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第28話 順位戦

 朝になってから道中に置きっぱなしだったアリッサたちの馬車をヴィオラ島に回収し、俺自身は《メズルカンの具足》で、走ってレンブランの街に向かう。


 で、走って30分ほどでレンブランの街に到着。

 何日か掛けてラヘルの街からやってきた旅人を装い、正門から街に入る。

 石造りの街並みは、近場と言うこともありラベルの街とそう変わらない。


 門番さんから聞いた冒険者ギルドの場所に向かう途中で手頃な路地に入る。

 人がいないことを確認してから《門》を召喚。

 イービルアイに門番を任せて「煤闇の世界」に戻る。


 ロザリンドは~、いない。

 レンブランの街に着いたら一緒に冒険者ギルドに行くから、呼びに来るように言われていたのに、……むぅ、どこにいない。化粧でもしているのだろうか?

 とりあえず人食堂に向かう。


「――おん?」


 人食堂に入ると、先客が一斉に俺を振り返る。

 珍しい。

 飯時でもないのに人食堂のテーブルには、ひぃ、ふぅ、みぃ……、と結構な人がいた。

 具体的には、アリッサ、シャロン、タバサ、アリアンの新参四人に、チェルシー、ロザリンド、ハティ、ミミル、――おっ、これは珍しい、リッシュまでいるじゃないか。


「お揃いで何か悪巧みか?」


 ミミルが寄ってきて注文を取る。

 なにやら立て込んでそうなので時間つぶしも兼ねて果実水を注文した。


「もうちょっと来るのが遅かったら呼びに行こうと思ってたところよ」


 チェルシーが飛んできて、俺の頭に止まる。


「俺に用事か?」


 チェルシーが答えるより先に、アリッサがやってきて俺の目の前の席に座った。


「ちょっといいかい?」


 否が応でも目の前に席に座っておいて何を言うのか。……まあいい。


「何だ?」


「順位戦に参加したい」


「順位戦?」


 思わず「順位戦って何だっけ?」と考えてしまった。

 アリッサの口からまさかその単語が出るとは思っていなかったからだ。


「なぜ?」


「もちろん、強くなるためさ」


「チェルシーから色々貰ったんじゃないのか?」


「貰ったが、……情けない話、今のあたしらには使いこなせないからさ」


「本当に情けない話だな」


 ミミルが運んできた果実水を一口口に含む。

 ……むぅ、すっぱい。柑橘系か?

 顔を上げると、アリッサまで酸っぱい顔をしていてた。


「何をくれてやったんだ?」


 ハティが物欲しそうにしていたので果実水を譲り、チェルシーに問いかける。


「最初期に作った魔装と魔法をいくつかよ~」


「なるほど、魔力不足か……」


 覚えのある経験だ。

 初めてギブ・モアが作り出した魔法を使ったときが、まさにそうだった。しかし、最初期の魔装と魔法は、村人の俺でも使えるように魔力消費抑えめの設計だったはずだが……。


「アレを使いこなせないって……ヘボすぎだろ」


「ぐっ! そんなことは重々承知しているよ! だから、順位戦に参加したいんだ!」


「順位戦ねぇ~」


 人が強くなるためには、おおよそ二つの方法がある。


 ひとつは、修練。ただひたすらに体を鍛え、技を磨く、一般的な方法だ。


 もうひとつは、魔力の吸収。魔力を帯びた生き物を殺すことで、その魔力を奪い取り、身体的、精神的に強くなる方法だ。溜め込んだ魔力の総量によって様々な能力が強化され、新たなスキルが開花することもあるため、修練よりも短時間、かつ確実に強くなることができる。


 アリッサはまず間違いなく後者の方法で強くなろうというのだろう。


 ヴィオラ大森林なら魔物に事欠かないからな。

 探す手間がない分、外で依頼をこなすより効率よく魔物を倒せて強くなれるというわけだ。


 ちなみに魔力総量に差がありすぎると、格下をいくら倒したところで魔力を吸収することができなくなるので、強くなるためには常に同格か、格上を倒す必要があるわけだが。


 ……まあアリッサレベルならうちの雑魚でも十分に強くなれるだろう。

 だが、しかしだ!


