第37話 レベリング 3日目 前編
「残念ながらアリアンは今後のレベリングに参加できなくなった」
人食堂を集合場所に、集まった面々を前にアリッサは開口一番でそう言った。
「それはまた急ですね」と、ハティ。
「昨日の検査で呪いが進行していることがわかったんだ」
「それはまたなんで?」
率直に聞いてみた。
「魔法使いは、無意識に足りない魔力を寿命で補うところがあるから、そのせいかも、って『呪術研究所』の先生が言っていた」
「魔法使いってそうなのか?」
今度は朝食のため同席していたロザリンドに聞いてみた。
「実際にやる子は少ないけど、できなくなはないわ。魔力不足の時の最終手段だけど。でも、魔力に変換した寿命は、後で魔力を再変換して取り戻せるはずよ?」
「先生も同じことを言っていた。でも、アリアンの魔法はほとんど独学だから……」
と、悔しそうにアリッサ。
「独学? 『教室』には通ってなかったのかしら?」
「家の蔵にあった青魔法の魔導書から独学で学んだんだ」
「あら、それは凄いのわね……ひょっとしたら天才の類かしら?」
「やめてくれ、今となっては何の慰めにもならない」
「それで? これからアリアンはどうなるんだ?」
俺の問いに、アリッサは軽くため息をついた。
「『呪術研究所』の先生が言うには、このままだと、あと1年もたたずに寿命が尽きるそうだ。だから、今後は寿命の消耗を防ぐために『じんこうしきゅう』? で眠らせておいて、一週間に1日だけは運動と食事のために起きるって感じになるそうだ」
「う~む、不憫だな、それは……」
しかしサタナキアを倒す前に寿命が尽きてしまっては本末転倒だ。
やむを得ないのかもしれない。今は。
「やれやれ、戦力を増強したばかりだというのに、……こいつは困ったね」
「ふむ、そいつは困ったな」
いないよりはマシな戦力ではあるが、やっぱりいないと困る、というわけだ。
……どうしよ?
ツキミを無理矢理入れるか? 面倒っ……いや、昨日の今日で無理だろ。
「適当にゴブリンやオークでも入れておくか? 肉壁にはなるぞ?」
「適当というなら、あの、兎っこはやれないのかい?」
「兎っこ?」
誰? と思ったが、十中八九、リッシュのことだろう。
「ゴブリンやオークより、あの兎っこの方が信用できるからさ」
……う~む、あいつに戦闘ができるんだろうか?
「ロザリンドとルー・ルーという選択肢もあるが?」
「え? わたし? わたしは無理よ?」
にべもなくロザリンドに断られてしまった。
「チェルシーに魔法の研究を手伝ってくれるように頼まれているの。それに……わたしがいたんじゃ、あなたたちのためにならないじゃない?」
どういう意味? ……ああ、そうか。巨人をものともせず、数百の魔物を数分で屠るロザリンドがいては、アリッサたちが冒険者として成長しなくなるわな。
「むぅ、それは残念だ。ロザリンドの姐さんがいたら百人力なのに……」
あっさり食い下がるアリッサ。
「ついでに言うならルー・ルーも辞めといた方が良いわね」
「白魔法使いがいてくれた方が助かるが?」
「冒険者として成長したいのならやめておきなさい。冒険者は冒険をすることで成長するの。あの子がいたらせっかくの冒険がピクニックになるわ」
「……?」
意味がわからん、とアリッサが首をひねる。
俺は、なんとなく察することができた。
ロザリンドにそこまで言わせるほどに、ルー・ルーは「とんでもない」ということだ。
「姐さんがそういうならわかったよ」
「となると消去法でリッシュか。ダメ元で打診してみるから、午前中は適当に時間を潰して、レベリングは午後からにしてくれ」
朝飯を終えてから、リッシュの工房があるマキア倉庫に向かった。
倉庫の扉を前にして「一応、ノックすべきかな?」と考えた、そのとき。
「……っす。え? いや、うちは、そんな――」
リッシュの声が、扉の向こうから聞こえてきた。
……なんだ? 盛大な独り言か?
『……』
「違うっすか? ふむふむ、ここは、あ~! なるほどなるほど――」
『……』
「目から鱗っす。この機巧は。え? 誰かが――」
む? 忽然とリッシュの独り言が途絶えた。
耳を潜めてみるが……声どころから作業音も聞こえない。
「誰かいるんだろうか?」
とりあえずノック三回。ごんごんごんっ。
「は~い、っす」
「リッシュ、俺だ、入るぞ」
許可を貰う前に開けようとするが扉は開かない。
内側から鍵が掛かっているみたいだ。
「今開けるっす」
がちゃん、と音がして、ぎぎぎぎ~、と鉄扉が開く。
合間からリッシュがちょこんと顔を出す。
「どうしたっすか?」
「アリッサパーティに欠員が出たから参加してくれないかと、……誰かいるのか?」
首を伸ばして見る。合間から見えるのは相も変わらずのガラクタの山。
「え? う、うち一人っすよ?」
「そうか?」
確かに、気配はしない。
だが、リッシュが誰かと話しているのを聞いたのも確かなことだ。
「もしかして……本当に、ただの独り言?」
こんなガラクタの山に一人だからな。
寂しくなって独り言が増えるのもやむを得ないことなのかもしれん。
「そ、それよりもパーティの加入の件っすけど」
「あ? ああ……」
「喜んで参加させて貰うっす。ちょうど発明に行き詰まって、新たな着想を得るためにもそろそろ進化か、ジョブアップが必要かと思っていたっす」
「そうか。いつからいける?」
「いつでもいいっす」
「じゃあ、午後になったらヴィオラ湖の湖畔に来てくれ」
「了解っす」
んじゃ、といって分かれる。
ふと後ろを振り返るとリッシュがじ~っと俺の背中を見送っていた。
「なんだ? なにかあるのか?」
「え? いや、なんでもないっすよ? よ?」
……変な奴。
しばらく歩いてから振り返ると、リッシュはまだ俺の背中を見送っていた。
「――?」
油断ならない盗人を見るかのような目だ。
なんでか酷く警戒されているっぽい。
発明品を盗まれるとでも思っているのだろうか?
リッシュの発明品はすべからく俺のものになるから盗む必要なんてないのに。
……それとも別件で何かを隠している?
面白い! 暴いて……いや、賢いリッシュのことだ。
隠す理由があるから隠しているに違いない。
いつかは話してくれるだろうから、ここは気づかないふりでもしておくか。
何を隠しているのか、実に楽しみだ。
俺は楽しみは後にとっておくたちなのだ




