露出狂と転移者
目の前の露出狂はスンスンと、酷く鼻筋の通った高い鼻を鳴らしながら俺の匂いを嗅ぐ。
「反応が薄いと思ったら、異郷出身だったようね。」
突然、目の前の露出狂女は聞き馴染んだ言語で話し出す。
「え?は?」
「あら?ニホンゴってものを使うわけじゃないの?ならエイゴとかフランスゴなのかしら。」
露出狂はピンクに近い、マゼンタ色の髪を揺らし、パッチリとした空色の目をこちらに向ける。
「え、誰?服は?」
「あぁ…混乱しているのね、記憶喪失ってやつかしら。」
ランプに照らされた雪のように白い肌を見せつけながら女はそう呟く。
「いや、誰?え?誰?」
誰誰BOTになってしまった俺を怪訝な目で見ながら女は口を開く。
「え?私のことを知らないのにここに来たの?とんでもないバカじゃない。」
貶されてイラっと来たが、俺はその程度で怒ったりはしない。
「バカでアホな貴方に特別に教えてあげるわ。」
「私はリーシャ、獄炎の魔女よ。分かったらとっとと去りなさい。ここは危険な魔物が多いわ。」
状況整理は相変わらずできないが、パンクした脳でどうにか会話を試みる。
「いや、どうやって出てけばいいのかわかんねえよ。」
「そう、そういえば記憶喪失だったわね、貴方。」
「いや俺は記憶喪失じゃねえ。」
「はいはい、分かったわよ。仕方がないから今夜は私の家に来なさい。一晩くらいなら泊めてあげてもいいわよ。」
おお、女神か。寝床にも困っていたし、この森から出られるならそれが本望だ。誠にありがたい。
「お邪魔させていただきます。」
「別に畏まらなくていいわ。どうせ大したおもてなしもできないしね。」
「いや、泊めてもらえるだけでありがたい。ホントにこの世界のこと何もわかんなかったから。」
「…気にしなくていいって言ってるじゃない。」
不機嫌そうな顔でそう言うリーシャ。どちらにせよ悪い人間ではないことは分かった。
今回はそのご厚意に甘えるとしよう。
「案内するわ。」
そうランプを手から放しながら言う。
ランプはその場に留まった。
「え?浮いてる…」
「あら、そこまで珍しいかしら。」
珍しいよ!灯りを浮かせるとかどこのホグワーツだよ。
ランプは自分の意志を持っているかのように動き出し、俺たちを先導する。
「そこ気をつけなさい。」
「うおっと、あぶねえ。」
「どんくさい男ね…」
隙あらば毒を吐くリーシャ。まあ制約と誓約って言うしな。
だとしたら制約は何なのだろうか、全裸になって毒を吐かなきゃ死ぬとかかな。
「貴方今どうでもいいこと考えたでしょ。」
「それにしてもなんで日本語が喋れるんだ?さっきまで変な言葉しか使ってなかっただろ?」
「そんなの私が魔女だからに決まってるじゃない。」
この世界の魔女の認識を知りたい。なんで全知全能みたいな扱いなんだよ。やっぱ制約と誓約か?念能力なのか。だとしたらなんだ?全知全能とか?いやそれは滅却師の王か。
「はぁ…私といるのに全く関係ないことを考えるなんて、いけずな男ね。」
いや、仕方ないだろ。全裸だし、ローブ着てて背中を向けてるとしても、さっきの正面がフラッシュバックしてならないんだよ。
「今度は無視するのね。私何かしたかしら。」
してないよ。強いて言うなら健全な青少年に不健全なモノを見せたよ。
「…置いて行ってもいいのよ。」
「申し訳ございません!美魔女様。」
脅されたら弱い、コレ人間の弱点ね。やっぱり魔女は何でも知ってるんだなあ()
「それでいいのよ♪」
上ずった声で言った。機嫌が取れたなら何よりだ。
「さあ、着いたわよ。」
そうして目の前に現れたのは大きな屋敷。といっても田舎にギリありそうなレベルだが…
「うわぁ…でけえ。」
「驚いたでしょ。これ私一人で作ったのよ。」
まじ?大工もなしに?それはすごいな。
「さ、上がりなさい。」
正面にある戸を開け、中へ手招きする。
「お邪魔します…」
「それ知ってるわ。ニホンって所の礼儀なんでしょ?面白いわよね。」
自分のところの文化を面白いって言われても…
「まあいいわ、客間へ案内するから来なさい。」
「おう。」
そうして案内された部屋は、死ぬほど殺風景だった。17か8畳くらいの広さだから余計に殺風景に感じる。
「…なんもないんだな。」
「っ悪いかしら!?ええ、そうよ!客が来ないのよ!そもそもこの森に来た大馬鹿者なんて貴方が初めてなのよ!客間を作るだけ作っておいて、客が来ないことに夜な夜な枕を濡らしていた私を哀れに思えばいいじゃない!えぇ!?」
「おっ、おう…」
あまりにも凄まじい勢いと剣幕でキレられた。地雷だったみたいだ。これはフォローしないとな。
「い、いやー!リーシャさんの初めての客人になれるなんて光栄だな~!!しかもこんな美人の!いやー!まじでうれしい!人生一生分の運使い果たしたかも!いや、来世分も使ったなコレ!」
「そ、そうかしら?うれしいこと言ってくれるじゃない。初めて…ね。」
後半はボソボソ呟いていたせいでよく聞き取れないが、大したことじゃないだろう。
まあ、機嫌を取り直してくれたなら万々歳だ。
「っていうか前隠してくんね?前。」
「前…?ああ、これのことかしら。」
そう言ってぱたぱたとローブを揺らす。
やめてほしい、マジで。大事なとことか胸とかその他もろもろが見えたり隠れたりで反応しそう。
「残念ながら無理よ、あきらめなさい。」
「なんでだよ!?」
「魔女の私にとってはこれが正装なの。むしろ一枚羽織っているだけありがたいと思ってほしいわ。」
正装なら仕方ないか…ってならねえからな?普通に目の毒なんだけど…
「なんで目を隠すのかしら…私の体を拝めるのよ?目に焼き付けるのがスジってものじゃないかしら。」
やっぱこの露出狂怖い…けど下の俺は反応しかけてるんだよな。
嗚呼、柔らかそうだなあ…