青い百合のヒーロー
本作品は東映アニメーション様の作品を題材にした非営利のファン創作です。原作やオリジナルではないキャラクターの著作権は東映アニメーション様に帰属します。プリキュアをモチーフにした作品ではありますが、一部刺激的な描写があります。本作品は筆者の好みが全面的に展開された二次創作であることをご理解した上でお読みください。
力とは何か、正義とは何か。私は改めて問いかけたい。
「今年度から青の護衛隊に配属になりました。シャララです、よろしくお願いします。」
「よろしくな!」
「よろしく」
特にドラマチックな目標があって入隊したわけではない。
強いて言えば――ただの『成り行き』だ。
人よりちょっと正義感が強くて、剣術が得意だっただけだ。
「どうだいシャララ、制服は気に入ったかい?」
「はい、もちろんです。モッコク隊長」
彼は、現青の護衛隊隊長のモッコク隊長。屈強な体が彼の仕事ぶりを物語っている。
「そんな堅苦しくする必要はない、ここは家族のようなものだ。もっと力を抜くんだ。制服以外の規定はないのだから、その短い髪を伸ばしてお洒落したっていいのだぞ」
「長い髪もアクセサリーも、剣の邪魔になります。」
言ってから気が付いた。きっと隊長なりの冗談だったのだろう。だが、その余裕が今の私にはなかった。
「そうか、余計なことを言ったな。では君の部屋に案内しよう」
苦笑いする隊長とともに、隊員たちがいるホールを後にした。
「シャララ、今日からここが君の家だ。何かあったらいつでも相談してくれ。私は一度ホールに戻るよ」
「はい」
寮のベッドに座った。天井を見上げる。ゆっくりと息を吐くも、どこか吐息が揺れていた。
入隊一か月後、様々な訓練や現場を経験した。迷子の捜索、王室の警護、野獣の鎮静、実に多様だった。私は言われた任務を淡々と遂行した。
「ありがとう、青い髪の護衛隊さん」
「やるなシャララ、お前も次期隊長候補か?」
「大したことではありません……」
「もっと笑えよ、シャララ。俺ら青の護衛隊だぜ」
「は、はい……」
今日も全ての任務を終え、真っすぐ本部へ帰った。
そんな無愛想な私に転機が訪れた。
「緊急要請、緊急要請。ヒサカキ邸に強盗が侵入、負傷者複数名、ただちに出動せよ。繰り返す……」
早朝、つんざくようなアナウンスが寮全体に響き渡った。私はベッドから飛び起きると、制服に着替え、乗用鳥にまたがった。
「全隊員よく聞け!任務内容を伝える。」
モッコク隊長の大声が轟く。
「場所は北西地区、ヒサカキ邸、金銭目的と思われる強盗が発生。通報者はヒサカキ家の令嬢と思われる。負傷者の保護、犯人の確保に努めよ!」
「はい!」
隊員全員が声をそろえて返事をすると、乗用鳥が走り出した。
ヒサカキ家と言えば、スカイランド屈指のスカイジュエルの採掘会社を経営する一家だ。知らない人などいない。超有名企業の社長家族となれば、かなりの資産があるだろう。強盗に入られても矛盾はしない。
そうこう考えている間に巨大な屋敷が見えてきた。モダンで大きな屋根が青い空に映える。すると、屋敷の入り口近くで一人の若い女性が涙を流していた。
「青の護衛隊さん!助けてください」
真っ青な顔で彼女がそう言うと、大粒の涙を流した。この雰囲気、今までの任務とは違う。
「あなたがシキミ ヒサカキさんですね?」
隊長が冷静に問いかけた途端、シキミは隊長にしがみついて
「お願いです、両親が……両親が……」
「シキミさん、落ち着いてください。シャララ、屋敷に入り両親の安否を確認しろ」
「はい!」
私を含めた隊の一部はモッコク隊長から指示を受けると、すぐさま屋敷の入り口へ駆け出した。手袋の内側がじっとりと湿っていた。
洋風な扉を開き、中へ入る。靴箱が開き、姿見が割れていた。金目のものを探した跡なのだろう。まだ強盗犯がいるかもしれない。私は剣に手をかけながら進んだ。
キッチン、誰もいない。
リビング、誰もいない。
階段、誰もいない。
寝室、息が止まった。
「う゛っ」
豪勢なキングベッドに二つの影。毛布の下から流れる赤い液体。世界の音を奪う耳鳴り。鼻を刺す鉄分の香り。
「あ゛、あ゛ぁぁぁぁ」
私の記憶があるのはここまでだった。
一面真っ白な視界。右側に蛍光灯、左側にカーテン、ここは……?
