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世界は無意味である 1

 神愛は残像が残るほどの勢いで指先をキーの上で躍らせていた。ふと静かになると髪に指を走らせ、毛先をものうい仕草でねじりながら思案していた。そしてまた猛烈にキーを打つ。


 やがて彼女は達成感交じりの微笑みを浮かべた。


 「出来た。む、この投稿ボタンを押せば良いのだな」


 神愛が投稿ボタンを押すと、僕の画面上でもそれが反映された。


【Neue-Existenzさん】からの回答: 


 『教育の時間だ。わたしが賢明で行き届いた返答をくれてやろう。


 まず、君は性格が歪んでいると自分で決め付けているが、それは誰が決めたんだ? どの性格や考え方が正解で、適切でふさわいいものか、そんなことを決められるのは神様だけだ。君は神か?


 君が感じている憂鬱の原因は、自尊心の欠如と世の中への幻滅だ。


 そりゃあ、幻滅もするだろう。多くの人は他人を押しのけて我を通すことに何の疑問も持たず、学歴や職業や所得や容姿が優れていることで得意になって他人を見下す。他人と比べることで自らの人生が価値あるように思い込む。他人を足の下に踏みつけて感ずる下等な自己満足で自尊心を保つ。そんな哀れな自我しか持てないクズどもで満ち満ちた社会に、違和感を感じるか? 


 そうか。


 君は軟弱だが、その感性は貴重だ。


 君の真実の姿を教えよう。君はいま、自我の確立の過程にいるのだ。その危うい過程を、細いキャットウォークを、ふらつきながら渡ろうとしている若者、それが君だ。


 わかっているか? 集団も、他人も、君とは何の関係もないのだよ。十七世紀にデカルトが発した近代的自我の独立宣言――「我思う、ゆえに我あり」を知っているか。物を思う我の存在だけは疑うことはできない。いま考えている自我だけが絶対確実な真理なのだ。逆に自分の自我以外はすべからくあいまいで絶対性がない。よって、世界と我とは無関係である。


 残念ながら、この自由な一個人の独立宣言の声は、二十一世紀の今日でも、一握りの人の耳にしか届いていない。君と、君を取り巻く世界は無関係だということに、まだ気づいてはいないのだ! 未だ中世のまどろみの中で、無意味に他人と背比べしている!


 ある男子がかっこよいと皆が誉めても、あなたが違うと思うなら、違っていい。ある男子をブサイクでカッコ悪いと皆がけなしても、君が違うと思うなら、違っていい。他人が思うことと、君が思うことの間には、何の関係もないのだから。


自分は自分、他人は他人だ。誰が禁じようと、君がやりたいからやるのだ。だから、クラスメートがどう考えようが、君がそれに合わせる必要はないのだ。同じ理屈から、他人の考えを自分と同じに強制する権利もない。


 君は他人の意思を尊重し、君の意思も同じように尊重することを学べ。一人ひとりがどんな考え方をしてもよいと思えば、あるがままの自分が嫌だというのはおかしな話だろう?


 とはいえ、意思がぶつかり合う世界で自分を高く保つのは険しい道だ。


 人は誰だって、集団に認められることを願い、集団からハブられることを懼れている。クラスメートも自分の身を守るために、集団の空気を読んで集団に埋没しようと、血まなこで右往左往しているのだよ。KYの烙印ほど、重たい罪人の証はないのだから。


 だが、しっかりしろ。泣き声をだすな。感情を捨てろ。人生において自分の意思以外を持つことは許されない。人生を課題として捉える者には、他人を羨むことも蔑むことも許されないのだ。トンネルを前にして、君の自我愛はしくじりをおそれているだけだ。顔を上げろ。前に進め!


 君は自分自身の主にならなければならない。自らを律するのだ。他人の価値観に踊らされる、他律のDQNになることをこそ懼れよ。肉体は精神の奴隷たれ!』



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