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第23話 2日目 夜

 夜。


 交代までのわずかな時間を仮眠に当てていると、俺の毛布がもぞもぞと動き出した。

 チェルシーかな? と思っていただけに面食らった。

 アリッサだ。俺と毛布との間に忍び込み、顔を出したのはアリッサだった。


「交代か?」


「いいや、まだそんな時間じゃないよ」


 アリッサが俺の上で起き上がる。必然、毛布がはだけて……俺は息を呑んだ。

 アリッサは裸だった。大きくはないが、形の良い双丘が丸見えだ。


「寝る場所を間違えているようだが?」


「いいや、間違えちゃいないよ。今夜はあんたの上で寝ることにしたんだ」


 カチャカチャと金属音が響く。どこから? と思いきや俺のベルトからだ。

 慣れた手つきでアリッサが俺のベルトを外そうとしていた。


「随分と慣れているんだな?」


「冒険だけじゃ喰っていけないからね」


「たくましいことで」


 アリッサを押しのけ、起き上がる。

 驚いたことに、アリッサは真っ裸だった。

 焚き火を受け、白い肌が緋色に輝いている。


「あたしが相手じゃ不服かい? なら、タバサやシャロン相手ならどうだい?」


「あの二人まで? まさかアリアンも?」


「いいや、あの子は何も知らない。汚れるのはあたしたちだけで十分だからね」


「何が目的だ?」


 女の夜這いには裏がある。

 ただの性欲によるものなら良いが、多くは打算込み。好き好きは二の次の次。

 うっかりその春を買おうものなら、買値の倍は何かを失うことを覚悟すべき。

 ……って今は亡き叔父さんが言ってた。

 叔父さんの教えを守り、据え膳は勿体ないが、ここは我慢我慢。


「あんた、あたしらのパーティに入りなよ」


「何のために?」


「あたしたちはとある魔族を追っている。そいつを見つけるにも、退治するにも人手は必要だろ? 有能な人材となれば尚更さ」


「とある魔族ねぇ……聞かせろよ」


「あたしより魔族の方に興味があるとは心外だね!」


「その気になったら抱いてやる」


「ふんっ、お高くとまって! ……よくあるつまらない話さ。そいつにあたしらの村が襲われたんだ」


「あ~、村を壊滅されたから復讐とかか?」


 ……本当につまらない話だな。


「違う。それならまだちょっとはマシさ」


「……続けろ」


「あるとき、四体の魔族が村を襲った。一体は抵抗した村人を惨殺するだけで満足したいが、残りの三体は実験と称して村人から様々なものを奪っていった」


「様々、とは?」


 魔族が村人を相手に欲するものなど、金や穀物などのありきたりの物ではあるまい。


「ある者は怒りを奪われ、またある者は悲しみを、喜びを、執着を奪われたものもいた。シャロンも、タバサも、アリアンも例外じゃない」


「お前は? 貞操観念か?」


「茶化すな! あたしは……運良く狩りに出ていて、村に戻った頃にはすべてが終わった後だった。シャロンはすべての感情を奪われ、村一番の才女と謳われたタバサは叡智を奪われた。そして、アリアンは寿命の大半を奪われた。十五まで生きられないそうだ」


「マジで?」


「その魔族が言うには実験なのだそうだ。『人が多くの発見や発明をするのは、定命であるが故に生き急いだ結果であろう。ならば、より短き命ならば何を為すのか。我が輩の興味は尽きぬ』……そう言ってアリアンから多くの寿命を奪ったのだそうだ」


「……なかなか、重たい話だな」


「なあ、パーティに入っておくれよ」


 さきほどまでの差し迫った声から一転、甘えるような、媚びるような声。

 用件がパーティ加入でなければ、ころっといってしまいそうだ。


「俺はただの村人だ。余所を当たれ」


「あんた、とんだ狸だね。見てたんだよ? 昨夜、あんたがひとりでゴブリンの群を壊滅させるところを。それに昼間だって一睨みでガルムを追い払っていたそうじゃないか!」


「――チッ!」


 ……やっぱ見られていたか。


「パーティに入ってくれるなら、あたしを好きにしていい。あたしだけで不満ならシャロンとタバサもつける。どうだい? ただ村人をやるよりも悪い話じゃないだろ?」


「その魔族には興味はあるが、そいつにかまけていられるほど俺は暇じゃない」


「……あたしはアリアンには幸せになって貰いたいんだ。魔族を倒して寿命を取り戻したら、パーティで稼いだ金で爵位を買ってやってさ。どっかの気の優しい貴族のボンボンの嫁にでもなって何不自由なく暮らして貰えれば、ただそれだけでいいんだよ」


「そのとき、お前はどうしてる?」


「さてね。冒険者にはお似合いの最後を迎えるか、男に使い潰されて路地裏で野垂れ死ぬか。ろくな最後を迎えないと思うよ。まあアリアンが幸せなら、それで――」


「ダメだな」


「――何言ってるのさ?」


「アリアンの幸せには、お前の幸せも含まれているんだ」


 昼間見た光景が思い出される。

 アリッサの怒りは、アリアンの怒りだった。

 アリッサの喜びは、アリアンの喜びでもあった。

 ――ならば!


「アリアンの幸せが、お前さんの幸せであるようにだ、お前さんの幸せは、アリアンの幸せなのではなかろうか?」


「――っ!」


 思いっきり睨み付けられた。

 刃物でも持っていたら何の躊躇いもなしに刺されそうな殺意さえ感じる。

 ……まあ女の細腕でどうにかなる俺ではないが。


「あんたに何がわかる!」


 蹴り飛ばされる。……うぐっ、前言撤回。普通に痛かった。


「知ったような口を利くんじゃないよ!」


 肩を怒らせ、大股で歩き去って行く

 ……うん、いい尻だ。

 据え膳だけでも食っとけば良かったかな?


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