前書き
私は火の鳥が好きだ。
ただし、ガチ勢でも研究家でもない。「学校でマンガ読める!」と図書室にあった火の鳥の愛蔵版を読み始めた不純な少年であった。幕末も平均よりは好きだろうが、マニアを名乗るには厳しい。いつだったか居酒屋で小松帯刀という酒を見かけた時も「あれ? なんか聞いたことあるな?……誰だっけ?」と結局思い出せなかった。その程度の私が勝手に膨らませた妄想から生まれたのが、この「偽りの火の鳥 幕末編」である。
どうか安心して欲しい。どこかの名もなきおっさんがひねり出したホラ話なぞ、マンガの神様のライフワークである本物の火の鳥には遼か及ばない。その程度の分別はあるつもりだ。いっそペンネームを手塚遼太郎にしてやろうかとも思ったが、より一層傲慢になってしまうので自重した。この上更に司馬遼太郎ファンの怒りまで買ったら目も当てられない。
だから私は堂々と「偽り」をタイトルにぶちこんだ。これはスピンオフなんて素敵なものじゃない。宝くじが当たった途端に生えてくる親戚よりも縁遠く、胡散臭い代物だと自分から晒していくことにしたのだ。だが、せめて正直者ではありたいという、おっさんの僅かな誠意とささやかな抵抗の表れなのだだ。あと、景品表示法対策でもある。
というわけで、宇宙の端っこの更に片隅で、一人のおっさんがホラを吹いていることを、なんとか許容していただければ僥倖だ。
それでは、いつか全ての生命が繋がるところで、マンガの神様に土下座する栄光の日を夢見つつ——読者諸兄、蝦夷へ参るといたしましょう。