Story-2 『ある小さな王様のお話』
ある小さなお城に、小さい王様が住んでいました。
その王様は、高いところが好きでした。暇さえあれば、高台、丘の上などに登り、景色を眺めていました。
これは単に、王様の背丈が小さいからだけではありません。高いところにいると、「自分は王様なんだ」とか「王様なんだから、人々の上にいなければいけない」とか、そういう意識的なものを忘れないようにするためでもありました。
今日も今日とて、王様は丘の上に登り、芝生の上に座り、しばしの間ボーっと空を眺めていました。
今この空間には、王様一人だけ……そう、大臣などの目を盗んでこっそりと抜け出してきたのです。
バレたら怒られる、それは分かっているのだけれど、この空間にいる時だけは一人になりたいという思いの方が強かったんです。
「はあ……」
口からため息が零れます。
王様は疲れていました。毎日毎日色んな国との交易やら条約の話やらで、気分がまいっていたのです。
それが王様の仕事だろ? って言われてしまえばそれまでの話なのですが……何分まだ若い故、その業務の大事さが完璧には分からないのです。
それに、この王様は背丈だけじゃなく、心も少し小さめ。優しい故に、キッパリとした決断を下すこともなかなかできないのです。それを先程、大臣にも注意されたばかりでした。
頭では分かっている……でも、それを実行に移すことって、なかなか難しい……。
「やれるのなら、僕だってやってるって……」
空に向かってひとりごとが零れます。
「――聞いちゃった、聞いちゃった♪」
「!? だ、誰?」
突然聞こえた声に、王様は驚いて振り返ります。
すると、そこには――
「ふふ、王様はっけーん♪」
「何だ、君か」
王様はホッと胸を撫で下ろしました。やってきたのは、城下に住んでいる子供でした。この子供もこの場所が好きで、3回に1回くらいの頻度で王様と会っているんです。簡単に言えば、友達のようなものでしょうか。
「ねえねえ? さっき何ひとりでしゃべってたの~? やれるのなら――やってるよ~みたいなこと言ってるように聞こえたけど~」
「いや、大したことじゃないよ。それに……君に話すには、ちょっと荷が重すぎる……」
「ええ~、いいじゃんいいじゃん。確かに子供だけど、王様と私の仲じゃん? 隠し事は無しだよ~」
「しかし……」
「ほらほら、ほらほら」
子供と言うのは好奇心の塊だ。ズイッと距離を詰めて、耳元を口に近付けてきます。
「――実はね」
王様は、子供に分かりやすいように、自分の悩みを打ち明けました。
「――というわけなんだ」
「そっか~。だから、ちょっと寂しそうな顔をして座ってたんだね」
「そ、そんな風に見えていたのかい?」
「うん、背中にどんより雲がどかって乗ってたよ」
「はは、そうか……」
「――ねえ、王様」
「何だい?」
「王様は、高いとこが好きなんだよね?」
「ああ、好きだね」
「それは、今も変わらない気持ちなの?」
「え? う、うん。変わってないと思うけど……」
「じゃあじゃあ、一回高いところに来るのを止めてみようよ」
「…………え?」
「高いところに来るの、しばらく止めてみよう? 禁止~」
「ちょ、ちょっと待って。言ってる意味がよく分からないよ」
「そのままの意味だよ、この場所に足を運ぶのを止めればいいだけだよ」
「そ、その理由がよく分からないんだって」
「嘘~? 自分の心に手を当てれば分かると思うけどな~」
「こ、心に手を?」
「だって、今の王様、本当に高いところが好きなように見えないんだもん」
「え?」
「何か、義務的? みたいな感じで来てるように見えるんだもん。そんな感じで来ても、面白くないと思うんだ。だから、一度足を運ぶのを止めて、気持ちがスッキリしたら、またここに来るようにしたほうがいいと思うの」
「ず、随分難しい言葉を知っているね……」
「私のお母さんが言ってたんだ」
「そうか」
「後ね、後ね~高いところに登るのもいいけど、時々低いところに行ってみるのも悪くないかもよ~。ずーっと同じところばっかりにいても新鮮味がないと思うし~、目線を変えるってことも必要なんじゃないかな~? 今の王様には、それが大事だと思う」
「またまた難しい言葉を言うね……」
「私のお父さんが言ってた」
「そうか」
目線を変える……王様の心に、その言葉が強く刺さりました。高いところが好き……それは今も変わらない事実です。でも、確かにこの子が言うように、最近はここに来ても気持ちが落ち込んだまま……むしろどんどん下がっているように感じていました。
それは何故か……この子の言うように、義務的な感じになっていたからです。自分の立場、意識を忘れないようにするためだけに訪れていただけだからです。
「私、王様のこと大好きだよ? 優しいし、私たちのことずーっと考えてくれてるもん。でも、最近の王様はちょっと無理してるように見えるんだ。無理して王様、王様をしてるっていうか……自分らしさって、大事だと思うよ? 私が思う王様の良いところっていうのは、皆の立場になって考えれることだと思ってるから」
「皆の立場か……」
「うん、だから頑張って? 元気出して? 私は王様の味方だよ。じゃあね」
「も、もう帰るのかい?」
「うん。王様に一人で考える時間をあげないといけないから」
「だから、どこでそういうことを……」
「私のおばあちゃんが言ってた」
「そ、そうか……」
「じゃあね? またね~」
「う、うん。じゃあね」
その子は元気いっぱいに、走って帰っていくのでした。
「…………」
まさか、子供の言葉にここまで身につまされることになるとは考えていなかったでしょう。王様は、しばし呆然としていました。
でも……心の閊えが少しとれたような……そんな感覚を覚えていました。
「僕の良いところ……」
王様はその日、遅くまでその場所に残っていました。
――それから数年、王様は一回りも二回りも成長し、国をしょって立てる程の器に成長しました。
高いところが好きなのは今でも変わってはいません。でも、昔の「好き」とは違う「好き」という気持ちに変わっていました。
それは――あえて言わないことにしましょう。
END
何か、ぼんやりした感じの内容にまとまって
しまった感じがしますが……
あ、あえてなんです(笑)




