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早く齢をとってお婆さんになって死にたい 2

 『幼いころから、ずっと生きるのが怖いです。何をやっても上手くいかず、これからも傷ついたり、しんどい思いや辛い思いをして生きていかなければならないと思うと、憂鬱になります。中学高校と努力してなんとか人並みの人間関係を築こうとしてきましたが、もう疲れました。


 自分の性格が歪んでいることにも嫌気がさしています。例えば、ある男子は、みんなからカッコイイと言われているのですが、だからなに? と思ってしまいます。カッコイイからって、なぜそんなに騒ぐの、と思ってしまいます。その男子が自分はカッコイイ的な発言をしているのを聞き、その男子にも、騒ぐ女子にも怒りを覚える自分がいます。他にも変な考え方をたくさんしてしまいます。本当に周囲とずれている自分が嫌になります。こんな世界そのものにも憎しみを覚えます。


 これからしたくもない仕事をするために就職活動をして、周りと競走して嫌な上司の下で働いて、その傍ら結婚相手を探さなければならないと思うと、辟易します。


 この人だと思い定めて結婚しても、少しずつ考え方の違いが積み重なって、一度は愛した人と憎みあうことになるかもしれません。そうでなくても一生お金に悩んで、辛いのを我慢して、我慢して、生きるのかと思うと、生きる意志が壊れてしまいそうです。


 将来に横たわる人生はまるで、光も射さない長いトンネルのようです。その入口で、私は立ちすくんでいます。友人、就職、結婚、出産……まともな人なら普通に手に入るものが、私にはどれ一つ手にできそうにないからです。


 こうやってあがいていても、まるで自分が、高いところに危なっかしく登って、月をつかもうと空に手を伸ばす猿のようで滑稽です。手に入らないものを手に入れようと恋焦がれるくらいなら、早く齢をとってお婆さんになって死にたいです。私はどうすれば良いでしょうか』


 僕が読み終わると同時に、神愛も携帯から視線を外した。そして長椅子の背もたれによりかかり、深い溜息をついた。やがて神愛は顔を上げ、つぶやいた。


 「この女は自己肯定感が足りないようだ。『三つ子の魂百まで』という諺があるが、こいつ、幼い頃に愛情が足りなかったのかもしれないな」


 「そうね」と汀も瞑目するように、瞳を閉じて同意した。


 「もしくはセロトニン代謝異常や、側坐核の萎縮のような器質的な問題かもしれないぞ」と僕。「後ろ向きな考え方や性格というものも、結局は脳が生み出しているものじゃん。その場合、質問者の努力や根性だけではどうにもならないぜ」


 ほとんど思案することもなく、神愛は僕の意見を速攻で笑い飛ばした。


 「はぁ? 愚かな見解ね。器質的な問題だろうが、性格的な問題だろうが、強引にねじ伏せてしまうのが哲学の力だ。心に打ち込まれた哲学の楔の強大さが、希介にはまだわかっていないようだな。よろしい、教育してやろう」


 神愛は携帯に猛烈な勢いでテキストを打ち込みはじめた。


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