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第24話 白い口の子

 朝


 昨夜のことで、特に何も言ってこないし、何もしてこない。

 ……しっかりと敵意を向けてくるが。

 奇妙にギクシャクとした空気で朝飯を食べてから出発。

 川辺に差し掛かったところでリザードマンの群を見つけた。


「アレだな、依頼の群というのは」


 アリッサの一言に、シャロンが馬車を止める。


「依頼?」


「……」


 何気なく問いかけただけなのにアリッサにぎろりと睨まれた。

 昨夜のことを根に持っているっぽい。

 俺的に正論だと思うんだけど……それが良くなかったかなぁ。


「レンブランの街の途中に生息しているリザードマンを何匹か狩ってくるように依頼を受けていたんだよ」


 ややあってから不機嫌を隠そうともせずにそう教えてくれた。


「群を襲うのは止めた方が良いぞ? ゴブリンの群を相手にするのとは訳が違うからな。狙うのならはぐれた奴を――」


「……あたしらのパーティに入ってくれるのかい?」


「何の関係が?」


「入ってくれないのなら余計は口出しは止めておくれ!」


 アリッサはそう言い捨てると荷台から飛び出した。

 シャロン、タバサがそれに続く。


「あっ、お姉ちゃん!」


 遅れてアリアンも。


「じゃじゃ馬めっ!」


 外に出ると、アリッサが馬鹿正直に群を正面から強襲するのが見えた。

 迎撃に出た一匹に手こずり、あっという間に半包囲される。


「言わんこっちゃない!」


 リザードマンは普通に強い。おまけに普通に頭が良い。ヴィオラ島の環境が合わなかったため置いてきたが、ハクア大森林に生息していたグランド・リザードがそうだった。


 見たところ、まだ進化もしていないリザードマンの初期種族のようだ。

 身長は170センチを超え、ひょろりとしながらもしっかりと筋肉が隆起している。

 鎧いらずの鱗はギラギラと輝き、手には粗末ながらも槍や斧を装備している。

 石器じゃないところを見ると、冒険者の忘れ物か? もしくは形見かな? 

 まあどうひいき目に見てもゴブリンよりも弱いと言うことはあるまい。


「あれ? あれ? リザードマンじゃない? じゃない~?」


 ……む、ちょうど良いところにチェルシーが来た。


「なんとかしてくれ」


「どっちを?」


「どっちも」


「なら、オークライダーの出番ね。群ごとリザードマンをかっさらっちゃおう!」


「名案だ」


 オークライダーを召喚し、指揮権をチェルシーに委ねる。


「……ん?」


「どうしたの? の?」


「妙な気配が……」


 オークライダーの気配に、何かが、誰かが反応した?


 ちなみに俺の気配は本気を出さない限りは人のそれと大差ない。

 街で本気だしたら心臓の弱い奴なんかは死んじゃうからな。

 パールウルフのときのように俺の体に染み付いた強大な魔獣な匂いを直に嗅がない限りは、よほど感覚の優れた奴でなければ察知されることはない。


「ちょっと行ってくる」


「わかった~」


 確か、川上の方だな。

 川沿いを移動する。

 何分か移動すると、川沿いの小山にたどり着く。

 小山の麓には粗末な掘っ立て小屋が軒を並べている。

 ……ここがリザードマンの集落か?

 小山の中腹に洞窟があった。入ってみよう。


「もしも~し?」


 真っ暗闇にうっすらと白い何かが浮かび、俺の声にびくん、と動く。


「誰か居るのか?」


 白い何かに、赤い小さな光が浮かぶ。


「誰?」


 野太い声が洞窟に幾重に反響して届く。


「お前こそ誰だ? 俺はアシェルだ」


「白い口の子と呼ばれている」


「変な名前!」


「――ひぃ!」


 特に何かをしたつもりはないのだが……なんでびびった?


「出てこい、話をしよう」


「い、いやだ、話すこと何てない!」


「こっちにはある。出てこなければ引っ張り出す」


 ざりっ、と踏み出した一歩が洞窟の砂利を踏みしめる。


「わ、わかった……い、今行く」


 ずぅん、ずぅん、ずぅん、と鈍重な足音を鳴らして何かが近づいてくる。

 やがて洞窟の入り口から差し込む明かりに照らし出されたのは……。


「お、お前は……」


 ワニだ。ただし、ただのワニではない。

 2本の後ろ足で、何の不自由もなく直立し、そして当然のように歩行するワニ。


「アリゲーター?」


 俺の知識で言い当てるのならその種族名がもっとも近しいだろうか。

 ……もっとも、自信はないが。

 何故なら、俺は知らないからだ。

 白い鱗を全身に生やし、巨人と見間違うほどに巨大なアリゲーターなど。


「違う。白い口の子はリザードマン」


「どう見たってアリゲーターなんだが……祝福種ってやつか?」


 祝福種とは、同族でありながら、他よりも肉体的にも知能的にも秀でて生まれてくる個体のことだ。最近の例を挙げるならホブゴブリンがまさにそれで、秀でた能力は創造神の「祝福」と見なされることから、そのような個体は「祝福種」と呼ばれるのだ。


「違う。白い口の子はリザードマン。他より白くて、他より口が大きくて、他より体が大きいだけのリザードマン」


 頑なにリザードマンであることを出張するが、流石の俺でもワニとトカゲの見分けくらいつく。

 大方、アリゲータの卵が何らかの要因でリザードマンの卵に混じり、そのままふ化してリザードマンとして育てられた、とかだろうか? 

 そうでなければリザードマンの群にアリゲーターが混じっている訳がない。


 水辺という生息域が被るため、本来ならリザードマンとアリゲーターは血で血を洗う縄張り争いをするような関係だからだ。


 ちなみにハクア大森林にもアリゲーターは生息していたが、アギオンに服従を誓わなかったため、年老いた1匹を残して皆殺しにされた。


 なかなかの知恵者であったので本当は軍勢に加わった貰いたかったのだが、老い先短く、死ぬなら故郷で死にたいというのでおいてきた。


「……まあいい」


 こいつがリザードマンだろうとアリゲーターだろうと些末な問題だ。


「お前、俺の配下に加われよ?」


「嫌だ」


「お前の仲間も加わるのに?」


「……本当か?」


「これからだが逆らえはしない」


 ちょっとの戦力提供で衣食住が保障され、気まぐれに冒険者から狙われる日々から抜け出せるのだ。逆らう理由がない。


「わかった。旦那さんは恐ろしい人だから、旦那さんに従う」


「ほぉ、それがわかるとはますます気に入った。これからはガミジンと名乗れ。白い口の子も悪くないが、リザードマン以外の種族には間抜けに響くからな。舐められる」


「舐められるのは嫌だ。ガミジン、俺、ガミジン」


「よし!」


 交渉は上手くいった。

 とりあえず《門》を召喚する。


「先に戻っていろ。行儀良くな。ちゃんと挨拶するんだぞ?」


「わかった」


 のそのそと《門》に消えるガミジン。


「あとはオークライダーの回収だな、……うん?」


 ずぅんずぅん、とガミジンが戻ってきた。


「どうした?」


「飼えない、……言われた」


「は? 誰に?」


「燃える髪の人。凄く、怖い人」


「お義姉さんか……」


 ごきゅん、と喉が鳴る。

 お義姉さんか……怖いなぁ、怖いけど!


「よ、よし! 俺についてこい!」




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