はい、詰み
初投稿です。
稚拙な分ですが、読んでいただければ幸いです。
「ほら、これが路銀だ、受け取ったらさっさと失せろ。」
馬車から放り投げられた袋を慌ててキャッチする。
「じゃあな。せいぜい死なないように気をつけろよ。」
馬車はさっさと行ってしまった。
森の中にポツンと一人取り残される。
「…どう…して…」
涙を流しながら震える声でそう呟く。
「どぉぉぉしてだよぉぉぉぉ!!!!」
森の中に悲痛な叫びが響き渡った。
♧♣♧
事の発端は二か月前。ちょうど高校二年の終わりが近づいてきた時だった。
「あなた方には勇者となって魔王を討伐していただきたいのです!」
声高らかにそう宣言した目の前の女は、所謂王女というものらしい。
「は?え?」
俺たちは困惑した。現状を理解できたものなんて誰もいなかった。何故なら俺達は修学旅行の飛行機で事故に巻き込まれたばかりだったからだ。
「あ…れ?あたし…死んでない…?」
「ガタガタガタ」
「ココドコだよ!?」
「…現状を理解できないのも仕方がないのかもしれません。貴方達は異世界に召喚されたのですから。」
女は俺たちを憐れむように見つめ、そう言った。
「しょう…かん?なんのことだよ。」
「あれ…?夢!?夢!?アハハハ!」
「異世界転移というシチュに巻き込まれるとは…」
「私が詳しく説明させていただきます。」
状況を飲み込めないでいると横に控えていた執事のような男が言葉を紡ぐ。
「─────────ということがありまして、此度は貴方達勇者様が召喚されたのです。」
どうやら飛行機が墜落したことにより、死にかけていた俺たちは偶々召喚の対象となり、勇者としてこの世界に転移してきたみたいだ。
「…にわかには信じがたい…です。」
真っ先に口を開いたのは生徒会長を務める山田さん。
「信じられないのも無理はないでしょうが、今あなたたちの置かれている環境がその答えとなります…」
絶望、悲しみが空気を満たす。
「勇者様。なんにせよ、本日は此方で休まれてください。お疲れでしょう。」
その日は各自用意された部屋で過ごした。
翌日、広間に召集された俺たちは一日置いたこともあり、だんだんと非現実的な状況を理解してきていた。
「やっぱり転移した。って認めるしかないみたいだな。」
俺にそう話しかけてきたのは親友である相葉壮馬だ。
「…正直信じられねえけどさ。っぱ信じざるを得ないよな。」
俺は今、王女の掌から出現した炎を見ながらそう答えた。
「どうなるんだろうな、俺たち。」
ふと、そんな疑問
「少なくとも…悪いようには扱われないんじゃないか?」
自信なさげにそう答えた壮馬は少し珍しかった。
運動も勉強も人一倍できる人間でも、やはりこんな突然のことに対応はできないだろう。
「みんな。俺らニの三全員で協力して乗り越えるぞ!」
その日の夜、クラス全員で集まり、そんな決意をした。
転移して五日目のこと。
俺たちは再度広間に召集された。
「本日は勇者様方の祝福を確認させていただきます。」
水晶に手を当て、ギフトとやらを確認するそうだ。
順に呼び出され、ついに俺の番がやってきた。
「…ササモト様の祝福は『縮小』のようです。」
『縮小』そのままの意味か否かは分からないが、目の前の女のにこやかな笑みを見るに悪いものではなさそうだ。
当時の俺はそんなのんきなことを考えていた。
もっとも、その考えは甘かったわけだが…
「ハァ…ハァ…」
俺たち二年三組は森林の中を走らされていた。
俺は段々と広がっていく前列との距離を詰めようと奮闘していた。
「…おい、学。大丈夫か?」
敢えてペースを落とし、俺の横に並んだのは壮馬だ。
「ゼェ…だい…じょ…ぶ…だっ。」
「大丈夫じゃねえだろ…おんぶするぞ。」
そう言って壮馬は俺をおぶり、最前列に躍り出た。
クラスメイトの視線が痛かった。
そうして運動運動偶に休みの日々が続いた。
異世界に来てから二か月たったころ、俺はあることを王女から告げられる。
「マナブ・ササモト様。貴方を領地から永久追放とします。」
「…え?」
ツイホウ…ついほう…追放!?
