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第27話 クラン?

「クランって言うのは、簡単に言えば小さな冒険者ギルドのことよ」


 お義姉さんが教えてくれた。


 ちなみに人食堂に残っているのは、俺とお義姉さん、あとはもともとここを職場としているカランチョとミミルくらいだ。


 アリッサたちはチェルシーに連れられてヴリトラ島に向かい、ハティはヴィオラ大森林に戻った。


 アリッサたちがヴリトラ島に向かったのは、チェルシーが見繕った俺のお下がりを試すためだが、はて? ハティは何をしに森に行ったのだろうか?


 去り際に、ハティに聞いてみたところ不敵な答えが返ってきた。


「わたしがただのチビでないことをわからせているのです」


 ……どうやら前に「背が低いと魔物に舐められる」と話したことを気にしているらしい。

 ハティには軍団を率いて貰いたかったから、こっちとしては願ったり叶ったりだが。


「聞いてる?」


「もちろんだ」


 俺のお気に入りに手を出していなければいいが、……まあ見ただけでそれなりに実力を見極めることができるようだから、あいつに限ってはそんなヘマはしないか。


「続けるわよ?」


「どうぞ」


 ずずずっ、とお茶を啜る。


「いくつもの冒険者パーティが同じ目的のために集まって結成されたものが大半で、パーティよりも多くの人員が使える都合上、より大規模な依頼を受けることができるわ」


「大規模な依頼?」


「ダンジョン探索や魔物の群単位での討伐とかよ」


「さっきの小さな冒険者ギルドとは?」


「冒険者ギルドを介せずに直接、依頼人から依頼を受けることができるの。あと、ギルドの依頼板に提示されないような高難易度の依頼を受けることができるようになるわ」


「なるほど、だからクランか?」


「そういうこと」


 クランを結成すれば、一冒険者、一パーティでは受けられないような高難易度の依頼を受けられるようになる。ましてや魔族絡みの依頼となれば必然、難易度は跳ね上がるだろうから、クランでなければ受注させできなかった、というわけだ。


「で、これから何をすれば良い?」


 俺の問いに、ロザリンドは優雅にティーカップを傾けた。


「まずクラン結成のためには《鳶》級の冒険者が20人必要ね」


「いきなり頓挫したな」


「昇級については考えがあるから大丈夫よ。まずは頭数だけ揃えましょう」


「ふむ、俺とロザリンド、ハティ、あとは、アリッサ、シャロン、タバサ、アリアンの4人で、7人。残りは? ゴブリンにでも仮装させるか?」


「バレたときのリスクが破滅レベルだからできれば正攻法でいきたいわね」


「じゃあ、どうする?」


「とりあえず魔物以外で何人くらい見積もってる?」


「そうだな……さっきの7人に加えて,5人で、全部12人だ」


「わたしの見積もりよりも何人か多いわね。……誰?」


「ルー・ルーだろ? ラティン、カティン、コティンのドワーフ3姉妹に――」


 他のドワーフの女衆に声を掛ければ何人かは協力してくれるかもだが、あいつらは預かっているだけなので除外。危ない目なんて遭わせたら、ドワーフの男衆に申し訳ない。一方で、ラティンたち3姉妹は俺所有の奴隷なので遠慮なく頭数に加えさせて貰った。


「――あとはリッシュだな」


 戦闘向きじゃないが、まあ頭数に入れるだけなら嫌とは言うまい。


「前に言ってた奴隷の子らね。なるほどなるほど、種族がドワーフだから戦闘も当てにできそうね。でも、リッシュって誰?」


「あん? 会ったことない? ヴリトラ島の倉庫を根城にしてるやつなんだが……」


「会ったことないわ」


「まじで?」


 ロザリンドが合流してから何日も経っているはずなのに、一度も会ったことがないとは。

 そう言えば、ここに連れてきて以来、姿を見ていないような……。


「ミミル~?」


「はい? ご注文ですか?」


 お盆を抱えてミミルが早足でやってきた。


「リッシュはここで飯を食ってるよな?」


「いえ、ご飯は食べているようですけど、ほとんど出前です」


 へ~、出前ってあるんだ、今度頼んで――いや、今はリッシュだ!


