表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖げんげん  作者: ヒロユキ
第一話 闇よりの歌声
5/40

其の五

 山間に太陽の残光が消え去ると、町は物言わぬ闇の海に沈んだ。穏やかな春の日の名残は消え去り、代わりに、心細い冷たさをまとった夜の影が辺りを覆い始める。

 夜彦は、その夜、自宅で夕食を済ませると、家族の目を盗んで、こっそり家を出、自転車を走らせた。

 目的地は、自分の通う高校である。坂道を下り、見慣れた通学路を風を切って進んでいった。暗い夜道には、人影はほとんどない。世界はひっそりとしている。

 しばらくして、道が海に近づくと、人気のない校舎が暗闇から、のっそりと現れた。その様子は、まるで息をひそめて町を見渡す巨大な怪物のようで、闇を縁取った教室の窓は、その怪物の岩窟のような、黒々とした目のようだった。

 夜彦は自転車を降り、校舎の塀に沿って歩いていた。


 と、夜彦の鼻先を、何かがかすめた。

 咄嗟に手で掴み取る。見ると、それは桜の花びらだ。

 校庭の周りには、ちょうど散り始めたばかりの桜が静かに佇んでいる。外灯の光に照らされて、その桜の薄紅色が、淡く輝いているような印象を受ける。

 夜彦は何だかその魅力に吸い込まれるようにして、近づいた。夜の桜は、単なる美しさとは違う、どこか不気味な魔力に満ちているようだった。夜彦の心が、渦のような、その幻想的な雰囲気に飲み込まれていく。


「やっぱり、昼間見たときとは、違うな……」


 つい、そう呟いていた。

 その時、


「何が違うというんだ? 夜彦」


 何者かの声が聞こえた。思わぬことに、体に緊張が走った。

 誰だ?

 すると、見上げた桜の枝の上に、ぼんやりと薄い影が見えた。それは瞬きの間に消えてしまったのだが、間髪入れず、夜彦の傍に誰かが降り立ったような気配があった。


「さては、私の美貌か?」


 その、誰かが言った。

 咄嗟にそちらを振り向いて、その人物を確認し、


「く、葛葉かよ……」


 驚かすなって、と大きく深呼吸をしながら、気持ちを落ち着かせた。

 夜彦の目の前には、つい夕方まで一緒にいた、白狐の少女が立っていたのである。どうやら、桜の木の上で自分が来るのを悠々と待っていたらしい。

 彼女の流れる星屑のような銀髪は、相変わらず神秘的な光を放っているのを夜彦は見る。こんな少女はそこら辺を見渡しても、他にいるはずがない。間違いなく、葛葉である。

 しかし、彼女の容姿は、それ以外のある部分において、先ほどと、明らかに異なっていた。


 それが――。

 服の下から覗いた、白狐の艶やかな一本の長い尾と、頭上の銀髪の間からちょこんと生えている、二つのふっくらした毛並みの狐の耳だった。

 それらは少女の姿の彼女と不釣合いなもので、普通の人が見れば、何かの見間違いかと二度見してしまうほど、珍妙な出で立ちである。

 もちろん断っておくが、それは彼女が自身の可愛らしさを存分にアピールするためのアクセサリーとして、柄にもなく、身につけているものではない。正真正銘、彼女自身、白狐の体の一部なのである。

 そしてそれは、同時にあることを示す、一つのサインでもあった。


「力、開放してるのか?」


 夜彦は、彼女に向けてそう訊いた。


「もちろんだ。何が起こってもいいようにな」


 彼女は、自慢気に自分の尻尾を一振りしならせる。


「普通の人間の姿では、本来の力をほとんど封じているわけだし、ある程度力を発揮するには、このくらい白狐の姿を発現させているのがよい。予期せぬ事態に備えてな」


 彼女はそう言った。夜彦もふうんと頷く。

 実は、先ほどと違う、彼女から生えた尻尾と耳には、彼女が言うとおり、白狐の力の開放のためという理由があるのである。

 妖には、人間にはない超常現象を操る特別な能力があるが、白狐の場合、人間に変化してしまうと、より完全に化けるために、その力を自ら封じてしまうのだ。

 そのため、元の力を開放するためには、再び白狐の姿に戻る必要があるのだが、面倒臭がりな彼女はそこまではせず、体の一部を元に戻すだけに止め、およそ、半分ほどの能力を開放する。その状態が、これなのだ。

