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Story-12 『北風と太陽と……』

※この物語はフィクションです。


 この物語は、イソップ童話ができる少し前のお話です。北風と太陽は悩んでいました。イソップ童話に出展する話がなかなか決まらずにいたからです。今日も二人は、悩んでいました。


「サンちゃん、何か思いついた?」(北風)

「いんや、何にも思いつかね。今夜の晩飯が思いついたくらいだ」


「晩飯って、今はそれどころじゃないでしょ」

「んなこと言っても、悩めば悩むほど腹が減ってしょうがないんだよ。隕石でも食ってくるかね」


「ダメだよ、そんなこと言ってまた俺だけに考えさせるつもりでしょ? 食べに行くなら方針だけでも決めてからにしようよ」

「んん……仕方ねぇな。……ダメだ、皆目検討もつかねぇ」


「そんな2秒で思いついたら苦労しないでしょ! もっと真面目に考えてよ」

「だから2秒間真面目に考えたろう」


「短いんだよ、もっと長い時間考えてよ!」

「時間は待ってはくれないんだぞ? こうしてる間にも温暖化現象は進み、西表ヤマネコたちは絶滅の危機に陥っているんだ」


「だから何だっていうの!? 俺たちにはどうしようもないことじゃない。むしろ世界の温度をグングン上昇させてるのはサンちゃんじゃないか」


「そりゃ俺だって何とかしたいとは思ってる。でもどうしようもないじゃないか。俺はただ熱核融合に身を任せて見守ってるだけだから、俺が何とかしようと思ったところで何ともならないんだよ。何とかするとしたら俺じゃない誰かが動かないといけないんだ、人間とか人間とか人間とか。大体人間は無駄遣いが多いんだよ。自分が満足すればそれでいいと思ってやがる。所詮は無能な生き物さ、自分一人じゃ何にもできはしない。人数が集まれば強気になってみたり、みんながやってるからってそれを真似てればいいのかい?もっと一人一人が周りに気を配ればこんなことにはならないはずさ。もっと熱くなれよ、そう、俺のようにな」


「長いんだよ! つかどんどん話が脱線してきてるから!」

「それもまた、人生さ……」


「カッコよく決めても何にも解決してないから、いいから頑張って考えようよ」

「キタピーよ。考えろっていうけど、もうかれこれ5日は悩んでるんだぞ。今更必死に考えたところで“はあ、素敵、素敵すぎて吐き気がする”みたいな案が浮かぶわけないだろ」


「吐き気がするって……だって考えなくちゃ何も進まないじゃないか」

「もっと頭をウミウシみたいに柔らかくして考えねぇとよ。そんなカッチカチな岩塩みたいな頭じゃきっと締め切りまで何も決まらねぇぞ。というわけで、飯にしようぜ。俺惑星を何個か食してくるから、ここで待っていてくれ」


「ダメだってば! 夜まで待ちなってば。下の人たちが日食と勘違いしちゃうでしょ! というか惑星なんか食べたら宇宙の基盤が崩れちゃうから! 本当は考えるのが面倒なだけなんじゃないの!?」


「失敬な、俺がそんなことを考えるわけないだろ。――はあ」

「そのため息、絶対に考えてたでしょ!」


「ああ、もう。こういう時間がもったいないんだよ」

「誰のせいだと思ってるの!? サンちゃんが最初から真面目に考えてくれないからこうして注意してるんでしょ」


「だから、何度も言うようだけど、二人で頭抱えて考えてたって何も始まんねぇだろ。誰か他の意見を出してくれるオブザーバー的な奴いないのか?」


「――お呼びでしょうか、北風さん、太陽さん」


「あんた誰!? どっから湧いて出たの!?」

「ああ、すみません。驚かせてしまいましたか、どうも始めまして。私、吉田といいます」


「あ、これはこれはどうも――ってそうじゃなくて。誰もあなたを呼んだ覚えはないんですけど」

「あれ? 言っていたじゃありませんか。オブザーバー的な人がほしいと、だからこうしてあの世から遥々現れたんですけど」


「あの世って、あなた死んだんですか?」


「はい、10分程前につまづいて。で、私は天国と地獄どっちに行けばいいのか閻魔様にお尋ねしたところ、もう一伸び足りないと言われたんです。善行をしてくれば天国に行かせてやろうと言われたのでこうしてお二人の前に現れたわけです。お二人は悩んでいたのでしょう?」


