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Story-13 『彗星の道』

 広大な宇宙の海を、ひたすらに走る彗星がいました。


 彗星は、何故自分が走り続けなければいけないのかが分かっていませんでした。


 生まれて、記憶がはっきりしてきた時にはもう走っていて、それを止めれば死んでしまうからでしょうか? ……本当かどうかは定かではありません。


今日も彼は、たくさんの星を巡りながら走っていきます。


「あ、冥王星だ。冥王星はいいな、綺麗に燃え続ける太陽の近くにいることができて……羨ましいな」


 彗星は、そんなことを呟きながら冥王星を通り過ぎていきました。


「あ、海王星だ。海王星はいいな、僕なんかと違って綺麗な色して輝いてて……羨ましいな」


 彗星は、そんなことを呟きながら海王星を通り過ぎていきました。


「あ、天王星だ。天王星はいいな、皆と違った特徴的な形をしていて……羨ましいな」


 彗星は、またそんなことを呟きながら天王星を通り過ぎていきました。


「あ、土星だ。土星はいいな、かっこいい氷のリングを身に纏っていて……羨ましいな」


 彗星は、またそんなことを呟きながら土星を通り過ぎていきました。


「あ、木星だ。木星はいいな、大きな大きなたくましい姿をしていて……羨ましいな」


 彗星は、またしてもそんなことを呟きながら木星を通り過ぎていきました。


「あ、火星だ。火星はいいな、太陽と同じくらいの赤い輝きを放てて……羨ましいな」


 彗星は、またしてもそんなことを呟きながら火星を通り過ぎて行きました。


 彗星は、とっても弱虫でした。


 他の星たちと違って、自分が何をするために生まれてきたのか、何のために走り続けなければいけないのか、それが全て分からなかったからです。


 何度か、走ることを止めれないか試みたのですが、自分の意に反して、ただひたすらに動き続けます。


 自分の意志に沿った行動ができないことも、彼の劣等感を強調する材料の一つでした。


 だから彼は、いつも他の星たちを羨ましそうに眺めていたんです。自分に持っていないものをたくさん持っていて、自分とは違ってキラキラ輝いていて……何もかもが自分より優れているように見えて仕方がありませんでした。


 自分も、あの星の一部になりたい……何度そう思ったことでしょう。だけど、それも叶うものじゃない……彗星は悲しくなってしまいました。


「僕なんて、すぐに燃え尽きてしまえばいいんじゃないのかな」


 その方が、楽になれる……弱虫な彼が持つ思考の最終地点はいつもそれでした。


 でも、それも叶わない……いよいよ彼は、どうすればいいのか分かりません。


「僕なんて、僕なんて……」


 そんなことを呟きながら、彗星は地球の近くにやってきました。


「あ、地球だ。地球はいいな、他の星にはない、たくさんのモノを持ち合わせていて……羨ましいな。僕も、地球みたいになりたかった」


「そんな風に思うことはないよ。ボクは、君が羨ましく思うよ」

「え?」


 語りかけてきたのは――地球でした。


「こんにちは、いつもボクの横を通り過ぎているよね」

「うん。僕はそうすることしかできないから……」


「そうすることしかって、すごいことじゃないか。僕たちは、君みたいにたくさん動きたくても動くことができないんだから」

「でも、僕なんて……皆と違って小さいし、存在も大したことがない。いてもいなくても、どっちでも変わらないじゃないか」


「ううん、そんなことない。君には、君にしかできないすごいことができるんだから」

「僕にしかできない……すごいこと?」


「うん。ボクがどんなに頑張ってもできないすごいことだよ。――少し、耳を傾けてごらん」


「え? ………………」


 彗星は、言われるままにそうしてみます。すると――




「うわぁ、綺麗な彗星だ~。何であんなに綺麗なんだろう」


「生きてる内に、あんな素晴らしいものを見れるなんて……私は幸せものだ」


「すごい、すごーい。お父さん、私もあの星みたいになりたいよ」

「はは。じゃあたくさん努力しなくちゃいけないな」




 ……………………。



「……………………」

「――聞こえたかい?」


「あれは、僕を見てあんな風に言っていたのかい?」

「そうだよ。君の走り続ける姿は、たくさんのものに『感動』を与えているのさ。これは、君にしかできない素敵なことじゃないかい?」


「僕にしかできない……こと……」

「そうさ。だから、羨ましいなんて思う必要、これっぽっちもないよ。君が存在する理由は明確にある」


「………………うん」

「じゃあ、またね。またボクの近くを通ったら声をかけてよ。ボクの『中』にも、それを伝えるからさ」


「分かった。ありがとう」


 彗星は、地球を通り過ぎました。


 さっきまではなかった、自信という言葉を心に刻みながら。


「僕にしか、できないこと……やってみよう」

 

 ――今日も彗星は、たくさんの星を巡りながら走り続けます。


 次に地球を通り過ぎるのは――2061年くらいでしょうか?



                         END


宇宙っていうものの魅力は

いつになっても尽きないですよね(*^_^*)

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