 ちなみに夜彦は彼女には内緒で、その状態の彼女を「狐っ娘形態」と名付けている。


「しかしな、夜彦。いま何時だと思っている」


 と、そこで急に彼女は声色に怒気を混ぜた。


「え?」


 夜彦は首筋に冷たいものを感じながら、答える。


「じ、十一時半、だけど」

「確か、約束は十一時だったはずだぞ」


 彼女は不満そうに、近づいてきた。彼女の二つの耳がその感情を表すように、ピクリピクリ、と神経質そうに動く。


「いやあ、すまん。中々家を抜け出すチャンスがなくって――」

「あのな、夜彦」

「へ?」

「私はお前が必要なことだと言っているからこそ、わざわざ付き合ってやっているのだぞ。ならば、常識的に考えて、待ち合わせ場所には、お前が先に来ておくべきなのだ。ましてや、のこのこ後から遅れてきて、私を待たせるなど……言語道断だ!」


 ヒュン――。

 鋭く空気を裂く音がして、何かが、夜彦の耳元を掠めた。今度は桜の花びらなんかではない。


「う、うわっ」


 それは、針の先端のように鋭利に尖った彼女の尻尾だった。自身の体の後ろからくるりと、向きを変え、夜彦の頬の横、数ミリの空間を突き刺すように伸ばしている。もしも、数センチ右であったら、夜彦の顔は無残にも蜂の巣になっていたことだろう。


「夜彦、するべきことは分かるな?」

「は、はい、ごめんなさい」


 震えながら、夜彦は謝罪した。





 こっそり学校の塀をよじ登ると、夜彦と葛葉は校庭の脇を通った。校舎の中にはすでに生徒も教師もいない時間である。教室は当然ながら、明かりはついていないし、駐輪場にも駐車場にも、停めてある車も自転車もない。

 特にだれもいないので、そのまま校舎まで走り抜けてもいいのだが、夜彦はあることを思い出す。

 確か、夜の構内には、警備員が常駐しているのだ。唯一、守衛室から光が漏れているのが見えた。夜彦たちはそれを避けて、校舎の裏側まで走ると、一階の男子トイレの窓から中に侵入することにした。