「な、なにかしましたか…俺?」
「…まさか自覚がないのですか?」
俺を心底軽蔑するような目で見てくる王女。
「え、本当に心当たりがなくて…」
「ハァ…呆れました。勇者様方から聞いています、あなた最近訓練をボイコットしているそうですね。」
「え!?してないですよ!?」
「今更言い訳を聞く気にはなれません。大勢の方々からあなたの日頃の生活態度は聞いております。」
「道理でステータスに伸びが見られないわけです。勇者としての責務を果たすことすらせず、ましてや他の勇者様の迷惑になるようなことをするなど…!言語道断です!」
俺は助けを求めるようにクラスメイトの方を向く。
が、俺の目に映ったのはクスクスと笑う者や、見ないふりをするもののみ。
「…ちょっと待ってくれ。」
その声と共に手を挙げたのは壮馬だった。
「俺はいつも学と一緒に行動していたが、生活態度で悪い所、ましてや訓練のボイコットなんて一回もしてなかったぞ?」
壮馬はそう助け舟を出してくれる。
「え?ど、どういうことですか!?説明を求めます!」
突然新たな情報が出たことに困惑したのか、王女はその他のクラスメイトに激しく詰め寄る。
「王女様。俺たち三十四人の意見とあっち二人の意見。どっちが信用できると思う?」
王女に意見したのは、金髪で長身の男。新島爽汰だ。転移前は問題児として扱われていたが、ギフトが強いというのもあり、優遇されるようになった一人だ。
「むむ…そうですね。」
「いつも一緒にいるなら二人で共謀することもできるでしょうね。」
生徒会長の山田さんも新島を援護するようにそう言う。
「相葉君はきっと騙されているだけなんだよ、それもこれも全部笹本が悪いんだよ!」
説得力のせの字もない言葉に、王女は心を動かされてしまっているようだ。
「おい、それはないだろ。大体なんでお前らは学を陥れようとしてんだよ!」
俺を庇うため、珍しくムキになる壮馬。
「お前らが見てないだけだろ、こいつは必ず訓練に参加してたし、問題も一切起こしてないハズだ。」
「二人であらかじめ計画してたならそんなこといくらでも言えるだろ。」
「大体見えない場所でやってること自体可笑しいんじゃないの?」
「お前ら…!本当にどういうことだよ…学を陥れるのがそんな大事なことなのか?」
「だ・か・ら!俺らはやる気のない上に邪魔さえしてくる笹本君に嫌気がさしてんだって言ってんだろ。」
「あ?お前ッ!」
壮馬が新島の胸ぐらをつかみ、にらみつける。今にも一触即発という雰囲気でだんまりだった王女は口を開く。
「…衛兵。アイバ様を牢に入れなさい。」
「ッざけんじゃねえぞ!お前ら!クラスメイトを追放して何が楽しいってんだよ!?」
壮馬は抵抗も虚しく衛兵に取り押さえられ、連れていかれた。
「…は?」
脳が悲鳴を上げる。これ以上考えたくないと。
「改めて…ササモト様。貴方を追放します。」
つらそうな顔でそう俺に告げた王女が酷く醜く見えた。
「ひっ…」
つい睨みつけていたようで、王女の口から小さく悲鳴が漏れる。
新島やクラスの人間は王女の元へ駆け寄り、俺から庇うようにして立つ。
「衛兵、連れて行きなさい。」
「…ホント、クソどもが」
つい数か月前までクラス全体で仲良くしていたとは思えない。
修学旅行の班でも新しく友人も増えた。
が、今はどうだろう。唯一庇ってくれた壮馬は牢に入れられた。
俺はクラスメイトへの恨みをただ睨みつけることでしか発散できなかった。