過去編 ~L.E.W【レーウ】使い 2~
「ちょ、ちょっと待てよ! 何だよ急に」
いきなり月影に大きな声で怒鳴られ、桐生はその声に圧倒される。
「桐生。君は"これ"を手にする事がどういう意味に繋がるのか、ちゃんと分かっているのかい?」
そう言いながら月影は自分のL.E.W【レーウ】を桐生に見せる。
白く、何物にも染まらない様な、そんな綺麗な純白のL.E.W【レーウ】だった。
「どういう意味って……。そりゃあ、俺もこれから月影達みたいに、あんなよくわらんねぇ様な奴らと戦うって事だろ?それくらいはーー」
「分かっているならどうしてだい……?」
今の月影は冷静さを保っている様に見えるが、それぞれの月影の言葉には、怒りにも似たような感情が込められていた。
そんな月影の言葉に対し、桐生は月影の顔の前に、自分のL.E.W【レーウ】をつき出した。
「俺は勢いだけで突っ走っちゃう様な馬鹿だけどよ。こればっかりはちゃんと俺なりに考え抜いた答えなんだぜ。それに……だ。俺の"コイツ"は何故だか知らないが、剣にも銃にもなる。こんだけ強ぇ相棒が居るなら問題無いさ」
はぁ……。と、呆れた様な顔をする月影。
「……分かった。だけど無理はしない様にね」
「そこんところは任せろ。身体が頑丈なのが取り柄だからな!」
騒ぎは収まったが、またいつ"敵"が襲ってくるか分からない。一同はその心配があるという事で、桐生達は一緒に帰っていた。
そんな下校の途中、月影は何かを思い付いた様に口を開いた。
「あ、そうだ」
「どうしましたか? 月影さん」
最初に気付いた新城が、月影に声を掛ける。
「なに? 忘れ物でもしたの?」
ニヤニヤしながら、続いて月影に質問をする神崎。意外と性格が悪いのかも知れない。
「いやいや、待って。僕そこまで抜けてないよ……」
「そうなんだ……」
ちょっと残念そうに落ち込む神崎。やっぱり性格が悪いのかも知れない。
「なんでそこで落ち込むのかなぁ……。そうじゃなくて、桐生達は今回の件で間違いなく"敵"に今後狙われると思う。桐生に至ってはL.E.W【レーウ】を使える上に、多分、さっきの“敵”に覚えられただろうしね。そこで、桐生達を"輝箱舟"に招こうと思うんだ」
それを聞き、同行していた樹島が、月影に声を掛ける。
「いいのか? 俺は構わねぇが、アイツがなんて言うか分からないぞ」
「僕がなんとか説得してみせますよ。あ、樹島さんも一緒に説得します?」
そこで樹島はくすりと笑う。
「馬鹿が、面倒事は嫌いだ。お前だけで何とかしてくれ」
「あはは……。ですよね……」
そんな二人の後ろで会話を聞いていた新城は、桐生にこそこそと喋る。
「あの樹島さんって人と月影さんは仲が悪いのでしょうか……?」
「俺に聞かれてもわかんねぇよ……」
しばらくして、急に樹島が立ち止まった。
「どうしました?」
「月影、俺はやっぱり先に帰ってる事にするわ。お守りは俺の柄じゃねぇしな」
「あ、ちょっと……!」
月影が樹島を止めようとするよりも先に、樹島は走っていった。そんな樹島の姿に、桐生は唖然とする。
「アイツ、よくわかんねぇ奴だな」
「樹島さんは普段からあんな感じの人だよ。多分、桐生と気が合うんじゃ無いかな?」
「俺が……、アイツと!?」
「そうねぇ……。桐生とあの樹島さんって人、なんか似てる気がするしピッタリで良いんじゃない?」
「神崎までそんな事を言うのか……。新城はどう思うよ……」
「と、とてもお似合いな気がしますよ……?」
苦笑いをしながら答える新城。
「そ、そうですか……。はぁ……」
桐生も苦笑いをしながら答えた。
月影は歩みを止め、不安そうな顔をする。
「さて、桐生は何とか平気そうだけど、新城や神崎さんは受け入れてくれるかなぁ……」
「そんなに厳しい人なのか?」
「厳しいというかなんというか……」
はっきりしない月影の返答に桐生の頭に"?"が浮かぶ。
「取り合えず、言ってみなきゃ分からないかな……」
不安げにそういう月影に対し、桐生が口を開く。
「そっか……! んじゃあ早く行こうぜ。その"輝箱舟"って所にさ!」
桐生がそう言ったと同時に、急に走り出す神崎。
「よーし、そうと決まれば走ろうよ!」
続いて新城も後を追う様に走り出す。
「あ、急に走ると危ないですよー!」
「新城も神崎に釣られて走ってるぞ……」
「そういう桐生だって走ってるよ……。よし、ここは僕も一緒に走ろうかなっ!」
一同は"輝箱舟"に向けて走り出す。先頭を走る神崎。その後を追い掛ける様に新城と桐生、そして月影。
この四人の戦いはこれから始まるのであったーー。