第41話 それぞれの進化
「さてと……」
いきなり暇になってしまったな。
夕餉まではまだ時間があるが……進化固体の試験運用をやっとこうか?
アリッサパーティに当てるのが一石二鳥でよかったのだが……、
まあ別の魔物パーティに当てても問題はあるまい。
「あ、アシェル……ちょっといいですか?」
「うん?」
ハティだ。なんだ、まだいたのか。
「今日はもう解散だそうだ」
「折り入ってお願いがあるのです」
「――なんだ?」
「魔力が貯まったので進化したいのです」
「進化?」
思わずハティの爪先から頭の天辺をまじまじと見てしまった。
人種族に分類される種族で進化するのは「獣人」くらいだ。
しかし、ハティはどっからどう見ても人だ。
獣人のように尻尾があるわけでも、獣耳があるわけでもない。
「てっきり人かと思っていたが……なんかの獣人なのか?」
「いえ、獣人ではないです」
「――ん?」
「デミジャイアントです」
「デミ、……ジャイアント?」
また頭の天辺から爪先までをまじまじと見てしまった。
「どこが?」
無学な俺だってデミジャイアントくらいは知っている。
とある昔、巨人の一派が人間サイズの体を求めて「祝福の塔」に挑み、見事、大願を成就させたことで生み出された、人間サイズの巨人の一族のことだ。
人間サイズとはいえ「ジャイアント」の名に恥じることはなく、5メートル6メートルの巨体は当たり前で、どんな小さくてもやつらは2メートルを下ることはない……らしいが、
「身長いくつ?」
「141センチです」
「デミが過ぎる!」
「よく言われます。話を戻しても?」
「ああ、すまん。進化だっけ? ……つーか、デミジャイアントって進化するのか?」
「もちろんです。進化しないのは人間くらいですよ」
「……軽くディスられたような気がするが、まあいい。それで、俺に何をしろと?」
「獣神教会に連れて行って欲しいのです」
「獣神教会?」
聞いたことのない名前だ。
ピトさん……いや、アリスティア様を祭る創世教会なら知ってるが。
「亜人を守護する12柱の獣神様を祭った教会です。進化は勝手にできますけど、その前に自分の守護獣神様にひと言ご報告すると、何かと縁起が良い、といいますか……」
「なるほど……」
早い話が、験担ぎ、か。
俺の村でも、毎年の豊作を願って、お祭りするしな。
験担ぎは大切だ、うん。冒険者なら、なおさらに。
「しかし、俺は獣神教会はどこにあるのか知らんぞ?」
「よほど亜人差別の酷い地域でもなければ各街にあるはずです」
「……知ってるなら勝手に行けばいいのでは?」
「つれないですね、奥さんには優しくすべきですよ?」
「ああ、すまん、失言だった」
「冗談です」
にししっ、とハティは勝ち誇ったように笑う。
……不覚にも「可愛い」と思えてしまったのは内緒だ。
「実は、進化すると新しいジョブが開放されるので、一応、アシェルは旦那様ですし、わたしも軍勢内でお役に立ちたいので、意見の1つでも聞きたいと思いまして、はい」
「なるほど、なかなか興味深いな」
デミジャイアントの新しい進化もだが、新しく開放されるジョブというやつも興味深い。
いいだろう。暇つぶしの余興としてはなかなか楽しめそうだ。
「では、さっそく行きましょう」
「うむ、そうしよう」
「――あっ!」
「どうした?」
「これはもしかして『で~と』というやつでは?」
「一緒にレンブランの街に行って教会を探すことがか?」
いささか色気に欠けると思うが……まあ男女が一緒に街をぶらぶらするのは、確かに「デート」って奴かもな。端から見て、俺とハティが恋人に見えれば、だが。
「て、手でも繋ぎましょうか?」
耳まで真っ赤にさせて、こいつは何を言うか。こっちまで照れてくるわ!
「主よ、」
おや、珍しい。ハーデンティがやってきた。
「風に聞こえたが、獣神教会に行くのか?」
「そうだぞ」
「ならば、こやつも連れて行ってもらえぬか?」
と、俺の前に押し出したのは、……ツキミだ。
「すでに進化するには十分な魔力を溜めている。主の役に立つように進化させるといい」
「ほぉ、お前もか、お前はどんな進化が――」
「反対です」と、ハティ。
「そんな犬っころ、放っておけば良いのです!」
「あにおぅ! ごつごつの鋼鉄女め!」
「なんですって!」
途端に取っ組み合いの喧嘩になる2人。
「辞めろ辞めろ、面倒くさい!」
強引に引き離す。
「なんでお前らそんなに仲が悪いんだよ?」
「犬っころが!」「ガチガチ女が!」
掴み掛かり、また取っ組み合いに。
ふむ、どっちが強いか、やらせてみるのも一興か?
「主の御前であるぞ」
ハーゲンティが壁のような掌で二人を押しのける。
「いいよいいよ、やらせて見ろよ」
「主よ、それは無為、だ」
「なぜ?」
「二人はしょっちゅうやり合っているが……盾と矛、勝負がついたためしがない」
「そうなのか?」
「犬娘の攻撃は盾娘に通じず、盾娘の攻撃は犬娘に当たらず」
「ふむ」
「不毛極まりない」
呆れたようなハーゲンティのひと言に、俺は納得するしかなかった。




