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RBM!!  作者: きぬがわ
×一匹 ○一羽
6/7

うさぎはくいもの

 草木も眠る丑三つ時。正確に言えば午前一時五十五分。僕は黒い全身タイツのような、でもタイツよりは分厚くて丈夫なスーツと、いろんな道具が入った腰巻ポーチ、それに軽めの防弾チョッキなどと着たちょっと物騒な恰好をして、美術館の暗がりでしゃがみこんでいた。

 僕、なんでこんなことしているんだろうか。

 大きく大きくため息をついて、僕は今朝のことを思い出していた。


「び、び、美術館って・・・」


 今日の朝・・・いや、カレンダーで言うともう昨日の朝か。野分くんの突然の言葉に、僕はだらだらと冷や汗をかいて固まっていた。

 野分くんの方は僕の様子をピエロでも見てるみたいに楽しそうな表情で眺めている。猫のようだ・・・家に侵入した虫で遊んでいたぶって殺す子猫のような顔だ・・・。


「もちろん、この前ルパンのおっさんが侵入してダイヤを盗んだっていうあの美術館ですよ」

「な・・・何をしに?」

「察しの悪い人ですねぇ。もちろん盗むんですよ、金目のものを!」


 この子とんでもないこといいだした。きらめく笑顔でとんでもないことを言い出したけれど、そこは大人として止めてほしいです教授。と思ったら教授は煙草をくわえたまま上を向いて虚空の彼方を見つめていた。完璧に止める気ゼロの顔だ。しっかりして! この中で一番年上なんだからお願いだからしっかりして!!


「と、とにかくそれは泥棒だよ!? 野分くんわかってる!?」

「知ってますよ」

「見つかって逮捕されちゃったらどうするの!?」

「見つからなきゃいいんですよ」

「そもそも当たり前のように盗むとか言い出したり見取り図を仕入れたりカメラの場所とか調べ上げたりとかやり方がプロフェッショナルすぎるよ! いったいどういうことなの!?」

「どういうって・・・調べ物は教授がやってくれたり、僕もやったりしますけど」

「いやそうじゃなくて・・・っていうかそもそもどうしてこんな・・・」

「どうしてもこうしても、最初に会った時から言ってるじゃないですか」


 野分くんはそういうとあきれ果てたような表情で自分の膝に頬杖をついた。ひどく人をばかにしたような顔である。


「な、なにを・・・」

「まったくもう、バニーは忘れん坊さんですね。言ったでしょう、僕はラッフルズですからって」

「いくらラッフルズに憧れてたって、やっていいことと悪いことがあるだろう!? それに今のラッフルズは模倣犯だ。憧れも何も・・・」

「へぇ」

「な、なに?」

「いえいえ。ですから僕がその模倣犯だと言っているのです」

「・・・え?」


 目の前にいるこの小学生がラッフルズ? 世間を騒がせている、あの怪盗?

 改めて野分くんを頭の先からつま先まで眺めてしまった。

 幼さとあどけなさとあざとさと狡猾さが混ざった何とも言えない表情をしている彼は、見る限りでは身長も伸び切っていないただの・・・ただのやたらと顔の整った小学生にしか見えない。こんなに顔の整った人間は今までそうそう見たことがないので、もしかしたら本当は人間じゃないのではないだろうか。こう、高機能最新型人型ロボット的な・・・。それなら彼がラッフルズでも納得できるのだが。


