牢獄男と王女様
「はぁ…なんでこんなことになったんだよ…」
暗く、ジメジメとした空間に陰鬱な声が木霊する。
「っとに、おかしいだろ。なんで学が…?」
イライラしたような声色で男は独り言ちる。
ガチャリと重厚な扉が開く音がする。コツコツという足音を鳴らしながら女は男を閉じ込めている牢の前までやってきた。
「アイバ様、反省して頂けたでしょうか…?」
女は不安そうな顔をして顔の見えない男に問うた。
「ハッ、悪いが反省もクソもないね。悪いことをしてないんだからな。」
男は馬鹿にしたように笑う。傍から見れば王女や勇者を侮辱する大罪人だ。
「…そうですか。反省して頂けるまで私は諦めませんから。」
女は残念そうに去っていった。
「反省…ね。」
その言葉の意味をかみしめるようにして、ボソリと言う。
(反省なんてするわけないだろ、するとしたら王国の人間バカどもだよ。)
「…それにしても祝福…か。まだまだ受け入れられないな。」
普段は寡黙な雰囲気を出している壮馬も、一人になると口数が多くなる。孤独な今の状況なら尚のこと口数は減らないだろう。
「俺の祝福…」
『貴方の祝福は《催眠》のようです。』
憎き王女に言われたことを回想する。
壮馬の祝福は催眠。字面だけでも強力なモノだと分かる。
「まぁ、使い方が分からないなら意味もないか…」
あと一日、あと一日遅く牢に入れられていれば、祝福の使い方を知ることができた。
不幸なことに壮馬はそのタイミングを逃した。が、彼は学を庇ったことに後悔はしていない。むしろ、彼を助けられなかったことに自責の念を感じていた。
「…寝れないな。」
彼が、学の行方が気になって仕方がないようだ。
もしかしたら野垂れ死んでいる可能性もある。彼自身はうまくやっていけていると信じているが、心のどこかでそんな気持ちもあった。
そのために、彼は二日ほど寝付けずにいた。
(このまま眠れずに死んだらバカすぎて笑えるな。それも乙でいいのかもな。)
「催眠…ね。」
記憶の中の言葉をそのまま唱える。
苺のような、甘い香りが壮馬の鼻をくすぐる。
(なんかリラックスしてきた…アロマセラピーっていうんだろうか、これ。違うか。)
「あ…れ?」
壮馬の体はダラリと力が抜けた。傍から見れば、孤独死したかのようだ。
さながら、彼は死んだかのように眠っていた。