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第34話 レベリング 2日目 前編

 今日も今日とてアリッサたちは森に向かった。

 昨日捕まえてきた残りを午前中のうちに殲滅し、うちのゴブリンと再戦する。

 ただし、今回の5匹編成だ。もちろん、俺がそうさせた。

 少人数でアリッサたちを撤退させれば特別報酬、と布令を出しておいたのだ。

 結果は大成功……かな?

 流石に5体編成には敵わないが、2体3体の欲張り小隊にはギリギリではあるが勝てるようになった。おかげでアリッサたちのレベルもぐんぐん上がっていく。

 しかし、うちのゴブリンは順位戦で脳みそもよく鍛えられているので、2体3体では敵わないとみると、即座に4体5体の小隊に戻してきた。

 あっという間にアリッサたちは連戦連敗。特別報酬の額に、俺の背筋が凍り付く。


「ミミル」


「は~い! ご注文ですか?」


「俺の懐がやばい! アリッサに合流しろ!」


「よくわかりませんが、わかりました~!」


 厨房に駆け込む。どたんどたんっ、と何やら騒音が。

 ややあってからミミルが出てくると、その姿は、いつもの――。

 いや、違う。

 給仕服姿は変わりないが、戦闘用に鉄板と針金で防御力を増し増しにした、可愛さと勇ましさを併せ持つ、給仕服型の「バトルドレス」という奴だ。

 背中には、身の丈ほどの鉈を二丁、十字にして背負い、腰のベルトにはナイフ……というよりは包丁に近い形状をした小型の刃物がずらりと並んでいる。


「ミミル、行ってきます!」


 行てら~、と俺が言う間に、ミミルは走り去った。


「だっ、大丈夫でしょうか? ミミルは」


 代わってカランチョがやってきた。人の良さそうな顔が今は不安に曇っている。


「大丈夫だ。それよりも揚げポテトとシャワシュワのおかわりを頼む」




 昼飯休憩を挟み、ミミルと合流したアリッサたちは4体編成のゴブリン小隊くらいなら危なげなく勝つことができるようになった。


 ミミルの戦闘技術は稚拙ではあるが、身体能力だけならアリッサたちよりも頭一つ分以上抜きん出ているから、ゴブリン程度なら圧倒することができたからだ。


 まさかレベリング2日目でミミルを投入する羽目になるとは、……まあいい。


 魔力は、殺した奴が総取りする仕組みのため、ミミルを加入させたことで、アリッサたちのレベリングが滞ることを心配したが、まったくの杞憂だったしな。


 新しく追加したルール「降参」が上手く機能しているおかげだ。


 ミミルがゴブリンを「降参」させることで、習得した魔力の20%をミミル以外の4人でも分け合うことができるようになったのだ。


 これで後方のタバサとアリッサも無理なくレベリングすることができる。


「さて、次はどうしようか?」


 このまま小規模なゴブリン小隊を退治して、将来的には12体編成のゴブリン小隊に勝てるくらいまで強くなるのが望ましいが、ず~っとゴブリン退治というのは効率が悪い。


「ここはやはりオークの少数小隊を当てるべきか?」


 オークは中型に分類されるため、小隊の構成数は最大でも5体編成となる。

 数の不利はないが……あいつらに倒せるだろうか?