「却下だ。順位戦は、軍勢の強化のためにやってるんだ」


「だ、だから?」


「弱い奴が淘汰され、強い奴がより強くなるから順位戦はやる価値があるのに、軍勢に参加しないお前に狩られまくったら、ただ軍勢の数を減らすだけになるじゃないか」


「ゴブリンやオークくらいいいだろ? なんならスライムでもいいんだよ?」


「ダ~メ! あと、スライム舐めすぎ」


 意地悪言っているように聞こえるかもしれないが、実際はそうではない。

 俺だってできることならアリッサたちのレベルアップに協力してやりたい。

 しかし、しかしだ!

 今残っているゴブリンとオークは、あのロザリンドの虐殺を生き抜いた精鋭なのだ。

 ロザリンドが虐殺する前だったら、ゴブリンの100匹くらい生け贄にしても痛くも痒くもなかったが、今のゴブリンを失うのはあまりに手痛い。それこそ軍勢が傾くレベルで。


「そう言うと思って順位戦の新しいルールを考えていたのよ」


 俺の額にパタパタした足をぶつけながら、チェルシーが言った。


「……どんなルールだ?」


「降参制を導入するの。降参した魔物は総魔力量の二割を相手に譲渡するのよ」


「あん? 前からなかったっけか?」


 主に、上位の魔物同士の戦いでは双方共に死ぬまで戦わず、大勢が決したら「降参」か「逃走」で勝敗をつけていたと思うが。どっちが死んでも軍勢にとっては大打撃だからな。


「暗黙のルールとしてはね。今回、正式に採用しようと思って」


 ……あ、暗黙のルールだったのか。

 流石、上位の魔物は上手いことやるものだ。


「どう?」


「何点か気になるところがある」


「――何?」


「下位の魔物にうま味がない」


 殺せば十割、だが降参されたら二割の魔力しか貰えないのだ。

 これでは下位の魔物は、いつまでたっても下位のままだ。


 上位に「降参」が受け入れられた一方で、下位に「降参」が受け入れられなかったのは、十中八九、このせいだろう。


 上位はそのままの順位を維持すれば良いのに対して、下位は上位との差を縮めるために、何が何でも魔力による強化が必須だからだ。


「下位が育たないと上位も育たない。長い目で見ると、軍勢の弱体化に繋がるのでは?」


「うぐっ……アシェルのくせに!」


「最高の褒め言葉だ。――降参はアリッサたちだけの特別ルールにすればいい」


「どういうこと? こと~?」


「アリッサが大勢の決した魔物パーティに降参を呼びかけるんだ。で、応じた魔物はアリッサたちに総魔力の二割を譲渡する、って感じでどうよ?」


「アリッサたちが負けちゃったら? 殺されちゃうわよ?」


「アリッサたちの殺害はなし。ただし、魔物流の歓待は覚悟してもらう」


「魔物流の歓待?」と、これはアリアン。


「ゴブリンに捕まった女冒険者がどうなるか、知らない訳じゃあるまい?」


 我ながらゲスなひと言に、女性陣の眼がナイフのような鋭い殺意に輝いた。


「降参すればすべてが許されるような生温い環境でいったい何が得られると?」


 構わずに続けると、多少が合点がいったのか、殺意の鋭さがペーパーナイフほどに和らぐ。


「随分、含蓄のあるお言葉ね」


 ロザリンドが揶揄するが、俺は鼻で笑って流した。


「経験者は語るってやつさ」


「ハクア大森林での実体験かしら?」


「その話は今必要ないだろ。――どうだ? 受けるか? 受けないか?」


「もちろん、受けるさ!」


 威勢の良い返事だ。


「聞き分けのいいことで。しかし、俺のお下がりが使えないとなると、遅かれ早かれ、お前らはゴブリンどもの孕み腹にされれてしまうわけだが?」


「そこでうちの出番ってわけっす」


 リッシュがしゃしゃり出る。


「ああ、ロザリンド、こいつがリッシュだ」


 今さらながらに紹介するが、今さらながらなので反応は薄かった。


「知ってるわよ、わたしが呼んでもらったんだもの」


 クラン設立のための頭数には入っているが……名前を貸して貰えば良いだけなので、実際はリッシュ本人は必要ない。だから、何のために? と思ったものだ。愚問だった。


 リッシュのテーブルに広げられている品々が、リッシュの必要性を代弁していた。


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