた声でそう言う。
「なにこれ……」
「どうなっているんですの……」
後から到着した神崎と新城も同じく、震えた声で言葉をこぼしてしまう。
それもそのはずだ。そこにはまるで何も無かったかの様に、大きな穴が空いていたのだ。
「た、確かここは……。“17番市街”じゃなかったか!?」
ここ、ローゼンガーデン区は学校が有名と同時に、“大きな市街地”としても有名なのである。通常、他の区域では1番から10番までなのだが、ここは50番まであるという特別デカイ区域だ。
「おい、あそこに人が居るぞ! まだ生きているかもしれねぇ! 俺、ちと行ってくる!」
「あ、危ないよ桐生!」
止めようと神崎は手を伸ばす。だがーー。
「神崎達はここに居てくれ、すぐに戻るからよ!」
そう言い残して桐生は人らしきシルエットのあるところまで降りて行ってしまった。
桐生が人らしきシルエットの近くまで着いた時、
桐生は何かに気付いてしまった。
「おいおい、何の冗談だこりゃ……。ーーまる焦げじゃねぇかよ……」
そう、もはや助かる余地も無い程に、元が人であったであろうその物体は真っ黒に焦げた人らしき塊へと変貌した姿だった。
その光景を遠くで見ていた神崎はある事に気が付いた。
「あれ……、桐生が居るよりも更に奥の所に人が居ない……?なにしてーー」
そこで新城は神崎が指を指したところをよく見て気付いてしまった。
「ねぇ、あれって!」
神崎と新城は口を合わせて言う。
「拳銃じゃない!?」
まずいーー。誰もがそう思ったその時、神崎と新城の間をスッと割り込み、桐生の居る所に走る月影の姿が見られた。
桐生もそれと同じくして、自分に対して見知らぬ者に拳銃を向けられている事に気が付く。だが、もう遅い。今から逃げようとしても、もう手遅れだ。
「ヤバっ……」
「桐生!!」
「桐生さん!!」
“ギャインッ!!”
ーーーー刹那、何かを弾いたような音が桐生の耳に響いた。
「お、お前……。月影か!?」
気付けば月影が桐生と見知らぬ者の間に割り込んで立っていたのだ。
「理由は後です。桐生はこのまま僕の後ろに居て下さい」
月影は妙な物を持っていた。まるで透明な盾のような……。それでいて、何故か魅了されてしまうような美しさ。すると、その妙な物は急に別の物へと変貌した。見た目からして恐らく拳銃だろう。
“パンッ!パパンッッ!!”
月影は躊躇いも無く見知らぬ者を撃った。
見知らぬ者が倒れた事を確認すると月影は口を開く。
「もう、これで安心ですよ。桐生」
月影は桐生の方を振り向き、笑顔をみせた。
「月影……。お前は一体……?」