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第29話 リッシュ武具

「クランとして有名になるには、もちろん実力も必要だけど、やっぱり装備も他よりも一線を画す必要があると思うのよ」


 ロザリンドの含蓄のあるお言葉に、適当に「なるほど」と答える。

 それよりもリッシュのテーブルに広げられた様々な物品だ。

 見たところ普通の武器防具ばかりで変わったものはなさそうだが。


「何か新発明があるのか?」


「残念ながらまだないっす。ここにあるのは前にうちが作ったものを、ここの素材でアップデートしたものっす」


「プレゼンよろ」


「任されたっす。まずはこれを見て欲しいっす」


 まずリッシュが取り出したのは剣の柄だ。


「クロームスライムを組み込んでみたっす」


「スライムを?」


 女性陣の顔が一気に曇る。

 スライムと聞いてあのヌメヌメとドロドロを思い起こしたのだろう。

 女性は生理的にスライムのヌメヌメとドロドロが苦手と聞くからな。

 ……まあ男の俺でもちょっと遠慮したいものではあるが。


「思念振動で自在に姿を変えるスライムの特性を利用して、柄の部分に思念振動を擬似的に発止させる装置を組み込んだっす。この柄のところダイヤルをチちょいと回すと」


 ぶぅん、と虫の羽音のような音を鳴らして柄から剣身が飛び出す。

 一同から、おお~、と感嘆の声。


「も一つ回すと」


 ぶぅん、と羽音のような音を鳴らして剣身は両刃の斧となった。


「長さも自由自在っす。おまけに鋼以上の硬度で、欠けても曲がっても折れても、一度、柄に引っ込めてからまた出せば元通りになるっす」


「おお! 便利~!」


「同じ理屈で防具も作ってみたっす」


 何の意匠もない地味な籠手と長方形の大盾をテーブルに広げてみせる。


「飛ぶのか?」


「残念ながら飛ばないっす」


 リッシュはそう言うと自分の腕に籠手をはめた。


「代わりに盾がでるっす!」


 ぶぉん、と例の音を鳴らして籠手から半透明の円形の盾が展開される。

 一同、おお~、とこれまた感嘆の声。


「大きさも自由自在、属性耐性もばっちりっす。スライムが殺意を感知してくれるから、咄嗟の時は操作しなくてもかざすだけで盾が展開されるっす」


 試しに殺意を向けてみた。

 一度は引っ込んだ盾が、ぶぉん、とまた展開される。

 殺意を引っ込めると、自動で収納され、また殺意を向けると、ぶぉん。

 なかなか敏感に反応するな……殺意検知器として使っても良いかも。


「ただ、大きくしすぎると脆くなるっす。反対に、小さくすると丈夫になるっす。あと、かちかちとぷるんぷるんの二パターンが選べるっす」


「どう違うんだよ?」


「かちかちはめっちゃ硬くなるっす。ぷるんぷるんはゴムみたいになるっす」


「いまいち用途がわからんのだが?」


「ぷるんぷるんはあらゆる攻撃の衝撃を吸収してくれるっす。だから、打撃とかの重い攻撃に効果があるっす。でも、鋭い攻撃を喰らうと突き破られちゃうっすから、そういうときはかちかちにするっす。衝撃を跳ね返して相手にダメージを与えることができるっす」


