ネガティブ発電所
20xx年。6月。
この国では今、"何か"に悩む人が減り続けている。
その理由は彼にある。
それは24歳という若さでノーベル賞を受賞した男のことだ。
彼がどんなノーベル賞を受賞したのかというと
その名も"ネガティブ発電所"である。
小さな街に風車が三本立っており、それぞれ中に入ると椅子が一脚置いてある。
ネガティブを吸い取りたい人が座り頭に帽子のような装置を付けるとネガティブを吸い取る。
すると風車が回り電力に変換できる機械だ。
風車は三本あるので一度に三人までなら変換可能である。
彼がこの装置を作った理由は母親の自殺が関係していた。
自身が5歳の時に母親が海に身を投げて死んだのだ。
もう誰にも同じ思いをして欲しくないと研究を重ね、ついに出来上がったのがこの"ネガティブ発電所"。
近くに小屋があり、主にそこで作業をしている。
もちろん、その作業内容は秘密だ。
今でこそいなくなったが過去に彼のネガティブ発電所を勝手に使おうとした人たちがいた。
しかし、彼以外の人が風車に触れると溜めていたネガティブが触れた箇所から体内に流れてくる形になっていて一瞬で超弱気になってしまうのだ。
もちろん、注意喚起はしていたがそれでもネガティブ発電所を盗もうとする人たちがいたのだ。
父「サン、そろそろ夕飯にしよう」
サン「父さん、うん、今行くよ」
サムじいちゃんが亡くなってから4年が経った。
僕は今、父さんと二人暮らしをしている。
父「作業に没頭し過ぎるクセはおじいちゃん譲りだな」
サン「そうかも」
父「サン、俺はお前を誇りに思うよ」
サン「どうしたの急に」
父「母さんのような人を出さないようにと毎日研究を続けていただろう、母さんもきっと喜んでくれているよ、こんなに立派な息子に育ったって」
サン「完成したのはサムじいちゃんのおかげだよ、
僕が研究を始めた頃から時計の仕事を辞めて、死ぬ直前まで研究を続けて資料を作ってくれたんだもの」
父「おじいちゃんもだが、それを受け継いだサンも立派だよ」
サン「ありがとう・・・あれ?家の時計止まってない?」
父「え?あ、本当だ」
サン「サムじいちゃんが直してくれてからなんともなかったんだけどな・・・食べ終わったら見てみるよ」
父「ああ頼むよ、しかし、まさかサンが時計まで直せるようになるとはな」
サン「サムじいちゃんが色々教えてくれたからね、とは言えサムじいちゃんみたいに作ることはできないけど」
父「充分だよ」
サン「ごちそうさまでした‼︎」
父「サン、作業する前にプリン食べないか?」
サン「え、プリンもあるの?」
父「ああ、作業をするなら糖分は必要かと思ってな」
サン「ありがとう、父さんの支えがなかったら僕はとっくに倒れてるよ」
父「はは、頼むから倒れないようにしてくれよ」
サン「うん、休憩しながらやるよ」
父「さてと俺は先に寝るよ」
サン「父さんは仕事朝早いもんね」
父「ああ、お休みサン」
サン「お休みなさい父さん」
夕飯を食べ終えた僕は小屋に戻った。
机の上に置いてある写真立てを見る。
写真の中には僕、サムじいちゃん、おばあちゃん、母さん、父さんが映っている。
僕が3歳の頃の五人が写っている貴重な写真だ。
おばあちゃんは僕が4歳の時に病気で亡くなっている。
しばらくしてサンが手を止めた。
サン「よし!できた!」
サンはん〜っと伸びをする。
サン「さーて、他の作業を・・・おっといけない、サムじいちゃんとの大事な約束だ」
サムじいちゃん「いいかいサン、人間はね時計と同じなんだよ」
サン「時計と同じ?」
サムじいちゃん「ああ、そうさ、時計も人間の体も時を刻み続けている、
でもね、時計は電池が無くなったら交換したり
錆びてきたら磨いたりする、
無理矢理動かしたら壊れてしまう、
人間の体も同じでメンテナンスが必要なんだよ、
時計を直してる間、針はどうなってるかな?」
サン「えーと・・・」
おじいちゃん「針は動かずに止まっているだろう?」
サン「あ!ほんとだ!」
サムじいちゃん「人間も同じさ、疲れたら止まる、怪我をしたら治療する、それさえ忘れなければサンは幸せになれるからね」
サン「本当に?」
サムじいちゃん「ああ、本当さ」
サムじいちゃん「サンには自分の幸せを一番に考えて生きて欲しいんだ、それは決して人を蔑ろにするという意味ではないんだ」
サムじいちゃんが言っていた言葉の意味が今なら分かる。
サン「よし、今日はもう休もう」
僕は眠っている父さんを起こさないように部屋に戻り、時計を壁に掛けた。
止まっていた時計の針は長いお休みを経てまた動き始めた。
ゆっくりゆっくり。けれど確実に時を刻んでいる。