「気が付いたか!シャララ」
「隊長!」
固くも柔らかな隊長の顔、それを見るとどこか体の力が抜ける気がする。
「隊長、ここはいったい?」
「もう少し小さな声で話せ。ここはスカイランド中央病院だ。」
隊長が状況を詳しく話してくれた。どうやら私は、被害者の姿を目の当たりにして卒倒してしまったらしい。卒倒した以外に体の異常はないみたいだ。そしてその被害者はというと、
「うっ……」
「無理をするなシャララ、今看護師を呼ぼう」
そう言って看護師を探しに行った隊長を見送った。
私は、また白い天井を見つめる。
「シャララさんって言うのですね」
絹のような声だ。私は一瞬カーテンが喋ったのかと思った。しかし、どこか聞いたことがある気がした。
「もしよければ、カーテン、開けてもよろしいですか」
「はい、」
私はベッドから手を伸ばし、遮るカーテンをスライドさせた。
「さっきぶりですね、うふっ」
発色のいいツツジ色の長い髪、満月のような瞳、艶やかな肌。あなたは、
「シキミ ヒサカキさん……」
「はい、シキミです」
「ねぇねぇシャララさん、なにか外飛んでいますよ、UFOかな?」
「ただの遊覧鳥だと思いますが」
「あはっ、あたしったら、うっかり」
なんだろう、この感じ。さっき会ったはずなのに、馴れ馴れしいというか、会話が弾むというか。
「シャララさんの病院食ってどんなのですか?」
「たぶん、同じですよ」
「そういえば!ですよね」
くすっと笑える入院生活だった。大した意味はない。柔らかくて、触ると溶けてしまいそうな会話。ベッドにいながらも、春の川辺にいるようだった。
しかし、その生活も束の間。
「すみません。一足先に退院みたいです、シキミさん」
いつもの透き通る笑顔が曇った。
「あの」
「あの」
同時だった。
「あたし、もう少し入院みたいなんで……」
一度息を吸った。
「お見舞い、来てもいいですか……?」
「今あたしもお願いしようと思ってました。うふっ」
一昨日はリンゴ、昨日はヤーキターイ
「いつもありがとうございます、シャララさん」
彼女はいつ訪れても明るかった。
今日は花束を差し入れよう。護衛隊の訓練が終わって自由時間になる午後五時、中央病院、正面玄関。いつも通りの風景に見慣れない光景があった。
「シャララさん!」
「シキミさん!今日退院だったのですね」
入院服ではないシキミさんの姿だった。夕方の冷たい風がシキミさんのワンピースをなびかせた。
「ごめんなさい、突然退院と決まって。花束も用意してくれたのに」
「元気になったならそれで良いです」
「元気……」
夕日が病院の影を伸ばして、シキミさんの顔にかかった。風が二人の間に流れる。
「あたし、これから一人なんです。しかも、あの荒らされた家に帰るんですよね。犯人捕まってないし」
「すみません。護衛隊の力不足です」
「いえ、シャララさんが悪いわけではありません。むしろシャララさんにはすんごく助けられました」
「そう言ってくださると有難いです」
「では、遊覧鳥が来ますので。いきますね」
そう言うと、彼女は軽く会釈をして、私のすぐ隣を横切って病院を去ろうとした。私はただ立ち尽くして、彼女の遠ざかる靴の音だけを聞いて―。
「待ってください!」
髪が揺れて、二人が振り返る。
「どうしました、シャララさん?」
……。
「今、寮に住んでいて、だから、私の自宅、空いているんです。もちろん一人で使ってもらって構わないですし……。あの、」
声が震えた。こんな経験は初めてだった
「事情が事情ですし、きっと隊長に頼めば自宅から護衛隊に通えると思いますし……。」
シキミさんの顔が夕日色に染まる。
「……よければ、私の家に来ませんか。」
彼女はそっと右手を目の近くに寄せて、一滴の涙を軽く拭って答えた。
「はい!お願いします」
私たちは肩を並べて歩きだし、一緒に花束を抱えて帰った。最後に夕日が一瞬差すと、あたりはほのかに青い暗がりに包まれていった。