 使い分けが難しそうだが……まあ相手の得物を見て使い分ければ良いか。

 剣ならかちかち、鈍器ならぷるんぷるん、って感じにな。


「次は?」


「盾っす」


 見りゃわかる、という突っ込みは野暮だろうか? 見たところ何の変哲もない盾だ。


「棘が飛び出るっす」


 リッシュは盾を手に取り、その重さによろめきながら何とか構える。そして、内側で何かすると、じゃきんっ! と盾表面から円錐状の突起が無数に突き出した。


「あと、棘は飛ぶっす」


 流石にここでは飛ばさずに棘を引っ込める。


「だけ?」と、これはハティ。


「飛んでいった棘は時間をおくと盾に戻ってくるっす。クロームスライムっすから」


「いや、そうじゃなくて……なんか、もっとないのですか?」


「何かリクエストがあるっすか?」


「棘と言わず杭が飛び出るようにしましょう!」


「杭、っすか?」


 首を傾げるリッシュ。俺も同じ思いだ。

 盾を使ったことがないから「杭」の必要性がいまいちピンとこないのだ。


「地面に打ち込むことで重量級の攻撃にも耐えられますし、いざというときには必殺の一撃にもなります! ぜひ、杭が飛び出るようにしましょう!」


 熱弁を振るうハティに、リッシュは気圧されたように頷く。


「機構自体は単純なので組み込んでおくっす。――他に必要な方は?」


 女性陣を順々に見渡す。


「あたしらはこの籠手で十分だよ。そんな大きな盾は使いこなせないからね。強いて言うなら籠手に暗器の一つでも仕込んでてくれれば、武器を失ったときに助かるかね」


 アリッサのひと言に、シャロン、タバサが、うんうんと頷く。


「了解したっす。そうなると、これはハティのお嬢専用っすね」


「よろしくお願いします!」


「任されたっす。次で最後っす。自信作っすよ」


 じゃらんっ、と鎖帷子に似た防具をテーブルに広げて見せた。


「オーガスーツっす」


「「オーガスーツ?」」


 期せずして女性陣の声が重なった。


「オーガを喰ったブラッドスライムを繊維状にして編み込んだっす」


「それは、つまり……鎖帷子の形をしたブラッドスライムってことか?」


「間違いではないっす」


「すまん、意味がわからん……それに、どんな意味が?」


「オーガを喰らったことでオーガの筋肉を再現できるっす。つまり……これを着て、ちょちょいと操作するだけでオーガの剛力を得ることができるっすよ!」


「「「……」」」


 凄い! とは俺は思うが……女性陣からは何やら気まずい沈黙が。


「どうしたっすか?」


 反応が気になったのか、リッシュが不安そうに問いかけた。


「スライムを着るのは、ちょっと……悪いが、スライムに嬲られて喜ぶような性癖は持ち合わせていないもんでね」


 女性陣を代表してアリッサが言った。

 他の女性陣は苦笑い。


「完全に制御しているから嬲られる心配はないっすよ?」


 そういう問題じゃない、と俺でもわかるが、リッシュは無邪気に首を傾げるばかりだ。

 どうして微妙な反応しか返ってこないのか、本気でわかっていないのだろう。


 何て事はない。リッシュは「オーガの筋力を得られる」というメリットに浮かれているが、他の女性陣は「スライムを着る」というデメリットに引きつっているのだ。


 種族特有の感覚の違いか、あるいは施験者と被験者という立場の違いか。

 どうにも両者の間には絶望的な隔たりがあるように感じられる。


「これを着れば女性冒険者でも、男性冒険者に身体能力で後れを取ることはないっす! いやいや、凌駕するとっても過言はないっす」


 さらにリッシュは熱烈にプレゼンするが、女性陣の反応は余計に冷え冷えするばかりだ。


「一応、ありがたくもらっておくよ」


「是非使って、感想を聞かせて欲しいっす」


「善処するよ」


 アリッサは引きつった笑みでオーガスーツを受け取った。

 ……絶対使わないな、こいつ。


「量産するので必要数を教えて欲しいっす」


「リッシュ」


 無残な沈黙が横たわる前に、俺はリッシュに声を掛けた。


「――はい?」


「オーガスーツの防御能力はどんな感じなんだ?」


 オーガの筋肉を再現するくらいだ、そんじょそこらの鎧よりは遙かに強靱であることは予想はつく。では、敢えてそう問いかけたのは、なぜか? 


 簡単だ。「スライムを着る」というデメリットで不採用にするには、リッシュの発明はまりに勿体ないからだ。あと、サタナキアを退治するという大志があるのに、メリットを捨てて、この程度のデメリットさえ容認できないアリッサへの嫌がらせ。


「軽くて硬くて柔らかいっす。防御能力も、運動性能も抜群っす」


「それは素晴らしい! なら、人種族全員が装備すべきだな!」


 俺の一声に、一斉に女性陣から嫌悪と殺気が溢れ出す。


「う、うちの発明品をみんなが装備してくれるっすか?!」


「もちろんだ! ――なっ!」


 ハティに問いかけた。

 問いかけられたハティは苦笑い。感激にキラキラと目を輝かせるリッシュを前に、お前は果たして非情になれるか? くくくっ、なれまい?


「も、もちろんです! 素晴らしい装備品はみんなで装備すべきです! ロザリンド姐さんもそう思いますよね! ね!」


 おっ、とこれは思わぬ飛び火だ。


「も、もちろんよ! 魔法使いでも装備できるなんて大助かり! これで身体能力も上がるのなら装備しないという選択肢はないわ。まして戦士系ジョブには必須じゃなくて?」


 回り回ってアリッサに白羽の矢が立った。


「と、とうぜんさ! 姐さんみたいなベテランが必要とするのに、ペーペーに毛が生えた程度のあたし等がいらないなんてことはあり得ないさ。是非、装備させて貰うよ!」


 引きつった笑みは変わらないが、その言葉に嘘はなさそうだ。


「うち、うちの発明品が認められるなんて……感激っす!」


「よかったな、リッシュ」


「旦那~、ここに連れてきてくれたありがとうっす! 旦那のためにうちはもっとがんばるっす!」


「おう、がんばれがんばれ!」


 こうしてリッシュ肝いりのオーガスーツは人種族全員の必須装備となった。


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