どこで間違ったかなあ、ホント
まあそういうことがあって三日ほど馬車に揺られてこの森に置き去りにされたわけだ。
けど、ここがどういう場所なのかは大体察しがついている。
「魔女の森に送りましょう。」
クラスメイトの一人がそんなことを王女に提案していたのを聞いたからだ。
魔女の森。聞いただけでもヤバそうだな。実際王女も「さすがに…」とか言ってたし。
「どーしよっかな…」
俺は天を見上げ、涙と共にヒリヒリする目元をこする。
「悩んでても仕方ないか。」
とりあえず俺は探索することにした。
しかし何をしてしまったのだろうか…
別に恨みを買うような行動は一切していなかったハズだ。
学校の行事やらクラスのイベントにも積極的に参加したし、告白にも誠実に対応した。当たり障りのない対応と広く浅いコミュニティーを形成して出来る限りボロを出さないようにもした。
「ホンット…どこで間違えたんだろ…」
燦燦、とまではいかない温いくらいの陽光が木々を照らす。
不意にぐうと腹の虫が鳴く。
そういえば初日の昼以降水しか飲んでなかったな。
そんなことを思い出しながら近くに食べれそうなものはないか探す。
「…これ食べれんのかな。」
一時間ほど森を探索し、もとの場所へともどる。
俺が目の前に置いたのはブドウのような見た目をした果実とほぼ梨の果実。
「ええい…!ままよ!」
思い切ってブドウ(仮)を一粒口に入れる。
舌の上で少し転がし、毒がありそうか確認する。
毒はなさそうか?
悩んでいても仕方がないので大人しく咀嚼する。
「ええ!?ほぼ味巨峰じゃん。」
想像より甘くてコクがあった。
現段階では特に体調に変化も見られない。まあ即効性がある毒の方が珍しいが…
「ほぼ梨いくか。」
俺は続いてほぼ梨な果物に齧り付く。
シャクシャクと咀嚼し、味を確かめる。
「…若干甘いかな。」
味はほとんど無い。果汁0.1パーセントみたいな感じだ。
これもほぼ巨峰と同様に毒はなさそうか?
一時間ほど経ったが特に異変はない。むしろ若干調子がいい。
俺の観察眼は間違っていなかったということだ。
不幸続きだっただけに少し嬉しい。
「いやー。食べた食べた。」
三日ぶりの食事ということもあり、ほぼ巨峰とほぼ梨を三つづつに抑えた。
「壮馬は大丈夫なんかな。」
ふと、そんなことを思う。
日も傾いてきて仄かに赤みを帯びてきた。
あいつは唯一俺を庇ってくれた。出来ることなら助けたい。
正直追放されたのは許せないが、それ以上に親友を傷つけられたことに憤慨を覚えている。
「よし。この先どうするか考えるか。」
心に余裕ができたこともあり、現状に目を向けることができるようになった。
まず、俺には祝福がある。王女には『縮小』って言われたっけな。
祝福の使い方は一切教わっていないが、トライアンドエラーの精神で試すとする。
いろいろ試してみた。
結果分かったことはまあまあある。
『縮小』書いて字の通りに縮めて小さくするもののようだ。
最初に試したことは岩を縮めること。
これは案外すんなりいった。
「縮小」
岩に触れながらそう口にしてやれば、あっという間に道端に落ちている石くらいのサイズになった。
ただ、それ以上に。具体的に言えば砂利くらいの大きさにはできないようだ。
そして、体積は変化しても、質量は変わらないことが分かった。
唯の石だと思って持ったら腰が抜けかけた。ホントに心臓が止まった、ヒュッて声出たからな。
その次、二つ目に試したのは木を縮めること。
結果から言うとこれは無理だった。
大木を選んだというのもあるのだろうが、凄まじい倦怠感がした。
例えるなら二日酔いの様な。酒飲んだことないけど。
そうしていたらあっという間に夜だよ。そう、夜。
火は?ない。馬鹿だねホント。なんで真っ先に火を起こさなかったんだろう。
そんな風に過去の自分を貶していると、少し遠くで灯りが見えた。
「!人いるのか?」
俺は嬉しさと不安が入り混じった感情で灯りを見る。
「あ?」
近づいてきているのだ。灯りが。
「─────────?」
どこの言語か、それは分からないが、俺に問いかけてきているのは分かった。
灯りは変わらず近づいてくる。
やがて、俺の顔を照らし、眩い光に瞬いた。
「──────────。」
「はっ!?」
俺の眼前に広がるのは二つの丘。いや、胸。脂肪の塊。その持ち主は、一糸まとわぬ姿で立っていた。
いや、正確にはローブを羽織っていたわけだが。