モッコク隊長は、思ったよりもあっさり自宅から通うことを許してくれた。シキミさんの傷を癒してあげてくれ、と言われ、難なく同居生活が始まった。
「おかえりなさい、シャララさん…、じゃなくてシャララ!」
「ただいま、シキミ」
「あっ!顔にあざがある。今日も訓練で無茶したんでしょ」
「いや、これはいつもので……。」
「とにかく!夕飯作ったよ」
同居が始まって四日目、互いに下の名前で呼ぶことにした。私が護衛隊で外出している際、シキミは部屋の片付けや夕飯の準備などの家事をしてくれた。
「それで?味はどう?」
「あぁ、おいしいよ」
「なにそれーほんとに?」
体の底がゆっくりと温かくなる。いつぶりだろう、こんなにも笑ったのは。今朝だってそうだ。
「今日も行くんだね、護衛隊」
「もちろんさ」
「たまには休めばいいのに」
「そう気安く休めるわけでは……」
「そうだよね、あたしだって護衛隊のみなさんに助けてもらったしね」
「あぁ、だから今日も行ってくるよ。君みたいな人を守るために」
「『みたいな』じゃなくて……」
顔を赤らめて、上目遣いでこちらを見てくると
「『君を』ならよかったのに」
なんて返答すれば分からなくて、笑ってそのまま家を出てしまった。ただ、嬉しかったことだけは分かる。
成り行きで入隊した青の護衛隊、目的なんてなかった。しかし、今なら目的を持てるかもしれない。彼女の素直さ、優しさ、笑顔、気持ちが、教えてくれた気がした。
帰宅したとき、彼女は珍しくベランダで夜空を見ていた。
「珍しいですね」
「あっ、シャララ。帰っていたんだね。今ご飯用意するから!」
彼女はすぐに部屋に戻ると、夕飯の準備を始めた。
せっかくだから、私もベランダで夜空を眺めることにした。星を探してみたが、雲が出てきてしまった。夜風が少し寒い。
「あれ?」
ベランダの柵に手をかけたとき、違和感を覚えた。ベランダに出たのは久しぶりなのに、柵に砂埃ひとつ付いていない。まるで毎日ベランダに出ていたみたいだ。もしかして
「シャララー、ご飯できたよ!」
「あっ、はーい」
急いで部屋に戻ろうとする。そういえば、私はシキミのことをあまり知らなかった。
「それじゃあ、明かりを消すよ」
「うん」
任務の疲れか、すぐに目を閉じた。すると
“ガサッ”
「ど、どうしたんだ?」
シキミが私の布団に入ってきた。
「あたし、明日、ここを出ていこうと思うの」
暗がりの中で聞いたその声は、どこか遠く感じた。 理由を聞きたかった。引き止めたかった。 けれど、言葉が喉の奥で固まってしまう。
「そうなのか……」
彼女の顔を見ようとしたら、暗がりで見ることができなかった。
「ずっとここにいたら迷惑かけちゃうし、甘えすぎちゃうから」
「別に私は迷惑だと思っていない!」
本心だ。今日だって夕飯を作ってくれたのだ。むしろ迷惑をかけているのは私にほうではないか。
「ありがとう。シャララは優しいね」
「そうか…?」
沈黙が続く。最初に喋ったのはシキミだった。
「今夜だけは……一緒に寝てもいい?」
「ああ」
その後は、二人とも喋らなかった。触れ合う髪がやけに切なかった。肌の温度が、胸のざわつきをそっと溶かしていく。
私は彼女のことを何も知らない。だが、今、彼女を愛している。傍から見れば、こんなことあり得ない。きっと今は、今だけは、いつもの私ではない。
“明日、ここを出ていこうと思うの”
彼女の言葉が脳内に流れる。嫌だ、離れたくない、もっと一緒にいたい。しかし、それでも彼女はここを出ていくのだろう。あのとき、ベランダで夜空を見ていた彼女の横顔が根拠だ。
ここで見送ることが、私たちの愛だ。そう心に誓うと、互いの唇が触れた。
夜が溶けていく。うねるように、包むように。いずれ明ける朝のことは忘れ、時を過ごす。深い眠りについた時など知る由もない。
目覚めると、隣にシキミはいなかった。笑顔で見送るつもりだったのに。もう行ってしまったのか?