「今変なことを考えたでしょう」

「そ、そんなことないよ・・・。と、ともかく君みたいな小さい子がセキュリティをかいくぐって泥棒なんてできるはず・・・」


 いや、器用なこの子のことだからもしかしたら色々とすらすらできてしまうかもしれない。スーパーな小学生だし。


「・・・できるわけないと思いたいじゃないか!!」

「希望的観測を述べられても。というか、模倣犯云々知ってるくせにバニー気づかなかったんですか?」

「な、何に?」

「周りにあるもの、ラッフルズが最近盗んだものばっかじゃないですか」

「えっ」


 そ、そういえばあのお盆もあの壺も灰皿みたいなものも浮世絵も、前ニュースとか新聞とかチェックしてた時に盗品として似た奴が紹介されていたような気が・・・。

 まさか、そんなまさか。

 にこり。

 野分くんは「そういうことです」という代わりに僕に笑いかけた。

 それが、昨日の朝の出来事である。


「まさか、またこんなことする羽目になるなんてね・・・」


 ため息と共に、意識は現実に帰ってくる。

 人気のなく、真っ暗なこの建物の端っこで僕が何をしているかと言うと、赤外線スコープの装着である。ごつい、重い。こんな物騒なもの一体野分くんはどうやって手に入れたんだろう。教授経由だろうか。・・・財にものを言わせてなんでもしてのけそうだ。


「よいしょ」


 正しく赤外線スコープを装着しスイッチを入れると、視界は緑と白になる。肉眼で見るよりは暗い室内の様子がはっきり見えるが、この色のコントラストは何度見ても慣れない。


『ハローハローバニー、こちらラッフルズ。聞こえますか? どうぞー』


 突然片耳に装着したインカムマイクから野分くんの声が聞こえてくる。ポケットにしまったスマホで電話をしているわけなのだけれど、野分くんならもっと効率のいい通信機を用意できるような気がする。準備が面倒だったのだろうか。


「聞こえるよ、のわ・・・」

『ナイン!』

「9?」

『違います、ノットです、ノー! バニー、僕のことはラッフルズと呼んでください』

「え、でも・・・」

『ヤーかイエスかシーだったら聞きますよ』


 それって全部ハイじゃないか。

 仕方がないか・・・。


「オーケーラッフルズ。こちらバニー、聞こえますよ。どうぞー」

『ちゃんと地図は覚えていますね?』

「うん、それはばっちり」

『現在地は?』

「今非常口の陰でいろいろ準備中」

『道順もわかりますね?』

「真っ直ぐ行って右に曲がり、次のギャラリーを真っ直ぐ、だよね」

『大丈夫そうですね』

「うん。で、次の見回りが三時頃だったね」

『その通りです。やたら落ち着いてますねぇ』

「そ、そうかなぁ・・・内心結構どきどきなんだよ・・・」

『まあそういうことにしておきましょう。こっちから何かあったらまた話しかけますから、バニーも何かあったら言ってください』

「了解だよ」


 やたらと声が楽しそうだなぁ。

 僕はそっとあたりを確認する。人影なし、カメラもこちらは向いてない。ついひと月前程にルパンが来たばかりだから少し警戒が強いかとも思うけれど、あんな泥棒は滅多に来るもんじゃない・・・あ、いや、今僕がたちの悪い泥棒をやっているわけだけど・・・時価いくらとかいうのは期間限定の特別展示とかだけだろうし、今は特別展示とかやってなかったと思うし、あまり警備は厳しくない・・・と、思いたい。

 僕はカメラの死角に滑り込みながら非常口の陰から出て廊下を進んだ。あの種類のカメラって意外と視野が狭いからどちらかというとハッタリみたいなもんなんだよね。ルパンもそれを知ってたのだろう。それにしても、美術館だって相当高いものやられたんだからカメラを付け替えるとかしてもいいような気もする。

 ・・・まあ、目玉展示が何もない美術館に何を盗みに来たのだという話なのだけれども。野分くんは「とりあえず高そうなものふんだくってきてください」と言っていた。・・・常設展示で高そうなものなんてあったかなぁここ。もしかして僕目が利くかためされているのかなぁ。

 曲がり角で様子をうかがってみる。人はなし、カメラは・・・ん? さっきのと形が・・・そういえば打ち合わせの時に野分くんが何か言ってたっけ。


『バニー、ストップです』

「どうかしたの?」

『そこのカメラ、新しいいいやつに買い替えてあるんです。さっきの調子でいこうとすると引っかかりますよ』

「了解だよ」


 二人の下調べは万端のようだ。できるなら自分の足で下見したかったけれど堂々と外に出られない身なのでそうも言ってられない。・・・あ、野分くんにまたどうにかメイクしてもらえばよかったかな。だがいまさら言っても仕方があるまい。

