過去編 ~始まりの合図 1 ~
「…………暇だな」
そんな事を呟いているのは“桐生叶弥”だ。
高身長ですらっとしていながらも少し筋肉質。大人しい髪型をしていて黒色。長さは耳が隠れる程度の長さだ。
少々顔付きが怖いせいなのか、一部の人からは見るだけで怖がられてしまうのが悩みだそうだ。部活は帰宅部に入っている。
「急に口を開いたと思ったら……いちいち口に出さなくても良いでしょうに」
呟きに対して返事をしたのは、桐生の幼馴染。“神崎麗羽”だ。
こちらの女性は身体が細く、背丈は桐生より少し小さめだ。そして、桐生と同じく運動神経が良いくせに帰宅部という勿体無さ。
髪型は首元に赤いリボンで髪を束ねている。色は黒髪で長さはセミロングくらいだ。
顔付きがキリっとしていて、人当たりが良いので男女問わず信頼が強い。
「仕方ねぇだろうが、暇なんだからよ」
そんな事を話している二人は今、長い通学路を歩いて登校をしているところだ。
周りを見渡せば色鮮やかな家々が建ち並び、そんな彩色された家々に合わせる様に、自然の緑があって程良いバランスになっている。
こうした様々な色を持ち、観る者を楽しませる街の名は“ファルーラ区”だ。
二人が向かっている学校はその街の象徴とも言える程、立派に出来た校舎であり、学校の名は“ファレイス校”だ。
「しっかし……あれだな。こう、なんだ。こういう風に平和なのも良いけどよ、もっと刺激のある事をしたいよな」
「どうせくだらない事だと思うけど、例えばどんな?」
「宇宙人が急にここに侵略してきて、侵略に対抗する為に戦う! みたいな?」
「……バカじゃないの?」
「うわぁ、ひでぇ……」
そんな風に、二人がくだらない会話をしながら歩いていると、向かっている道からそう遠くない場所から男の子の声が聞こえた。
「おーーい! 桐生~、神崎さ~ん!」
二人に対して手を振っているのは、友人の“月影希夢”だった。
身長が小さく、華奢な体型のせいでよく女の子に間違われてしまう。髪型はショートで、色は黒髪だ。そして、二人と同じく帰宅部。
気が弱く、断れない性格なので、たまに損をする少しかわいそうな子でもある。
「おぉ、月影じゃないか!」
「今日も仲が良いね! 羨ましいくらいだよ」
「別にそんな事はないよ?」
「お前……否定するのかよ……」
二人のやり取りを見ていた月影の頬が緩んだ。
月影とも合流をして、三人で通学路を歩いていると、ふと思い出した様に桐生が自分の口を開く。
「ところで、今日は新城と一緒じゃ無かったな」
「新城は先に行ったよ。朝の日直のお仕事があるって言ってた」
「ふーん……アイツはしっかり者だなぁ」
「それに比べて貴方は、暇だの宇宙人だのと……少しは学校でのお仕事をやったらどうなの?」
「いや、そういうのは俺のやるべき事じゃないんだと相場が決まってーー」
桐生が最後まで言い掛けようとしたと同時に、神崎は月影の手を取って走り出した。
「それじゃあ行っこか、月影!」
「あ、うん……」
そう言うとスタスタと歩いて行ってしまった。
「あ、おい! ちょっと待てよ! おい!」
いつもと変わらぬ日常。桐生達はそう思っていた。そして今日も何事もなく、ただただ平凡に過ごすのだとーー。