布団から起き上がると、一つ伸びをした。そして、彼女を探し始めた。
キッチン、誰もいない。
リビング、誰もいない。
ベランダ、誰もいない。
玄関、息が止まった。あの時の光景がフラッシュバックする。
「……シキミ?」
どうして…
「う゛っ」
横たわるツツジ色の髪をした人型の塊。真っ青な肌。無造作に置かれたガラスの小瓶。漂う薬物の香り。
「あ、あ゛ぁぁぁぁ」
どうして……
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
一面真っ白な視界。右側に蛍光灯、左側にカーテン、ここは……スカイランド中央病院。
「気が付きましたか、シャララさん」
「看護師さん……私、どうなっていたんですか?」
「出勤されないことを心配された隊長さんが自宅を訪ねたところ、倒れたシャララさんを発見されたというところです。」
「そうなのですね」
死体を見て卒倒する、まるでかつての私と同じじゃないか。そういえばシキミはどうなったのだろう。
「あの、看護師さん!シキミは」
色々考えている間にいなくなってしまったようだ。シキミは無事だろうか、生きているのだろうか、どこにいるのだろうか。
一日中、二十四時間、シキミのことを考えていた。そのうち食欲も薄れ、音が遠く聞こえるようになった。時々隊員が見舞いに来てくれたが、私の姿を見ては、口をそろえて、やつれている、と言う。最初は動揺したが、もはやどうでもいい。シキミに会いたい。どうしてシキミを守れなかったのか。その思いだけが頭のなかに留まる。
「シキミ……」
毎日見る看護師、気づけば一か月も入院していた。短かった髪も随分と伸びた。
あのときカーテン越しにいたシキミはきっと。
「……さん……」
カーテン越しに声が聞こえた。幻聴だろうか。
「シャララさん…」
その声、もしかして
「シャララさん、お手紙が届いているみたいですよ」
若い女性看護師の声だった。この方が悪いわけではない、期待してしまったのが良くなかった。
「そこ置いておいてください」
「分かりました。また今晩も様子見に来ますね」
「はい……」
とても見る気にならなかった。どうせ護衛隊からの手紙とかだろう。これだけ休んでいたのだ、クビにでもなるのだろうか……。
トイレや検診の時、ベッドから起き上がる度、枕の横に置いた手紙に目が行った。明日読もう、明後日読もう、後で読もう。
入道雲が映える青空を、ぼんやりと眺めていた。特別な日でもない。ただ、いつもより光が強く感じられた。
その光が枕元の封筒を照らしたとき、胸の奥で何かがかすかに動いた。ずっと避けてきた手紙に、初めて手を伸ばす気になった。
送り主も見ずにほったらかしていた。全ての希望が失われていたから。しかし、私の目にわずかな光が戻った感覚があった。
『シャララへ
突然いなくなってごめんなさい。この手紙を読んでいるということは、もう、あたしはこのスカイランドにはいないでしょう。シャララにはたくさん助けてもらったのに、本当に申し訳ないです。
両親はあたしに格別の愛をくれました。どんなに仕事が忙しくても、他人から妬まれようとも、両親はあたしのことを優先してくれました。その両親がいなくなって、あたしは世界の色を失いました。
そんなとき、カーテン越しに聞こえたあなたの声が、あたしをこの世界につなぎとめてくれました。あなたと話す時間は、悲しみを少しずつ溶かしてくれました。心から感謝しています。
シャララはあたしと話してくれるだけではなくて、お家にも住まわせてくれました。あのときのシャララの拙い言葉は今でも覚えています。
あなたの家で過ごした日々は、あたしの宝物です。料理も掃除も上手じゃなかったけれど、あなたが「おいしい」と笑ってくれるたびに、あたしは生きていていいのだと思えました。
ただ、温かくて、楽しい日々の一方で、あたしには、どうしてもシャララに打ち明けられない気持ちがありました。それは将来のことです。毎晩星を眺めながら考えては泣いていました。大好きな両親に会えない。その上あなたに甘え続ける自分が嫌で、でも離れたくなくて。あなたの未来を奪ってしまう気がしました。
どうすればよかったのか、今でも分かりません。ただ、あなたを愛していたからこそ、苦しかったのです。
さて、こんなあたしでも、最後の仕事があります。それはシャララを励ますことです。これを読んでいるシャララは、きっと落ち込んで、護衛隊を休んで、入院して、やつれていると思います。ただ、例えヒーローと言えない状況だろうとも、どんな結果だろうとも、あたしにとっては間違えなくヒーローでした。かっこよくて、優しい、あたしだけのヒーローでした。
あのとき言ってくれましたよね?