 確かあの形のカメラだとあのシリーズだから、あのシリーズの後継機だとあのへんが死角に・・・でも欠点を何かしらどうにかしてるのが後継機なんだしなぁ・・・しばらく調べてなかったし、悩むなぁ。


『バニー、カメラに映らない道順教えたじゃないですか。忘れたんですか?』

「いや・・・でも」


 忘れたわけではないのだが、教えられた道順だとカメラに映ってしまう気がする。僕は改めて道順を組み立てて足を踏み出した。


『あ、ちょっとバニー!?』

『のわ、放っておけ』

『でも教授・・・』


 なるべく体を小さくしてギャラリーを進んで、目的地の部屋の前までくる。うん、これで多分映らなかったと思う。わかるってわけではないけれど、なんとなく勘でそう思うだけだ。でもこういう時の勘はあてになるって僕は知っている。


「うわ」


 目的地の部屋を覗いて、僕は呻いた。中の部屋にはマンガみたいに赤外線の網が張り巡らされている。でも、予算の関係かセンサーの数はそんなに多くはないように思える。一度赤外線スコープを外して部屋を覗いてみたら、網はきれいさっぱりなくなって見えた。確かここの赤外線センサーってどこかにスイッチが・・・いや、やめとこう。移動してるかもしれない。


『バニー、その部屋の監視カメラは今機能してませんから、堂々と入ってくれて構いませんよ』

「・・・そういうことができるんなら最初からやってほしいな。あとセンサーも切ってほしい」

『贅沢は敵ですよ』


 野分くんが言ってこれだけ説得力のないセリフもなかなかないだろうなぁ。


『あ、僕あの一番奥の珊瑚の装飾品とかいいと思うんですよ!』

「・・・わかったよ・・・」


 僕はセンサーをひょいひょいよけながら部屋に入って野分くんの言う装飾品の前まで行くと、じっとそれを眺めてみる。複雑な透かし彫りの入った櫛のように見える。古そうだし、確かにきれいだし、高そうではあるけれど、これってそう簡単に換金できるとは思えないけどなぁ。


『下手に触ると警報が鳴りますから、僕の言ったとおりにケースを外してください』

「はいはい」


 僕は野分くんの指示通りにポーチから道具を出しながら台に施されたセキュリティを外していく。ショウケースを外して、あとは品物をとるだけ。僕は手を伸ばしかけて、その手を止めた。・・・これ、このままじゃだめだな。


『どうしたんですか? バニー・・・』


 僕はポーチを探って何か使えるものがないか見てみた。・・・結構この櫛軽そうだから、これでいいかな・・・。僕はラッフルズの名刺にショウケースのねじを二個ほどくっつけてから、櫛と交換して台に名刺を置いた。少し待っても何も起きない。どうやら成功みたいだ。


『・・・へぇ』


 野分くんの関心した声が聞こえた。


『のわ、急がせろ。気づかれた』

『えー、もうですか教授。もっときっちりしといてくださいよ。あ、バニー撤退です!』


 ・・・もしかして今ので気づかれたかなぁ・・・。ちょっと力技だったからなぁ。そんなことを思いながら僕は一応赤外線を避けて部屋の出口へ向かい、ふと足を止めた。見覚えのある風景が見えたからだ。

 縁側から見たあの時の庭が、あの時の空が、あの時の空気が、水墨画で描かれていた。僕は思わずそれに手を伸ばした―――。





「いやあ、素晴らしい! あっぱれですよバニー!!」


 野分くんは私服で帰ってきた僕に飛びついて、僕を真下から見上げながら瞳をめっちゃくちゃに輝かせて手放しでほめてくれた。大急ぎで美術館から逃げてきた僕は、近くの公園に隠していた服を公衆トイレで着替えたのだ。大きな袋も持っていたから、盗んできたものもちゃんとしまって教授の研究室まで帰ってこれた。

 盗みを働いてきたあとなんだからこう褒められると微妙な気分になるのだけれど・・・。


「いやあ、正直バニーがここまでやってくれるとは思っていませんでしたよ! カメラに映らないように歩くわ赤外線センサーを軽く潜り抜けるわ簡単にセキュリティーを解除するわ・・・特に最後のあれが最高でしたね! 何も言ってないのにショウケースの重量センサーに気が付くなんて!」

「・・・気が付いてたなら言っておいてほしかったなぁ」

「まあお気になさらず! 本当に初めてとは思えない仕事ぶりでしたよ」


 う、うん。僕は野分くんから目をそらして「そうかなー」と言ってみた。・・・ちょっとやりすぎた、かな・・・?