 そこまで葛葉を案内し、早速夜彦は事もなげに慣れた手つきで窓を開ける。


「お前、ピッキングの訓練でもしているのか?」


 不思議そうな顔をして、その様子を見ながら、葛葉が聞いた。


「人聞きの悪いこと言うなよ。もちろん、違うさ。ここはもともと鍵が壊れてるんだ」


 苦笑いしながら答える。


「なにしろ、この校舎はずいぶん古いし」


 よっと、勢いをつけて、夜彦は窓をよじ登った。転がり込むように中に入る。

 そして、振り返って外にいる葛葉に手を伸ばそうとすると、彼女は、軽い跳躍でもって、夜彦の頭上をすり抜け、難なくトイレ内に降り立った。

 伸ばしたままの夜彦の手がだらんと力なく垂れる。


「何だよ、かわいくねえな。そういう時は、可愛らしく上目遣いで、ありがとうって感謝を述べ、俺に手を伸ばすのが一つのマナーってもんだろ」

「ふん、どこの世界のマナーだ?」

「万国共通、由緒正しき紳士と淑女のマナーさ」


 えっへん、と胸を張って答えると、肘で胸を突かれた。


「なら、お前はまず、レディーを待たせないことから学べ」

「うへぇ……全く、冷たいなあ」

「そうだな。しかし、夜彦の無駄口に付き合っていたら、私のための貴重な夜が終わってしまうんだ。ほら、早く行くぞ」

「へいへい」


 夜彦は体についた埃を払って、葛葉の後を追った。

 トイレから出て、夜の校舎を走る。幸いにも見回りの人間はいないようで、移動はスムーズに行うことが出来た。一番近い階段を上り、目的地のある三階を目指す。


 しかし、さすがに夜の校舎は不気味だ。夜彦はそう思う。

 昼間の生徒たちで賑わっている間は、ちっとも怖くなんてないのに、いざ、誰もいなくなると、これほど恐ろしいものもない。

 闇に満ちた空間というのは、存在しているだけで恐ろしいものなのだ。何か潜在的に、得体の知れないものを人に想像させるところがあると思う。

 だが、それは夜彦にとっては、たまらない楽しみでもあった。

 いったいその空間には何がいるのだろうか。いや、何もいないのか。いずれにせよ。

 それを覗いてみたいという、どうしようもなく堪らえようのない衝動に駆られるのである。それは酷く子供じみていて無邪気な感情だった。

 そして、その願望こそが、夜彦を怪談といった摩訶不思議なものに興味を向けさせる。


 しかし、そういう夜彦に対し、葛葉は先ほど――。


『お前は異常なのだ』


 そう、言った。

 果たして、本当に自分は異常なのだろうか。夜彦は自問する。昔から、夜彦は不思議な体験を求めることが好きだった。それを特別おかしいとは思わなかったし、あるがままの自分であることを否定しようなどとは一切発想すらしなかった。

 だが、それが最初から変だったということなのだろうか。

 昼間の少年は、この先の音楽室で、以前一人の生徒が自殺したと言っていた。

 もはや、人ではないその存在は、本当に今でも歌を歌い続けているのだろうか。

 どこまでも、どこまでも、終わらない旋律の中で、その身をうずめているのだろうか。

 その存在は、いつか気がつくのだろうか。自分がもはやいきている人間ではなく、死んだ人間だと。

 他とは違う、全く異質な存在だと。

 そして、それに気がついたとき、彼は何を思うのだろうか。

 絶望だろうか、悲しみだろうか。それとも再び、人間に生まれ変わりたいと願うのだろうか。このまま跡形もなく消え去りたいと考えるのだろうか。

 そんなことを想像していると、夜彦は、なんとなく切ない気持ちに駆られた。


「着いたぞ」


 葛葉が言った。

 気がつけばそこは既に音楽室の入り口だった。


「ここが、その歌を歌う霊がいるという音楽室だな」

「ああ」


 葛葉は躊躇いもなく扉に手をかける。

 がらり。戸が開いた。

 教室の中はがらんとしていて、誰かがいる気配はない。夜彦は耳を澄ました。どこからか、何者かの苦悶に満ちた歌声が聞こえてくるかもしれないと思ったが、特に何も聞こえない。室内はしんとした静寂に満たされている。

 となりの、葛葉を見た。


「どうだ、何か、感じるか?」


 すると彼女は、


「む?」


 と目を動かした後に、ふっと、息を吐き出し、ずいずいと教室の中に進んでいった。どうやら、暗い部屋の様子を見ているようだ。

 夜彦はあえて、教室の明かりはつけなかった。既に暗闇に目が慣れているというのもあるし、不用意につければ、警備員に気づかれてしまう可能性があった。


 しばらくして――。

 ふいに葛葉が、何かに気がついたように窓に近づき、外を見た。

 そこからは、誰もいない真っ暗な校庭が見渡せた。来るときに見かけた桜並木も見える。

 夜彦は再び葛葉を見た。彼女の髪から出た耳先が微かな気配を拾い取るように機敏に動いている。ふわ、ふわ、とうごめく様は、見ていて飽きない可愛らしさがあり、つい、触ってしまいそうになる自分を抑えた。

 今はそんなことをしている場合ではない。

 と、彼女が教室のとある場所で立ち止まった。


「おっ!」


 声を上げる。夜彦はすぐに駆け寄った。緊張が走る。


「どうした、何かいるのか?」

「ふふふ」


 すると、彼女は不気味に笑った。


「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花。かな」

「なに?」

「夜彦、残念だがこれは外れだ」

「は、外れ?」

「うむ、その少女とやらが聞いたという歌声はおそらく、妖などではない」


 妖、じゃない?