「まあ、それは……」

「なら私に任せてください。きっといい案を見つけてみせます。こう見えても私、頭の回転には自信があるんですよ」


「へえ、そうなんですか」

「はい、是非ともお力にならせてください」


「よし、じゃあよろしく」

「サンちゃんも考えるんだよ。何一人で勝手に帰ろうとしてるの」


「俺がいたところで何にも解決しないだろう。だったらエネルギーを蓄えて、下の世界の奴らに太陽の光をたっぷりプレゼントしてあげたほうがいいじゃないか」


「それは後でいいから、とにかく考えるの」


「――なるほど、じゃあ人々のためになるようなお話にしたいわけですね」

「そうですね」


「なるべくどっちも目立てるようなのがいいですね。俺たちの生活もかかってるんで」

「お互いに目立つことが可能なお話と……」


「思いつきますか?」

「少しお時間をいただけますか……」



 ……………………。


「あー、腹減った。猛烈に土星のリングが食べたい気分だぜ」

「何でそんなにピンポイントなの。だから宇宙の基盤が崩れちゃうから」


「じゃあ生姜焼き定食がいい」

「それは下の世界の人たちの食べ物でしょう? 俺たちに食べれるものじゃないってば」


「生姜焼き……これだ!」

「ど、どうしました? 吉田さん」


「生姜焼きで思いつきましたよ、お互いに目立つことができる且つためになるお話が」

「どんなのですか? 太陽が暴走して地球を一瞬で焦土にするお話ですか?」


「そんなのタメになるわけないでしょ!? というかスケールが大きすぎ、誰も得しないよ」

「テーマは『合理的』です。個人的にはなかなかいいお話だと思うんですが」


「教えてもらってもいいですか?」


 ……………………。


「――というわけです」

「なるほど、服を脱がせるタイプと帽子を脱がせるタイプですか。確かにこれならどちらも同じように目立てますね」


「はい、どうでしょうか?」

「すごくいいアイディアですよ、すごいです、吉田さん」


「気に入っていただけましたか?」

「はい、自分はすごくいいと思います」


「…………」

「サンちゃん、どうしたの?」


「いや、この話だと、どっちもキタピーは目立てないんじゃないのか?」

「え? どうして? 俺が強風を起こせば帽子は飛ぶでしょう?」


「いや、その前に、俺が本気で日差し照りつければ帽子が溶けてなくなるだろ」

「どんだけ熱くしようとしてるの!?」


「いや待てよ。俺が本気を出しちまったら俺が目立つはずの服を脱がす話で、服を脱ぐ前にその人自体が溶けてなくなっちまうんじゃないか? いや、それはどっちの話でも同じか、帽子が溶ける前にその人が溶けちまうよな。だとしたら勝敗がつかないじゃないか? 一体どっちの手段が正しいのか分からなくなっちまうぜ。これってダメなんじゃないのかよ」


「深く考えすぎだってば、いつもどおりのサンちゃんでいいんだよ」

「俺結構普段抑えて燃えてるんだぜ? 俺がいつもどおりになったら温暖化現象どころの騒ぎじゃないぜ。北極と南極の氷全部溶けるぜ」


「マジ? そうだったの!?」


「それだけ下界の人たちがエネルギーを無駄遣いしてるってことだぜ。そっちのほうが重要問題なんじゃないのか? いっそのこと太陽はお怒りになってる、人間なんて簡単に絶滅させることができるってことを刻み付けたほうがいいんじゃないのか」


「そんな話通るわけないでしょ!? そんなブラックなお話誰も求めてないから。それに、そんなこと言われてもオロオロするだけで何にも解決しないから。つか俺話に出てこなくなるから」


「そうか? ま、いいけど。目立つことができるなら俺は何でもいいさ」

「じゃあ、決定でいいんだね」


「へいへい」

「吉田さん、本当にありがとうございます」


「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」

「よく思いつきましたね」


「太陽さんが生姜焼きと言ってくれたおかげですよ」

「何もお話に関係してないように思えるんですけど」


「いやいや、ありますよ。生姜は体を暖かくする効果がありますから。暖かい=熱い=服を脱ぎたくなる=服を脱がせる――ってことです」

「(トレースが分からない……)」


 ――というわけで、北風と太陽はその話を締め切りまでに提出し、見事採用ということになりました。北風と太陽のお話は、吉田さんの活躍によって、完成されたのでした……。



 ――数日後。


「サンちゃん」

「おう、キタピーか。こんな朝っぱらになんだよ」


「一応報告しにきたんだよ。スカイライブラリーで、俺たちの話の評価を聞いてきたから。それなりだってさ」

「ほーう、そうか。これでしばらくは何とかなるな」


「まあね、…………」

「何だよ? トンボみたいな顔して」


「どんな顔だよ……いや、結局、吉田さんって何で俺たちの前に現れたんだろうね。急に来てアドバイスくれて帰ってっちゃったけど」

「キタピー、そこは突っ込んだら負けだと思うぞ? 第一、それを言ったら俺たちのことだって突っ込みどころ満載だ」


「……それもそうだね」

「さあて、今日も激しく燃えるぜ。地球の最高気温を上昇させてやる」


「だから、そんなことしちゃダメだってば~!」

 


 ――ちなみに吉田さんは、無事天国に行けたらしいです……。



※北風と太陽の内容


1、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。

.まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。

次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。


2、もう一つの勝負は旅人の帽子をとることだった。 最初、太陽は燦燦と旅人を照り付けると、旅人はあまりの日差しで帽子をしっかりかぶり、決して脱がなかった。 次に北風が力いっぱい吹くと、みごと簡単に帽子は吹き飛んでしまった。


話の教訓は、『何事にも適切な手段が必要』ということである。

                          END


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