 ゴブリンほどの知能はないが、オークは単純に強いからな。


 打撃を無効化する肥満ボディに、自身の脂肪の重さで鍛え抜かれた筋力、脂肪を糧とする無限のスタミナとタフネス。犬並みに優れた嗅覚を持つ豚っ鼻に、生真面目な性格。


 ゴブリンと並ぶ雑魚と定義されているが、まったくいい加減な評価だ。

 ゴブリンよりもよっぽど役に立つ、っての。……喰っても美味いしな。


「なになに? なに~?」


 おっ、ちょうどいいところにチェルシーが飛んできた。


「のぞき見? のぞき見~?」


 俺を見ていたものをのぞき見て黄色い声を上げる。


「人聞きの悪いことを言うな。アリッサたちのレベリングを手伝っているんだ」


「上手くいってる?」


「いってない」


 ゴブリン7体小隊に遁走するアリッサたち。

 アリッサ達も慣れたもので、五体以上のゴブリン小隊と出くわすと、一も二もなく撤退を選ぶようになった。そのため、ここ小1時間ほど追いかけっこを見せられている。


「ゴブリンの少数小隊でレベリングしていたんだが、ちょっと効率が悪くてな。オークの少数小隊を当てようかと考えていたところだ」


 口に出してみて気づいたが、それだとゴブリンがオークに置き換わるだけで、アリッサたちが手に負えない数のオーク小隊に出くわしたら、また追いかけっこを見せられることになるだけではないか。戦うよりも逃げる時間が多くなるのはあまりに非効率だ。


 なら、いっそゴブリンの少数小隊を当てまくるのが一番効率が良いような気がする。

 ……一番、地味で、面白くない方法ではあるが。


「それともハティか、ルー・ルーでも合流させるかな……」


 悪くない。戦力を増強させて、強い奴に当てれば、より多くの魔力が獲得できる。

 増えた人数分、魔力が割れるのは、まあこの際、しゃーなしだ。


「ねぇねぇ、今、暇? 暇~?」


「見てのとおり暇ではない」


「新しく進化した子の実用試験をしてもらいたいの~、の~」


 だから、暇ではないと言っているのに、――んっ?


「実用試験?」


「これ、新しい進化表~」


 チェルシーから投下された紙っぺらを受け取る。


「オーク・ブッチャー?」


 紙っぺらの一番上の欄にその名前があった。


「オークは食事によっても進化先が決まるみたい」


「こいつは何を喰ったんだ?」


「オークよ」


「オークが?」


「そう」


「共食いかよ。――お? オーク・ガード?」


「重装備したオークが進化したの」


「使えるのか?」


 ただでさえ、のろまなオークが重装備なんてしたら、のろまに拍車がかかるのでは?


「それを確かめるためにアシェルに相手して貰いたかったの~、の~」


「なるほど」


 進化させたはいいが、使えるかどうかまではわからない。また、どんな短所長所があるのかも不明。そこで、俺に実際に戦って評価して欲しい、とそういう話か。


「忙しい?」


「忙しくはない」


 暇つぶしにアリッサ達のレベリングに茶々を入れているくらいだしな。

 しかし、面白くなってきたところだから、できればこのまま、――あっ、そうだ!


「それって俺じゃなくてもいいよな? アリッサたちにやらせてもいいよな?」


「あの子たちに評価できるとは思えないけど……」


「いや、俺が評価はする。しかし、戦うのはアリッサたちだ。アリッサたちは戦闘経験と魔力を得られ、俺は進化した奴らの性能を評価することができる、一石三鳥だろ?」


「欲張りすぎて効率が悪いと思うんだけど」


「まあとりあえずやってみるさ。――優先順位は?」


「最優先でゴブリン・アーマーが使えるかどうかを見て欲しいわ」


「どんなゴブリンなんだ?」


「オーク・ガードのゴブリンバージョン?」


「防御重視か。なるほど、オーク・ガードと役割が被るわけだ」


 軍勢がゴブリン一色なら有用な進化なのだろうが、多種多様な魔物で構成される俺の軍勢では、他種族に同じ役割の上位互換がいた場合はその限りではないからな。


「ゴブリン・トルーパーとの二択で決めかねているの~」


「名前からしてそっちもオーク・ライダーと被ってないか?」


「大型の魔獣にしか乗れないオーク・ライダーに対して、こっちは小型の魔獣にも乗れるから棲み分けはできているわ。それに……パックルのせいで、ちょっと処分しづらくて」


 珍しく語尾がしおしおとしおれる。


「パックルが何かしたのか?」


「どっちかというと、やらかした?」


「嫌な予感しかしないが、……わかった」


「じゃあお願いね! ね~!」


 チェルシーはそう言うと飛び去っていった。


 さて、どいつから使ってやろうか。

 とりあえずまずはゴブリン・アーマーだな。


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