第36話 新たなメンバー
「お疲れ~」
様子を見に湖畔に向かった。
ミミルが頭と手に包帯を巻いて横たわり、今はアリッサがルー・ルーの治療を受けている。
他の面々は疲労困憊の様子で地面に腰掛け、ぐったりしている。
元気なのは、ツキミとハティだけだが……、息を吸って吐くかのように互いに罵詈雑言を吐き散らし合っている。聞くに堪えないので聞こえないふりをしておく。
「どうだった?」
「死ぬところだった」
……だろうな、と思った。実に率直、かつ実感のこもった感想だ。
「強くなったつもりだったが……オークに敵わないとはね、はははっ」
引きつったように笑う。
アレは特別せいなんだよ、と教えたかった。しかし、これは良い経験だ。
これを機に慎重さを身につけるだろうから黙っておこう。
「オーガスーツは着てるんだけどねぇ」
アリッサは包帯でぐるぐる巻きになった手を空にかざして見た。
ちなみにアリッサの治療を終えたルー・ルーは他の奴らを見て回っている。
「どうにも上手く使えないよ」
「そうなのか?」
「咄嗟の時に、これに頼ろうという頭がない。今まで使ってきた装備品とはまったく毛色が違うから、馴染んでないだけかもしれないが……咄嗟の時に思いつかないんだ」
「まあ頑張りたまえ」
「……偉そうに」
「偉いんだよ、俺は」
「いつか吠え面かかせてやるんだから!」
「いい意気だ」
「その、偉いアシェルに頼みがあるんだが、いいかい?」
悔しそうだったアリッサの顔に、勝ち気な笑みが浮かぶ。
ほぉ~、男に媚びるだけの尻軽かと思いきや、これはなかなか悪くない。
ロザリンドは庭園で育った薔薇なら、アリッサは野原で育った百合って感じだ。
「また夜這いされても困るからな、いいぞ」
夜這い、というひと言に、ルー・ルーの首が一八〇度回転して俺を見たようだが。
……むっ、無視無視!
「ミミルが加入して間もないが、またパーティメンバーを増やして貰いたい」
「ふむ……」
確かに、その必要性はある、かも。
アリッサパーティで実際に役に立っているのは、アリッサ、ミミル、シャロン3人くらい。
他の2人は、アリアンはテンパると応援要員に回るし、タバサにいたっては基本的に笑っているだけ。実質、3人パーティでよくいままでアヘられなかったものだ。
「必要なロールは?」
アリッサは必要に応じてロールを変えられるオールラウンダーとして、ミミルとシャロンはアタッカーだろ? 必要なのは……お荷物2人を守るためにタンカーか? もしくは「攻撃こそ最大の防御」を地で行って、アタッカーの三枚看板も悪くない。
「アタッカーか、タンカーが欲しい」
「そうか……」
気前よく両方加えても良いが、それだとアリッサたちのレベリングが滞る。
「んじゃ、ここであったのも何かの縁だし、ハティとツキミを――」
「お断りします!」「嫌なのだ!」
「――あん?」
異口同音に断られた。
俺の決定に異を唱えるとは良い度胸だ。
「なぜ?」
「鈍間な盾っ子なんかと組んだら、森の奥に行くまでに日が暮れてしまうのだ! 出てくる頃にはすっかりお婆ちゃんなのだ!」
ツキミの言い分に、そうはならんやろ~、と心の中で突っ込む。
「猪なのか狼なのかもわからない獣っことは一緒には組めません! ええ、組めませんとも! 獣ですから、魔物と人の区別もつかずに噛みつかれたら堪りませんもの!」
ハティの言い分に、そこまでアレじゃないやろ~、と心の中で(以下同文)。
「なにおぅ!」「なんですか!」
そして始まる取っ組み合いの口喧嘩。
……何でこいつらこんなに仲が悪いんだ?
まあいい。後で事情を聞いておくとして。
「どっちがいい?」
「――はぃ?」
気を抜いていたのか、アリッサに妙に艶のある声で問い返された。
「だから、今は一方しか選べないっぽいから、どっちかを選んでくれ」
「そうさね」
アリッサはツキミとハティを交互に見た。
見られた2人は取っ組み合いの口喧嘩を止め、何やら緊張した面持ち。2人揃って取っ組み合いの格好のまま、アリッサをまじまじと見つめている。
「うちは後衛が多いから防御に一家言あるハティの姐さんに頼みたいかな」
「そうでしょうとも!」
途端に、胸を張るハティ。
一方で、ツキミは大きめの眼をうるうるとさせた。
「こんな鈍間な盾っ子を選ぶなんてぇ!」
ツキミの絶叫のようなひと言に、アリッサはびくんっと肩を震わせた。
まさかここまでの反発が来るとは予想だにしていなかったのだろう。
そういう俺もしていなかったので、不覚にもちょっと驚いてしまった。
「い、いや、もちろん、あんたの攻撃力だって欲しいんだよ? でも、あんたは――」
「ばーか! ばーか! 森の中でゴブリンのうんちでも踏んじゃえー! バーカ!」
ツキミは言うだけ言うと、きゃんきゃん鳴きながら四本足で森に走り去った、
「ど、どうしよ?」
ツキミの暴言に、怒るどころか狼狽えるアリッサ。
……基本、面倒見が良い奴なのかも。
「ほっとけよ、面倒臭い」
まあこれで五人パーティの完成だ。ようやくバランスの良いロールが揃ったな。
「アリアンいる~?」
この時間に珍しいな、チェルシーが飛んできた。
チェルシーの呼びかけに「はいっ!」と元気よく手を上げるアリアン。
「呪いを調べたいから、ちょっとヴリトラ島まで来て貰える~?」
「え? これからですか? これから今日の打ち上げなんですけど……」
「重要なことだから、すぐに来て欲しいの」
「う~……」
アリアンは可愛らしく唸ると、助けを求めるようにアリッサを見た。
アリッサは妹の視線に肩を竦めて応えた。
「行っておいで」