“今日も行ってくるよ。君みたいな人を守るために”
あのときのシャララは、すごくかっこよかったです。
今もどこかで、シャララのかっこよさを求めている人がいます。かつてのあたしみたいに、泣いて助けを求めている人がいます。シャララは望んでヒーローになった訳ではないけれど、世界はシャララみたいなヒーローを求めているはずです。
今いるべき場所は、きっと病院のベッドではない。どうか、あたしみたいな人のために、あたしのために、守ってください。
立ち止まるな ヒーロー
シキミ ヒサカキ より』
全力で後悔した、数十日ベッドにいた私に。
私は翌日、主治医に退院させてもらえるように、頼みにいった。その次の日には、もう護衛隊にいた。
「う゛……」
「なんだシャララ、入院したせいで体なまっているんじゃないか?」
久々の訓練は随分と体に堪えるものだ。ただ、どんなに護衛隊を休んでいても、隊員は優しく接してくれた。
「なんか前より笑顔増えたか、シャララ?」
「そうですかね……?」
そうかもしれない。だって、かつての私とは違って、護衛隊にいる目的があるからだ。
“あたしのために、守ってください。立ち止まるな ヒーロー”
彼女の言葉を反芻する。私はシキミのために、シキミみたいな人のために、ここにいるのだ。
十数年後、髪は伸びても、大人びても、どんなに時を経ても、気持ちは変わらない。ひたむきに護衛隊を続け、気づいたら隊長になっていた。
もちろん、隊長になってからも、数多くの任務をこなした。隊長としての責任も増えたせいか、どの任務もよく覚えている。その中でも最も印象的だったのは、やはりソラという少女を捜索する任務だろう。無垢な笑顔でくれたスカイジュエルのネックレスを今でもつけている。
「シャララ隊長、そのネックレスずっとつけていますよね?前はアクセサリー一つつけてなかったのに」
「そうだな」
これもシキミのおかげだろう。何事もいつか消えてしまう。だから、今をもっと大切にしよう、そのためには、少しお洒落やもらったものを大切にしようと考えるようになった。
「シャララ隊長!ちょっといいですか?」
「シャララ隊長!聞きたいことがあるのですが」
「あぁ、今行く」
騒がしくも、やりがいのある、素晴らしい仕事だ。
「シャララ隊長!緊急要請です!」
「どうした?」
飛んでくるように隊長室に入ってきた隊員は、冷や汗を大量に流していた。
「スカイランド北で大規模な火事です。負傷者は数十名。火事は広がる一方だそうです」
「承知した。報告ありがとう、急いで全隊員を集めてくれ」
「はい!」
訓練の甲斐あって、すぐに隊員は集まり、全員乗用鳥にまたがった。
「全隊員よく聞け!任務内容を伝える。」
私の大声が轟く。前任のモッコク隊長もこのような気持ちだったのだろうか。
火災現場に到着すると、見るにも悲惨な光景だった。しかし、私は隊長だ。私がひるんではどうにもならない。先着していた消防隊が消火活動をしており、我々護衛隊は生存者の捜索と負傷者の治療を行った。
青の護衛隊、消防隊、地元の人の協力により、地域住民の全員の避難、鎮火が完了した。死亡者が出なかったことは、不幸中の幸いと言えるだろう。
「青の護衛隊諸君、避難と鎮火が完了した。速やかに出火現場の捜索にかかれ!」
全隊員に指示を出し、私も発火原因の捜索を始めた。
発火元を捜索しているうちに、私はある建物に辿り着くと、足を止めた。建物が真っ黒。ほぼ全てが燃え尽きて、朽ちている。
炭と化した瓦礫を進んでいくと、護衛隊の調査班がざわついていた。
「シャララ隊長お疲れ様です!」
「あぁ、調査ご苦労様」
調査隊員は淡々と調査結果を伝えてくれた。
「出火現場はこの建物の一室と推察。燃えた場所を見る限り、放火と思われます」
「そうか、報告ありがとう」
報告を受けると、私はこの建物を去ろうとした。その時、背中から別の隊員が
「隊長!余計な報告かもしれないのですが、よろしいですか」
「分かった。速やかに頼む」
もう、ここから離れたい気分だった。
「この付近でかつて、大量のスカイジュエルを使ってアンダーグ帝国に行った形跡が見つかりました」
なんということだ。大量のスカイジュエルを使用して、しかもアンダーグ帝国?!