 その答えに、夜彦は混乱する。


「え、ちょっと待ってよ。じゃあ、その女の子が聞いたっていう歌声って、一体」

「答えは驚くほど単純だぞ」


 まるで夜彦を見下すように目元を細めた彼女は目の前の窓枠を掴んで言った。


「え?」

「風の音だ」

「はあ?」

「ほら、ここを見ろ」


 葛葉が指さしたのは、窓枠と窓の間の僅かな隙間だった。


「この窓は建物の老朽化のためか、かなり閉まりにくくなっている。どうやら、窓枠の方が歪んでいるのだな。そうなると、こんな風に、窓と枠の間にスペースが出来る」


 つまりだな、と彼女。


「ここに風が吹き込んで、音が鳴ったのだ。それも、あたかも何者かが歌っているように、な」

「え、えええええええ!?」


 それはにわかには信じられない言葉だった。風の音を人の歌声だと思っただって。

 葛葉は、説明を続ける。


「お前は、事件は二日前にあったのだと言った。あの日、私はいつものようにお気に入りの鳥居の上にいたのだが、特に風が強かったのをよく覚えている。見てみろ、ここに、桜の花びらが挟まっている。これはおそらくその日の風で挟まったのだな」

「ああ、そういえばそうだったな。俺も髪の毛がぐしゃぐしゃになったんだっけ」


 ぼんやりと思い出しながら、夜彦は頭をさすった。二日前の記憶を辿っている。

 葛葉がぽんと手を叩いた。


「まあ、論より証拠だ。私の力で少しだけ風を吹かせてみよう」


 そう言って、彼女はその場で軽く両足を広げる。


「夜彦、少し離れておけ」

「あ、ああ」


 そして、尾を大きくしならせると、ぶうんと音が出た。ばさり、と重量感のあるそれが横に広がり、一枚の扇のようになる。それに見とれていると、


「触るなよ。触ったら十万ボルトの電流を流して、お前を消し炭にしてやるからな」


 彼女に釘を刺された。夜彦はさらに後ずさった。


「お、おっかねえな」

「わたしの自慢の尻尾だ。汚されてしまうのはかなわないからな」


 それだけ言って、彼女は目を伏せた。

 すると、仄かに彼女の周囲に光が満ちていく。おそらく力を溜めているのだろう。彼女の尻尾が右へ左へ、ふさふさと空気をかき混ぜるように動いた。

 そして、

 カタカタ、ガタガタガタ――。

 小さな地鳴りのようなものが聞こえたかと思うと、遠くの方から一気に校舎に向けて、何かが向かってくるのを、夜彦は感じた。

 バリバリと窓ガラスが揺れる。

 そして、


「――」


 甲高い、風の音が、鳴った。


「――」





「ほら、鳴っただろう」


 風が止むと、彼女はしたり顔で聞いてきた。夜彦はこれには頷くしかなかった。確かに、あの窓ガラスの隙間は風によって音を鳴らしたのだ。

 それは、動かない真実なのだけれど。


「うーん……」

「何だ、不満か?」


 葛葉が眉をひそめる。往生際が悪いな、と舌打ちする。

 しかし、夜彦にはどうしても納得できないのだ。


「だって、どう聞いても人が歌っているようには聞こえないぜ」


 そうなのだ。夜彦の耳では、どう聞いてもそれは単なる風の音であって、百歩譲っても人間の歌声には聞こえない。甲高い叫び声には似ているかもしれないが、それは、歌っているのではないのだ。