「え、えと・・・確かに言われたものをとっては来たけど、これじゃ教授の家賃には全然足りないと思うよ。あと泥棒は本当に悪いことだからね? もう二度とやっちゃいけないよ?」


 野分くんの目線に合わせてしゃがむと、野分くんは「僕に何を言ってるんだこいつ」とでも言うような顔をした。でも泥棒云々の話は綺麗にスルーされてしまったようだ。


「いいんですよ、今回の目的は別にお金じゃありませんから」

「え? 僕できるなら明日にもここをお暇しようかとおもってたんだけど・・・」

「教授ー、お願いしますー」


 この子は本当にマイペースだなぁと僕はがっくり肩を落とした。

 野分くんの言葉に、ソファに座って煙草を吸っていた森教授はリモコンをいじってテレビをつけた。パソコンにアクセスしたようで、いくつもフォルダをあけて一つの動画を指定する。テレビに映されたそれを見て、僕は凍りついた。

 動画には僕が映っていた。黒いスーツ。赤外線スコープをずらして見えた顔が「うわ」としかめられた。そこから仕掛けを解除して櫛を盗む様子が克明に記録されていた。


「こ、こ、これって・・・」

「さっきのバニーですよ。決まってるじゃないですか」


 動画の角度からいって、多分野分くんが止めておいたという監視カメラの映像だ。僕はテレビを指さしながらぷるぷるしながら野分くんを見た。多分今僕は青い顔をしているんだろう。


「いやー、道すがら予想外に全然カメラに映らなかったからどうしようかと思っちゃいましたよ」

「・・・なに、これ・・・」

「だからさっきのバニーです」

「そうじゃなくって!」


 僕が怒って言うと、野分くんはにやにやしながら教授を振り返った。振り返られた教授は新しい煙草に火をつけている。


「教授に美術館のシステムに侵入してもらって乗っ取ってもらってたんですよ。だから実は別に隠れなくってもよかったんです」

「ハッキング・・・?」


 僕が教授を見ても教授は煙草を吸いながら上を向いて虚空の彼方を眺めるだけだ。そんなことができるなんて、教授っていったい何者なんだろう。それにしても、どうでもよさそうだなぁ、本当に・・・。


「だから見つかったのはバニーの方ではなく教授の方です。気にしなくっていいんですよ」

「・・・野分くん、お金が欲しかったわけじゃないんだね?」

「ええ。僕が欲しかったのはお金でも品物でもなく、これですよこれ!」


 そう言って野分くんは僕が盗みを働いているのが映っているテレビに抱き着いた。その恰好のまま僕のことを絡みつく蛇のような眼差しで見てくる野分くんを見て、僕は悟った。


「さあ、バニー。僕が言わんとしていること、わかりますよね?」

「・・・なんとなく、わかった」


 野分くんは子供らしい太陽のような笑顔を浮かべると、やったーと万歳をして見せる。外見だけなら・・・外見だけなら可愛い子供なのに・・・。


「これでバニーは僕らの仲間ですよ!」

「・・・」

「僕の無言の圧力の勝利ですね!」


 喜び勇んでいる野分くんに、僕は言い聞かせるように呟いた。


「・・・野分くん、そういうのはね、脅迫っていうんだよ」


 ・・・そう、僕は悟ったのだ。

 ―――僕は一生、ラッフルズからは逃れられないんだなぁ。

 がっくりと肩を落とした僕は、持っている大きな袋が肩からずり落ちても、直す気力が起きなかった。


「で、バニーは最後に何盗ってきたんですか? なんか他にも盗ってきましたよね? 見せてくださいよ」

「・・・僕を陥れるような子には見せてあげない」


 僕はそのまま空いてるソファに倒れ込んで、大きな大きなため息をついた。


 


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