「ってことはずっとヴリトラ島の倉庫にいるのか?」


「どこにいるのかはわかりませんけど、多分、そうなんじゃないですか? ヴリトラ島勤務の妖精さんがよく出前を運んでくれるので」


「なるほど」


 ……あとで様子でも見に行ってみるか。


「あ、あの!」


「ん?」


 せっかく呼んだのだから、何か頼もうと注文票を手に取った、そのときだ。

 ミミルが意を決したように叫んだ。


「あ、あたしもクランに入れてください!」


「いいぞ」


 さて、何を頼もうかな~♪


「何を馬鹿なことを。年端もいかないあなたみたいな女の子が、――ん?」


「無理は承知です。でも、あたし冒険者になって世界中の食材を、――え?」


「「いいの?!」」


 ロザリンドとミミルの声が、奇しくもまるっと重なった。


「そう言っている。――小腹が空いたから何か軽めのものを頼む」


「わ、わかりました」


 ミミルはたったと厨房に向かう。

 ミミルが厨房に消えるのを見届けてから、ずずいとロザリンドは顔を寄せてきた。


「あんたねぇ……あんな小さな子に冒険はまだ無理よ!」


「問題ない。ちぃと魔法で見てみればわかる話だ」


「……」


 本当かしら? とでも言いたげな顔でロザリンドはぶつぶつと呪文を唱え、左手の人差し指と親指で輪っかを作った。そこに、ちょうど良いタイミングでミミルが戻ってくる。


「サンドイッチなら作れるそうです」


「ありがたい。そいつをいただこうか」


「わかりまし――」



「――なぁ!!」



「――な、ななななっ、なんなんですか?! 突然、大声なんか上げたりして!


「あっ、あはははは……なんでもな~い! なんでも!」


 ぎこちない愛想笑いを浮かべるロザリンドに、ミミルは首を傾げながら厨房に戻っていく。


「な?」


「なっ、なんなのよ、アレは!!」


 ひそひそと、しかし驚きのあまりか、声量を抑えきれない声で問い詰めてくる。


「そんじょそこらのオークよりよっほど強いじゃない!!」


「俺もさっき気がついた」


「どうなってるの?」


「きっとハクア大森林から持ってきた謎の木の実のせいだな」


 というか、それしか思いつかない。


「人食堂の料理には多かれ少なかれその木の実が使われているそうだから、まかないか何かでいつも食べていれば、ろくに戦闘をしなくてもあれくらいにはなるんだろうよ」


「……それ、あとで見せて貰っていい?」


「もちろんだ」


 と、話の切れ目を見計らったかのようにサンドイッチが運ばれてきた。

 ――ん?

 給仕のミミルはわかるが、何故かカランチョまでやってきた。

 サンドイッチの感想でも聞きに来たのだろうか?


「あの……」


「美味いぞ」


 喰う前に美味いもないが、見た目だけは十二分に美味そうなサンドイッチだ。

 一つ手に取って頬張る。……うん、味もちゃんと美味い!


「あ、ありがとうございます。それで、あの、ミミルを冒険者に、と聞いたのですが」


「何か問題が、――ああ、そういえば指名手配されてるんだっけ、お前さん」


「えぇ!? こんなパン工場でアンパン焼いてそうな顔なのに極悪人なの?!」


 ロザリンドの指摘に、カランチョは「なははは~」と愛想笑い。

 ……そこ、はっきり否定するところだと思うが。


「本人が言うには冤罪らしい」


「ええ、一料理人として自分の皿を貶めるような真似はいたしません。それで、ですね、ミミルを冒険者に、と言う話なのですが」


 おずおずと話し始めるカランチョ。

 ミミルが冒険者だと不味いような口ぶりだが……あっ! こいつはうっかりだ。 


「ああ、すまん。ちぃとばかし考えが足らなかったな。お前さんの知り合いに見つかったら不味いよな。ミミルを知っているかもだしな」


「いえ、そこは大丈夫だと思うのです。わたしが指名手配されたのはミミルが随分と幼かった頃ですので、成長した今のミミルを見て、わたしの娘とわかる人間はいないかと」


「そうか? じゃあなにが問題だ?」


「お誘いはありがたいのですが、皆さんの足を引っ張らないかと思いまして。うちの娘は包丁以外の刃物は持ったことがないものでして、はい」


「問題はないわ」と、これはロザリンド。


「ほ、本当ですか?」


 打てば響くようなロザリンドの答えに、気圧されたようにカランチョが問い返す。


「冒険は、準備五割、移動四割、戦闘一割で、準備が一番大事なの。ミミルのジョブは『見習い料理人』だから、準備の面で大いに役立ってくれると思うわ」


「ですが、戦闘になったら……その、ミミルはうっかりなところがありますから。この前も、発火した油に水と間違えてスライムをぶっかけまして、スライムをこんがりと――」


「おっ、お父ちゃん!」


 ミミルが恥ずかしそうに叫ぶ。

 くすっ、とロザリンドは珍しく相好を崩した。


「戦闘になったら後ろで荷物番でもしていればいいのよ」


「そ、それでいいんですか?!」


「もちろん。戦闘なんて得意な奴にやらせておけば良いの。だって料理人が腕を奮うのは戦場じゃないでしょ?」


「そ、そうですか……そうですね、……わかりました」


 まだ不安そうながら、ふぅ~、とカランチョは腹にためいた息を吐いた。


「ミミル、しっかりな。命大事に、皆さんのご迷惑にならないようにな」


「任せて、お父ちゃん。冒険者になって世界中の食材と料理法を探求して、いつかお父ちゃんを越える大料理人になってやるんだから!」


「それはそれで頼もしくもあり、寂しくもあるが……まあしっかり励みなさい」


「――うん!」


 こういうわけでミミルがクランに参加することになった。


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