 すると、それを聞いた彼女は、


「そうだな」

「あっさり認めた!」


 これにはさすがに拍子抜けした気分になる。ならば、少女が聞いた歌声の秘密は、以前解明されていないことにはなるのでは、と思ったが、葛葉は語気を強めてこう言った。


「しかし、少女はこれを人の声だと思ったのだ」

「ど、どうしてさ」


 当然の疑問だった。

 彼女は意味ありげにピンと人差し指を立てる。


「それは簡単な理由だ、夜彦。話によると、その歌声を聞いたという少女は、音楽室から帰ろうとしていた時、何かに『恐怖していた』のだろう」

「え?」

「夜彦、これは実に重要な点だぞ。おそらくこの少女は、そう思うことによって、自分自身に、一種の暗示をかけていたのだ。『もしかすると、これから何か恐ろしいことが起こるかもしれない』と」


 彼女は意味ありげに声をひそめながら喋る。


「つまりだな、ここで問題なのは、風の音がどれだけ人の声に似ているかではなく、彼女が怯えている状況で、何か奇妙なことが起こったかどうかなのだ。そして、この場合、突然、予期せぬ風の音が鳴ったことで、彼女はそれを、幽霊の声だと思ったのだ」

「はあ」


 それは要するに、障子に映った木の影を幽霊の手だと思うようなものか。


「まあ、事実ここに来て分かったが、ここには何の気も感じない。ここには妖は存在しない。おそらく、その何十年も前に自殺した生徒が本当にいたとしても、魂はこの世界に存在してない」

「えええ!」

「結論を出すと、ここで起こった事件は、単なる勘違いということだ」

「そ、そんなあ」


 夜彦は膝から地面に体をつけた。そんな夜彦を見下ろして、葛葉が言葉を続ける。


「残念だが夜彦。怪談というものはだ、不透明な流説であるが故に、虚実入り乱れ易いものなのだ。いつでも嘘と真が紙一重。火のないところに煙は立たぬというが、怪談の場合、火の無いところに煙が立つこともある」


 そして、彼女は校庭に咲く桜を見下ろしながら言う。


「花のない場所に、匂いだけが香ることもあるのだ」


 それじゃ、自分が嗅いだ怪談の匂いも、偽りのものだったということか。がっかりした夜彦の頭に重々しい葛葉の言葉がのしかかる。


「全ては人の『恐れ』の心が作り出すことだ。そこから実際に新たな妖が作り上げられることもあるが、ここで起こった怪事件には、少なくとも実は無い。人の心が闇を生み、そこにあるはずのない妖を形作ったのだよ」


 そして、はあ、と彼女は退屈そうに息を吐いて、こつん、と夜彦の頭を小突いた。


「いてっ!」

「いいか、これに懲りたら、いい加減、むやみやたらに、次から次へと、私のところに怪しげな話を持ってくるのを止めろ。さっきも言ったが、お前は異常だ」


 その言葉が、再び、夜彦の心を抉った。

 自分は、おかしいのか。

 でも、確かに、彼女の言うとおり、自分は馬鹿らしい。何から何まで見境なく怪談の類を拾ってくる自分は、本当に何も分かっていない子供のようだった。


「ご、ごめん」


 脱力したまま、そう返す。葛葉に申し訳ない気持ちだった。


「ふん、私は最初からこの話の根拠が怪しいと思っていたのだ。全くこれでは、くたびれもうけの骨折り損だな。いつまでもここにいても仕方ない、夜彦、帰るぞ」


 しかし、彼女がそう言って踵を返した時、教室に、ふうわりと、花の匂いが香った。


「あれ?」


 それを怪訝に思った夜彦の耳に、


「――」


 今度は本当に、何者かの歌声が、響いた。

次回、第一話完結です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