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第35話 レベリング 2日目 後編

 

「う~ん……使えん!」


 弱くはない、弱くはないのだ。

 重装備スキルによって重鎧と大型武器を装備できるようになった都合上、確かに攻守にわたって飛躍的な進歩をしたと言える。

 しかし、しかしだ。

 果たしてゴブリンに重たい鎧と大きな武器は必要なのだろうか?

 ――いや、必要ない。

 重たい鎧は、ゴブリンにとってただの足枷だ。

 見ろ! 重たい鎧のせいで、かわせる攻撃もかわせず、当てられる攻撃も当てられない、この無様な有様を。あれもこれも、ゴブリン本来の素早さが損なわれたせいだ。


「ソルジャーの方がまだ役に立つな……」


 生存率が飛躍的に上がったのは特筆すべき進歩だが……。

 リストの「備考」の項目に「要検証」とメモっておく。

 迂闊に「没」なんて書こうものなら容赦なく処分しやがるからな、あの妖精どもは。


「オーク・ガードとの棲み分けができると良いんだが……」


 オーク・ガードの実用試験次第では先行進化分で打ち止めになる可能性があるが、俺としてはゴブリン・アーマーの次の進化に期待したいので、何とか利点を見つけたいところだ。


「しかし、困ったな……」


 イービルアイが映し出す映像には、喜びはしゃぐアリッサたちの姿。

 ゴブリン・アーマーに連戦連勝したのがよほど嬉しいと見える。

 昨日までは連戦連敗だったからな、なおさらなのだろう。

 しかし勝って兜の緒を締めるのならまだしも調子づかれては困るのだ。

 ここは伸びに伸びた鼻先をへし折ってやらねば。

 次はオーク・ガードの予定だったが、同じようなのが二連続はつまらない。

 ここはオーク・ブッチャーを使ってみよう。

 量産しないつもりだったから、最後の方に回していたのだが、良い機会だ。


「次はオーク・ブッチャーを使ってみよう」


『御意』


 イービルアイに話しかけると声が返ってきた。

 ハーゲンティの声だ。

 俺はここから指示を出すだけだが、森の中ではハーゲンティを中心としたネームドが実用試験用の魔物を、アリッサたちに見つからないようにひっそりと管理しているのだ。


『いかほど?』


「3体だ」


 一番最初にゴブリン・アーマーを出したときは1体で瞬殺されたからな。

 今回は念には念を入れて3体で行ってみよう。


『……』


 ――ん? 聞こえなかったか?


「3体小隊で頼む」


『御意』


 ……なんだ?

 一瞬、ハーゲンティの反応が悪かったようだが。

 何か言いたいことでもあったか? 

 俺を絶対の存在と見なしてくれるのありがたいが、そのせいで具申もしないからな、あいつは。何でも言うことを聞くのは結構だが、気がついたことくらい言って欲しいものだ。


「……まあいい」


 勝利の余韻に浮かれ、足取り軽く森を進むアリッサたち。

 と、そのとき。

 木々をなぎ払い、アリッサたちの目の前に、――あっ、やばい!

 一目で失策を悟った。

 アリッサたちの目の前に躍り出たのは三体のオーク。

 ただし、ただのオークではない。

 3メートルを超える巨体、脂肪をため込みにため込んだ超肥満体の体、赤黒い肌。

 肥満体と豚顔はまさにオークのそれではあるが、……まったくの別物だ!


『今日はとんかつ、……です!』


 あああっ、バカっ! ミミルが無警戒に飛びかかりやがった!

 なんたる間抜け! 大方「オーク」で「超肥満体」つまり「雑魚」と見誤ったのだ。


 直後、ミミルの斬撃は、ブッチャーの腹に、ぼよぉん、と弾かれた。

 なぜ、斬撃なのに打撃無効の肥満ボディに弾かれたのか?


 簡単だ。


 剣というものは、突き詰めれば、ただの鉄の棒だからだ。


 剣で「斬る」ためにはそれなりの技量が必要で、ただ打ち下ろせば、ただの鉄の棒と変わらず、与えられる物理属性は「打撃」となる。必然、弾かれる、というわけだ。


『――なぁ!』


 ミミルの体勢が空中で大きく崩れる。


『ぶひんっ!』


 気合一発、すかさずブッチャーの棍棒がミミルを襲う。

 哀れ、ミミルはミンチに……ならない! 

 身の丈ほどの鉈でしっかり防御。しかし、勢いまでは防げない。

 ミミルは吹っ飛び、藪の中に消えた。


「やばいっ! やばいっ! やばいっ!」


 ミミルを追って1体が戦線を離脱。残った二体がアリッサたちに向かう。

 シャロンが弓で応戦。上手い! 関節を狙う。しかし弾かれる。

 矢の物理属性は『刺突』で、ブッチャーに無効化はできないので、単純な威力不足だ。

 メイン火力のミミルを失ったが、なにまだ大丈夫、まだ魔法使いが――

 あっ、ダメだ。

 頼みのアリアンはミミルの惨事にあわあわ言っている。

 攻撃しろ! せめて魔法で足を止めろ! あわわわわっ、俺まであわあわ言わせられる!


『撤退! 撤退!』


 アリッサが撤退を指示。

 自分は殿を務め、ぶぅん、と羽音のような音を鳴らして盾を展開。

 リッシュ謹製の素敵武具だが……。


『ぐぅっ!』


 ブッチャーの棍棒を掠めただけでアリッサの盾が吹っ飛ぶ。

 腕を怪我したのか、渋面で腕を押さえるアリッサ。


「ハーゲンティ!」


『御意!』


 間に合うか!? 間に合わないか?!

 ブッチャーが振りかぶる

 巨大な影がアリッサの影を塗り潰す。

 棒立ちのアリッサ。


「逃げろ、バカ!」


 振り下ろされ……見るも無惨なアリッサの死体が、……ない!


 きぃん! と金属音を打ち鳴らし、ブッチャーの巨漢が蹈鞴を踏む。


「ハティ・トンプソン! 参上、――です!」


 アリッサの目の前には、いつしか大盾を構えたハティがいた。

 なんでハティ? と思ったが、とにもかくにも大手柄だ! 偉い、ハティ!


『――ぶひっ!』


 そのとき、豚声をならして木立の奥からブッチャーが吹っ飛んできた。

 丸っこい体が災いしてか、ゴロゴロと地面をならすように転がる。

 ――何事だ? ハーゲンティか?


「不味そうな、オークめ!」


 おっ? ツキミだ。ミミルを肩に担いでツキミが木立の奥からやってきた。 

 ツキミはハティの目の前にいるブッチャーを見て意地悪いに笑った。


「鈍間な盾っ子はまだ倒してないのか? 鈍間すぎてあくびが出るぞ?」


「ふんだ! 猪の獣人は猪突猛進でいいですね? あっ、狼の獣人でしたっけ?」


 ……なんでいきなり喧嘩腰?

 二人の間に何があったのかは知らないがいがみ合っている。

 そこにブッチャーが踊りかか……ろうとして吹っ飛ばされた。

 ……よく吹っ飛ばされる奴らだ。

 駆けつけたハーゲンティがゴムボールのようにブッチャーを蹴飛ばしたのだ。

 ぶっ飛ばされたブッチャーはすぐさま起き上がり、ハーゲンティに躍りかかった。

 で、敵うわけもなく吹っ飛ばされる。

 肉体的には優れているが、格上を見抜けないとは……頭に難アリだな。


「ふぅ……」


 いつの間にか息を止めていたようだ。

 一難去ってなんとやら……。

 とりあえずその日はお開きとなった。



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