「変ですよね、ここ元ヒサカキ邸ですよ。まぁスカイジュエル採掘の一大企業の元社長宅だから可能ではないけれど」
「あぁ……」
そう、ここはヒサカキ邸の跡地。あの一件があるまでは、今も凛とした屋敷があったはずの場所だ。見つからない強盗犯、亡くなったシキミ、そしてこの火災事件。あまりにも不可解なことが続き過ぎている。
「ここって、かつて夫婦の強盗殺害事件があった場所ですよね?シャララ隊長。老夫婦しかいなかったのに、本当に不気味ですね」
「待て、今なんて言った?」
視界が揺れた。呼吸が浅くなる。
「え?老夫婦しかいなかったのに、不気味ですね、って」
全ての感覚が消えたようだった。あの屋敷には老夫婦しかいなかっただと?!そんなことはない、そんなことは……だってシキミは……
「あれ?隊長ご存知なかったですか?そういえば事件の直後入院していたらしいですもんね。屋敷に老夫婦以外の痕跡は発見されませんでしたので、間違えありません」
なんて返せばよいのか分からない。どうすればいい?立っていることもしんどい。
そうだ、私が二度目の入院をしたときだ。あの時はシキミがいたはずだ。
「ひ、一つ聞いても良いか?私が自宅で気絶していた件、あれについて教えてくれないか?」
隊員は首を傾げながらも答えた。
「あれですか?シャララ隊長がかつて薬物中毒で入院したやつですか?」
「薬物中毒?!」
自分でも驚くほどの大きな声が出た。
「本人が何言っているのですか。玄関に小瓶と一緒に倒れていたのはシャララ隊長ですよ。あと、どうしてあの薬を使ったのですか?あれほとんど無害のやつですよ、まあ気化させて大量に摂取すると鬱作用がでるとか」
私は今にも倒れそうな体を保ち、質問した。答えを聞きたくなかったが。
「そのとき、私一人だったのか?」
……
「はい、そうですよ」
「シャララ隊長、調査終わりました!」
「分かった、それでは王室に報告しに帰ろう」
動揺を隠していた。かつての私だったら卒倒していただろう。しかし、今は隊長だ。ヒーローだ。信頼してくれる部下がいる。助けを求める人がいる。倒れている場合ではない。
護衛隊は乗用鳥にまたがり、王室のあるスカイランド中央へ向かった。
私は道中、一つの仮説が浮かんだ、浮かんでしまった。ヒサカキ邸強盗事件から始まった出来事。犯人は捕まっていない。大量に使われたスカイジュエル。行く先はアンダーグ帝国。そして、私に薬物を仕向けることができる者。
全てに共通する唯一の人物、その人物こそ――
「シャララ隊長、大変です。スカイランドの中央でエル王女の誘拐事件が発生しました!犯人はアンダーグ帝国の者と思われます」
護衛隊の伝達係が疾風のごとく報告にやってきた。
「分かった、急いで向かおう」
シキミは私に全てをくれた。愛する力、守る力、前を向く力。ただ、その悲劇を起こした張本人こそ彼女かもしれない。
力とは何か、正義とは何か。私は改めて問いかけた。
答えはまだ出ない。それでも、歩みは止めない。いつか来る希望のために。




