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第30話 孤児強襲

 新装備のお披露目会はお開きとなり、

 予定通りロザリンドと一緒にレンブランの冒険者ギルドに向かう。


「あんたの軍勢で一つだけ褒められる点があるとするなら虫の魔物がいないことよね」


 途中、ロザリンドが出し抜けにそんなことを言った。


「あと、不死者がいないことも評価が高いわ」


「ハクア大森林に不死者はいなかったからな」


 死んでも蘇る不死者は魔獣に大人気の御馳走だ。

 なぜか?

 死んでも蘇るから、腹に収めている限りは、ず~っと飯を食えなくても済むからだ。


 そのため、ハクア大森林でも不死者は発生するのだろうが、発生した側から魔獣の腹に収まるため、軍勢に加えるチャンスがなかったのだ。


「虫の魔物はいたでしょ?」


「いたね」


「昆虫系の魔物はかなり強力なはずだけど……軍勢に加えなかったのは、なぜ?」


「まったく加えなかったわけじゃない。戦闘用と布防具生産用にアラクネを何体か加えているが……他は、ちょっとな」


「手っ取り早く軍勢を強化するなら昆虫系の魔物は必須じゃない?」


「うむ、それはそうなんだが……」


 多産のため手軽に数が揃う上、生まれながらにして頑強な甲殻や羽、顎や角、針などを持っている昆虫系の魔物は1匹1匹が有能な戦士であることは間違いない。

 俺だって蜘蛛じゃなくてカブトムシやクワガタの魔物を軍勢に加えたかったさ。

 しかし、ダメなのだ。何故なら――


「だって、あいつら、ほら――」


「ん?」


「――妖精を喰うから」


 主食に、あるいはおやつ感覚で。頭からぼりぼりと。

 そのため、一時期、妖精を取るか、昆虫系の魔物を取るかで揉めたことがある。

 昆虫系の魔物を軍勢に加えるなら妖精一同は出奔するとまでチェルシーに言われたのだ。


 男の子として昆虫系の魔物は惜しかったが、チェルシーたち妖精がいないとヴィオラ浮遊諸島は立ち行かない以上、選択肢などないに等しかった。


 泣く泣く昆虫系の魔物を諦めるしかなかったのである。


「あ~……凄く納得。同じ籠に入れちゃダメね、それは」


「だろ?」




 途中、街に用事があるというハティとミミルを加え、《門》を抜けて路地裏に出る。


「――む?」


 と、妙な視線を感じた。


「何?」


 不意に足を止めた俺の横をすり抜け、ロザリンドが前に出る。


「どうしました?」


 ロザリンドに続いたハティが不思議そうに俺を振り返る。


「誰かいる」


 ハティほどの目利きに感づかれないとは……やるな!

 視線を入らせるとゴミ箱の影や暗がりにいくつかの光るものが瞬いた。

 それは視線そのもの……つまり何者かの眼だ。

 わずかな敵意と、しかし殺意は感じない。敵か? 

 と、判断する間もなく、暗がりから何かが飛び出して、


「きゃ!」


 あっと言う間にロザリンドとハティを取り囲んだ。


 これがゴブリンだったら、あっという間にロザリンドとハティは身ぐるみを剥がされていることだろうが、幸い――といって良いのか、相手はゴブリンなどではなかった。


 相手は、薄汚いボロを纏った10歳にも満たないような子供だった。

 七人が七人、猫獣人の子供なのか、猫っぽい耳と尻尾を生やしているが、その毛並みはさまざまで、三人は姉妹なのか茶トラで、他は茶白、黒、黒白、三毛と節操がない。

 顔立ちがどこか似ているから、ひょっとしたら七人姉妹なのかも。


「なぁなぁ、小遣いくれよ」


 茶白の子がロザリンドの袖を引っ張ってそう言うと、一斉に「くれよくれよ」の大合唱。中には、手癖が悪くロザリンドのポケットに手を突っ込む奴やローブのスカートをめくるやるまでいる。……グッジョブ! いや、そうじゃない。


「はいはい、わかったから!」


 俺だったら問答無用で引っぺがすものだが、流石に一児の母であるロザリンドは小さな子供を見捨てられないと見えて、財布を出して銅貨一枚一枚を配る。


 猫獣人の子供は銅貨一枚を貰うと満面の笑みを浮かべて感謝して去って行った。

 ……なんてことは、ただの夢物語だった。


 銅貨一枚を貰うと、さらに一枚を催促し、貰えないとなると、ついにはロザリンドの手からサイフを強奪しようとしたのだ。


 流石のロザリンドも慈愛よりも怒りが勝ったのか、奪われる前にサイフをしまうと、さっさと俺の背中に退避してきた。


 ちなみにハティは身ぐるみ剥がされそうになるのを必死に抵抗している。

 例の馬鹿力も、流石に子供相手では発揮できないようだ。


 さらにちなむとミミルは子供たちが出てきた時点で俺を盾にして隠れている。

 お尋ね者生活が長かったための癖か何かだろうか? まあいいけど。


「なんて貪欲な子供たち!」


 ロザリンドの怒り半分呆れ半分のひと言に、激しく同意だ。


「このままじゃ尻の毛までむしり取られそうだ!」


「んまっ、下品っ!」


「さっさとずらかろう! ハティ、逃げるぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 忘れずに《門》を閉じ、路地裏から逃げ出す。

 遅れて、ずり落ちたスカートアーマーを必死に抑えながらハティが追ってくる。


「大丈夫か?」


 ぜぇぜぇとハティは荒く息をつき、


「パンツを死守していたらサイフを奪われました」


 恐るべし陽動作戦!?

 しかし、ハティのパンツにいかほどの価値が?


「いくら入っていたんだ?」


「銅貨五枚くらいです」


「取り戻してこようか?」


「いえ、放っておきましょう。関わり合いになりたくないです」


「お前さんがいいならいいけど、……本当に?」


「靴の中にまだ金貨を三枚ほど隠してあるので問題ないです」


「……よくかつあげに遭う人かな?」


「治安の悪そうな街を歩くには必須のテクニックですよ」


「左様か」


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